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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
閑話集
132/152

1.文化発表会①

「文化発表会ですか・・・・・・」

「はい。文化発表会です」

 場所は生徒会室。生徒会長用の執務机の椅子に座るのは、高等部生徒会長、テラン・ウィルター。そして、反対側に立っているのは、中等部二年のエレノア・ダルウィン公爵令嬢であった。

 もちろん、若い男女が二人きりで部屋にいるのはまずいので、エレノアの後ろ、応接用ソファーの向こう側には、他のメンバーが書類整理に勤しんでいる。なにせ彼女はかのマクシミリアン皇子の婚約者なのだから。

 中等部の生徒が高等部の生徒会室に呼びつけられるだけでも異例だ。そして、呼び出された理由、「文化発表会」。エレノアは困惑顔だ。テランはそれも承知で話を続ける。

「秋ごろに、ロザ学園は文化発表会を開催しているのはご存じですよね。開催されない年もありますが、基本的には毎年です」

「ええ、まあ・・・・・・」

「君たち仲良し三人組は毎回、欠席ですよね?」

「自由参加と聞いておりますので」

「ええ。中等部生徒会は煩わしいですから。あなたが参加するとなれば、彼らは妨害に動きます。周囲の被害も考えると不参加が一番手っ取り早いです」

 その中等部生徒会会長は、マクシミリアンである。この生徒会、歴代最悪と言われるくらい不評なのだ。とにかくマクシミリアンの横暴がひどく、他の生徒は彼の言動に黙するしかない。その被害を最小限に抑えているのがエレノアたちであった。よって、中等部の生徒たちは生徒会よりもエレノアたちに信を置いている。

「ご存じの通り、文化発表会は個人、部活動、有志による発表が主ですね」

 はい、とエレノアは頷いた。

 エレノアの知る文化祭は、クラスの出し物もあった。が、この学園ではクラスの連帯は希薄だ。不仲というわけではないが、クラス全体で文化発表会に出店しようという動きはない。せいぜいクラスの仲良しグループが有志として参加する程度だ。

 個人は、歌唱、演奏、研究発表、もしくは創作物の展示だ。こちらは大変盛り上がる。高位貴族の子女の中には楽器の名手が多く、彼らがグループを作りセッションをする。それは初等部から高等部の混成の場合もあって、皆、楽しみにしているのだ。

「ところが、中等部生徒会が有志の申し込みを片っ端から却下しているそうなのです。つまり、マクシミリアン皇子の側近と発表がかぶりそうなものはすべて却下されているということです」

 うわっ、とエレノアは顔を顰めた。

「高等部で認められそうなのは、うちで認可を出しましたが、やはり越権行為であることには変わりなく、わたしも苦慮しています」

「・・・・・・ご迷惑をおかけしております」

 と、いうのが正解だろうか。エレノアは別にマクシミリアンの保護者でもないが。

「陛下にわたしの方から苦情という形でお話をしますか?」

「いいえ。逆上するのが目に見えています。彼は文化発表会自体を廃止するということもやりかねない。文化発表会を楽しみにしている方々も多いので、それは避けたい」

「確かに」

 相槌を打って、エレノアは考える。ならば、自分が呼び出された理由は何だ。

「わたしは、あなた方にも文化発表会を楽しんでほしい。中等部の生徒たちにも自由に参加、成果を発表してほしい。彼もまあ、学園の生徒ですが、この際です。マクシミリアン皇子にご退場いただきたい」

(随分とはっきり言うわね)

 仮にもエレノアは皇子の婚約者である。が、普段の関係を隠しもしていないので、今更なのだろう。

「当日、マクシミリアン皇子殿下を欠席にする予定をねじ込んでもらえませんかね?」

「そうですわね・・・・・・」

 そう呟いて、エレノアは思案する。父に助力を請えば、やれそうだ。

「正直、マクシミリアン皇子殿下さえ排除できれば、あとは雑魚です。副会長のアレックス君はどちらかというとこちら寄りですし」

 アレックス・リース侯爵令息は中等部生徒会の副会長だ。彼が生徒会の唯一の良心である。

「ただやはり降ってわいた公務に、彼はそれなりに警戒すると思います」

「ですよね。わたしも彼の公務の日に文化発表会の日を合わせようとしたのですが、この時期、皇子の公務ってほとんどないと聞きました」

「ええ。一応、学業優先ですから」

 それに、彼の公務の評価は低い。だから皇帝は極限まで公務を減らし、無難な公務をあてがっている。

「ならば、今年も高等部は大盛況で入場者の人数制限して開催。まったく、「おひとり様2時間まで」ってどういう文化発表会ですか。ですが、この案を採用してからトラブルが激減したのも事実・・・・・・」

 テランが前半はエレノアに、後半は独り言のようにブツブツ言う。

「中等部はスッカスカの文化発表会となりますか。皇子殿下のあてこすりは甘んじて受けますか」

 やれやれ、とテランは息を吐いた。

「お力になれず申し訳ありません。わたしの方でも何か対策ができないか考えてみます」

 幸い、こズルいことを湧き水のように思いつく友人がいる。

 その名は、ラティエース・ミルドゥナ侯爵令嬢である。


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