4.文化発表会④
ラティエースの方針は上級生にもおおむね歓迎され、「どうせ文化発表会の後、2か月登校してその後は自由登校。それで卒業だ」ということで最後に生徒会に対して鼻を明かしたいという者が多かった。
下級生に対しては、自分の実力を大いに発揮しなさい、というに留めた。年上を揶揄え、と上級生である2年生から言うのは憚られたのと、下級生には「年下の子に目くじら立てるなんて大人げない」という建前が使えるだろう、とラティエースが判断したからであった。ちなみに、三年生が二年生のマクシミリアンを揶揄うという図式に関しては、目をつぶることにした。
しかし、学年にはある一定の「クソがき」属性の生徒が存在するものだ。よって、一部の生意気な下級生たちも参加するようだった。エレノアは即座に暴走のストッパー役であるクラスメイトを数名、お目付け役として派遣した。
「音楽が得意な生徒は、それぞれの得意な楽器、あと曲は、ピアノだったらブルグミュラー練習曲から適当に。却下されたらバイエルの曲で申請したらいい」
「それをアレンジするの?」
「いや、どうアレンジするんだよ。練習曲を」
とある女子生徒の疑問に、隣にいた男子生徒が首を振る。
「本番になって、違う曲を演奏すればいい」ラティエースはあっさり言った。「別に、優勝したいわけじゃないだろ?こんな低レベルな発表会で」と続ける。
「確かにそうよね。参加者が難しい曲を演奏して失格。で、ルールを守った練習曲を演奏した皇子の息のかかった生徒が優勝。これって、どっちが恥ずかしいかしら」
「勝負に負けて、試合に勝つってやつだね」とアマリアがにこにこしながら言った。
「歌も演奏もそういった感じで誤魔化す。リハーサルまで申請した曲を演奏ないし歌唱してほしい。あと、学術研究発表も、メインとは別に皇族・貴族のあまり表ざたにはしたくない歴史研究を取りまとめてほしい」
「貴族、もですか?」
「皇族ばっかり標的したら、それはそれで面倒そうだ」
「わかりました。お任せください!有志で結成したロザ歴史研究発表同好会がメインもサブも素晴らしいものに仕上げます!」
眼鏡をかけた男子生徒の一団、その代表が胸元に手をやって、自信ありげに言った。
「刺繍の得意な女子生徒は、遠慮せずに、細かーい、レース職人並みの作品を作ってくれて構わない」
こちらも生徒会役員の妹が刺繍を展示するとかで、刺繍が得意な女子生徒は作品を持ち寄ってバザーに参加しようとしたが却下されていた。しかし、こちらも講堂の発表と同じ要領で、菓子の販売と申請すれば通る。
「どうすんの?」
「うちのパパが出店を出すの。ルーデンスの出張出店もあるよ」
「そこの菓子とセットで売り出す」
ラティエースは守銭奴の目をして言った。
「えっ!えっ?ルーデンスとセット?」
「うん。うまくいけば、正式に契約して、ルーデンスとコラボした作品が出せると思うよ。わたしももちろん協力するからね」
「がっ、頑張ります!!」
「チェス同好会も同じだ。本番までは負けてやれ。で、当日はぶちかませ。他校、先輩、後輩、教師、生徒会役員の誰にも負けるな」
「うっす!!」
生徒会役員から接待勝負をもちかけられていたチェス部の部員たちも、いたずらっ子のような微笑を浮かべている。
(・・・・・・と、こんなところか)
ラティエースは、左肩を右手で握ったこぶしで軽く打ちながら息を吐く。
この中で生徒会に寝返る者がいた場合、嘘をつき通すことで対策できる。当日、曲を変えるつもりだと分かっていても、生徒会が取れる方法は、発表をさせないか途中で止めさせるか。事情を知らない観客がいる以上、生徒会の横暴と映るだろう。
(実演する生徒はそれでいいとして、作品を作る生徒は作品を隠し通さないとな)
これに関しては、作品制作はそれぞれの家で行ってもらい、完成品は回収業者が毎日、訪れている。それらをすべて城下町の倉庫に保管している。そして、当日、配送業者に頼んで運んでもらう手はずになっている。
(業者手配も終わったし、とりあえず当日まで何事もなく終わりそうだ)
当日は当日で、ラティエースにはやることがある。エレノア、アマリアにはできないことなので、別ルートで助力を請うている。
右手で左肩を抑えて肩をゆっくりと回す。何か見落としていないか、と思案するが、大丈夫なはずだ。そう、大丈夫。
「ところで、ラティエース侯爵令嬢たちは何をするの?」
何気ない男子生徒の言葉に、皆が目を見張る。周囲の生徒が、ラティエース、エレノア、アマリアをいっせいに見やる。わざわざ振り返って見つめる者もいる。
「あっ・・・・・・」
エレノア、ラティエース、アマリアが同時に声を上げる。3人が3人、口を半開きにあけて、呆けている。
この時、三人以外が皆、思った。
(本当に、忘れてたんだ・・・・・・)
調整役を任せきっていた生徒たちは、罪悪感に襲われる。てきぱきと指示を出すエレノアに、ラティエースが迅速に手配し、アマリアも上級生、下級生に対する調整役として問題を次々にさばいていた。それこそ自分たちのことは二の次にして。
「どっ、どうしよう・・・・・・」
3人は輪になって、オロオロと視線をさまよわせていた。
そして、また、周囲の生徒たちも呼応してオロオロしていた。




