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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
閑話集
134/152

3.文化発表会③

 エレノアがクラスルームに戻ってきたときには遅かった。

(やってくれた・・・・・・)

 エレノアが職員室に行っている間に、マクシミリアンがクラスルームでご高説を垂れた。それだけならまだよかったが、まさかラティエースにケンカを売るとは。

(弁えろなんて、よくも言ってくれたわね)

 アレックスがエレノアの不在を見越し、ここまで計算して動いていたとしたら、エレノアは彼に踊らされたことになる。

(確かに、ラティエースを焚きつけるつもりであったけど・・・・・・)

 とにかく、ラティエースからも話を聞いてみなければはじまらない。エレノアは速足でアマリアの元へ向かう。

 クラスルームに一歩足を踏み入れた途端、異様な空気感が伝わった。マクシミリアンの演説に疲れ果て、戸惑い、立ち尽くすしかない生徒たち。彼らに微笑みを向け、エレノアはラティエースを探す。

 と、見慣れた頭頂部を見つけた。

「アマリア、起きて。ラティは?」

「知らない」

 大欠伸をしながらアマリアが呑気に返す。どうやらラティエースと生徒会がバチバチやっている間も居眠りしていたらしい。ある意味、大物だ。

「ラティエース侯爵令嬢なら、図書館に行くって言ってましたよ」

 アマリアの代わりに答えたのは、ネスティ・ホワイトという生徒であった。大商家の三男坊だったはずだ。

「そう。図書館・・・・・・」

「まずは、生徒会総則から学園の校則を全部確認するって」

「なるほど・・・・・・」

 ラティエースらしいやり方だ。まずは大前提を確認し、何がセーフで何がアウトかの線引きをするのだろう。

「エレノア様。先生たちはいかがでした?」

 次に話しかけてきたのは、モリー・シュミリッツィア。この女子生徒も、事業で成功した親を持つ。

 エレノアは残念そうに首を左右に振った。教室全体がため息に包まれる。分かっていたこととはいえ、落胆は隠せない。皆、ひょっとしたらエレノアはやってくれるのでは、と無意識に思っていた証拠でもあった。

「こうなったら仕方がないわ。皆で協力して文化発表会を乗り切りましょう。下級生も困っているでしょうから、誰か行ってあげてくれないかしら?」

 その呼びかけに、数人の男女が手を上げる。

「では、すぐにでも行ってあげてちょうだい。1年の学年主任教員にはもう話をつけてあるから。HRが終わっても教室に残るように言ってくれているわ」

 了承の返事を聞き、エレノアは頷き返す。

「とりあえず、第一講義は先生方の配慮により休講となりました。すでに発表を決めている方は自習してください。その他、まだ何も決めていない方は集まって話し合いましょう」

(ラティ―が戻るまで、ある程度まとめておきましょう)

 その呼びかけに、否、という者はだれ一人いなかった。


 結局、ラティエースが戻ったのは、第四講義終了後、つまり放課後であった。つまり、ラティエースは一日、学校に居ながらにしてサボったのであった。

 文化発表会まで1か月を切っている。せめて、今週中には何をするかまでは決めておきたい。そう思っている生徒が大半で、居残っている生徒も多かった。

 帰宅のために鞄を取りに戻ったラティエースはHRクラスにまだ多くの生徒が残っていることに驚いた。

「ありゃ、皆、まだ残ってたの?」

「あなたこそ、何か収穫はあったの?」

 エレノアが胸元で腕を組み、問う。

「まあ、何とも。でも方針はある程度固まった、かな?」

「それを皆待ってたの。前に出て説明してちょうだい」

 ええ、と表情では嫌がったものの、エレノアは許してはくれないらしい。ラティエースは観念して、教卓の前に立った。

「シンプルに行こう」

 ラティエースは開口一番に言った。自分に集中する視線を、穏やかな表情で見返す。

「今回の作戦は、すべてこの一言で収まる。―――エレノア様にやるように言われました、と」

「ちょっ・・・・・・」

 椅子から腰を浮かせたエレノアは、言いかけて口を閉じる。ここで皆の上向いた気持ちを折ってはいけない。その証拠に、ラティエースはニヤニヤとエレノアを見ている。

 ―――言うのか?わたしはそんなこと言わないわよ、とか言っちゃうの?いいんですよ、わたしは?でも、それ言っちゃたら、わたしはもうお手上げですよー。

(かーっ!!ムカつく!!)

 しらじらしい咳払いをして、エレノアは「続けて」と席に座りなおす。

「だが、それでも嫌がらせは多かれ少なかれ受けると思う。エレノアより、皇族である俺の命令に従わないのか、とかね」

 生徒のほとんどが、その意見に賛同していた。

「それが嫌なら、無難な発表にして当日をやり過ごした方がいい。そして、今すぐこの教室から出て行ってほしい」

 そう言って、腕をドアに向けて伸ばす。人差し指の先は、ドアを指し示す。

「咎めないし、そうすることも勇気だと理解しているつもりだ、じゃない、です。弱小貴族、王室御用達関連の商家の子弟はいくら大貴族の子弟が庇護するといったところで行き届かないのは明らかなので」

 そこで言葉を切り、ラティエースは肩をすくめた。

 ふっ、と緊張した空気が和らぐ。そして、少しだけ弱弱しい表情を浮かべた。

「所詮、わたしたちは子どもなんでね」

「ただ、それは相手も同じよね?所詮、子どもよ」

 挑戦的なエレノアの物言いに、「まあね」とラティエースもニヤリと口角を上げて応じる。

「それでどうするの?」

「そもそも皇族は、風刺の題材にされやすい」

「つまり?」

「皇子を徹底的に、揶揄い倒す!!」

 こぶしを掲げ、力強い口調で宣言したラティエースに、クラスメイトはつられるようにこぶしを上げた。

「おおっ!!」

 皆、無意識に声を上げたのであった。先ほどの不安が嘘のように消えている。

(やっぱ、ラティは貴族令嬢より先導者の方がぴったりだ)

 盛り上がるクラスメイトを、アマリアは遠目で観察し、ため息をついた。

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