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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
第三編
108/152

108.深夜から明け方まで①

 深夜に召集された貴族院の議員たちは、皆、眠たげで不機嫌そうな顔をしていた。

 現在深夜一時半。開廷の挨拶から始まり、一連の結納式から晩餐会の予算表を精査し、なぜこのような数字になったか、財務省大臣がやり玉にあげられ、「自分は認可しただけ」と汗をぬぐいながら発言し、水差しやクッションが飛んでくる始末。大臣では話にならないとフロン・スローンが演説卓に無理やり立たされ、真っ青になりながら説明するが、言葉になっておらず、ヤジが飛ぶ。フロンは極度の緊張状態から限界を迎え、泡を吹いて倒れた。彼の官僚人生はここで終了だ。

 では、予算を組みなおせばいいと話になるのだが、そもそも人材に問題があると誰かが発起し、大臣の罷免が議題に上がった。さらには、財務省だけでなく他の省庁の大臣罷免の話も出てきて、議会は混乱のピークを迎えたのであった。皆、眠いし、疲れているから、イライラが募り、言葉も辛辣で汚くなっていく。それでも、議場全体を見渡せる上階の傍聴席に皇帝と未来の皇妃、そして皇太子がいるから何とか理性を保っているという状態であった。

 議会招集勅許が出された際、邸宅でくつろぐ者もいれば、愛人と一緒にいる者、娼館にいる者もいた。皆、問答無用と兵士によって連れられ、馬車に押し込められる。一緒に遊んでいたお仲間の貴族は、「今期は当たらなくてよかった」と胸をなでおろした。

 貴族院の議員は持ち回り制で、300の定員を3年の期限で担当する。そのうち四公爵、十侯爵は必ず議員として登録されるので、残りの枠を伯爵以下が埋める形をとっている。ラティエースはこの制度を知ったとき、まるで参勤交代のようだ、と感心した。

  対し、平民から選出される衆民院は、200の定員を選挙で選ぶ。立候補は、ロザ全土に設置された皇帝直轄の管理事務所で手続きができ、選挙活動はそれぞれの貴族が持つ領地で行われる。一応、妨害されないよう皇城から兵士や選挙スタッフが派遣されるが、それも貴族次第だ。放置する貴族もいれば、徹底的に妨害して当選しないようにする貴族もいる。衆民院議員は、各領地から1~5人程度選出できるようになっているが、その枠がゼロというのも珍しくない。よって、衆民院は常に定員割れで、現在は140人程度であった。これでもマシになった方だ。これはベン・クーファをはじめとした有力議員が選挙活動に私費を投じて貴族の妨害を防いできた結果でもあった。

「遅いぞ、ブルーノ」

 不機嫌を隠そうともせずに、アレックスは背後に現れたブルーノに言った。

「悪い、悪い。ほら、外でいろいろ買ってきたから食おーぜ」

 ブルーノは両手に袋とピクニックに行くようなバスケットを下げていた。傍聴席の椅子の後ろ、そのまま絨毯にじかに座り、大きなマットを広げて購入した料理を並べる。こうすれば、下から何をしているか分からないし、一見、退席しているように見えるだろう。

 出来立てのクロワッサンとミルクパン、甘辛い鶏肉をパンにはさんだサンドイッチや、ハムとチーズ、サラダ、フルーツの盛り合わせが、次々と袋から取り出されていく。

 アレックスは思わず生唾を飲み込む。もう一つのバスケットには、茶器と紅茶が入っていた。オレンジやリンゴのジュースもガラスの容器に入っている。

「何がいい?」

「・・・・・・紅茶」

 憮然とした表情でアレックスが言う。なんだかブルーノの思惑通りな気がして不満だ。それを知ってか知らずかブルーノは手ずから入れて、アレックスに手渡す。

「お前は食わないのか?」

 茶器を受け取ったアレックスも地べたに座りって、パンをつかむ。

「俺は家で食ってきた」

 そう言って、ハムを一枚口に入れる。

 明け方近くになってようやく皇帝が、朝の政務があると言って退出した。エレノアも付き従い、二人を見送った議長が「休憩。再開は2時間後」と告げたのだった。椅子の上で突っ伏して仮眠をとる者、手紙を出して着の身着のまま連れ出されたので着替えを要求する者、腹が減った者は議場に併設された食堂に行く。すぐに満席になるだろうから、外で調達してくる者も多い。

 ブルーノはこうなることを予想して、議場近くではなく帝都の有名レストランに頼んでテイクアウトしてきたのだった。これでアレックスの怒りが少しは治められることを期待して。

「んで?大臣は引きずりおろせそうか?」

「どうかな。財務大臣は無理だろうけど、フロンとかいう子息は免職だろうよ」

「やっぱトカゲのしっぽ切りか。まあ、マクシミリアン派にとって、財務は絶対に手放せない役職だ。あいつらの資金源は財務省が作った裏金頼みだからな」

 アレックスは苦笑で同意を示す。

「俺らとしては、土木省と軍事省、欲を言えば儀仗局の長官クラスを挿げ替えられればいいけどな」

「土木はいけると思う。あそこは副大臣が士爵だったはずだ。そのまま繰り上がって、副大臣は平民出身の誰かがなるだろう。軍事はさすがに、ピロウ大臣職解任は難しいだろう。副大臣候補に何人か滑り込ませるくらいだな」

「式典を統括する儀仗局も俺ら寄りの人間にしたいよな。式典のたびに地味な嫌がらせをしてくるしよ」

「やることが地味なんだよ、ほんと。胸章を上下逆にしたり、杖の配置を左右に逆にしたり。式典用の軍服が色違いで用意されたり」

 用意されたとおりに使えば、「前代未聞。代々続いた式典が、間違って執り行われた」と大騒ぎするのだ。ここで儀仗局が用意した、という言い訳は通じない。そのまま儀式を蔑ろにした、儀式の本質を理解していない、と皇太子や皇帝の資質を問う問題に発展するから本当に面倒だ。

「おー、うまそうなもん食ってんじゃん」

 ブルーノは顔を上げた途端、表情をゆがめる。アレックスも振り返り、顔を顰めた。

 にやけた顔をしているライオット・カッツ伯爵と、憮然としたままのライナー・ハーシェル公爵令息が立っていた。

「下々の者にもお恵みくださいよっと」

 ライオットはそう言って、アレックスの右隣に座り、ミルクパンを掴む。ライナーもアレックスの左隣に座った。ブルーノは少し体をずらし、ライナーに空間を譲る。食事を中心に、4人の男が円陣を組むように座る格好となった。

「そこにオレンジジュースも入ってるんだろ?温いのは我慢するよ。ホントはワインがいいんだけどさー」

 ブルーノがバスケットから取り出すそぶりを一切見せないので、ライナーが取り出しグラスに注ぐ。

「すまないな、ブルーノ侯爵。支払いはわたしが持とう」

「結構ですよ。それより何の用ですか。上階は立ち入り禁止でしょうが。衛兵はどうしたんですか」

「ん?ぶん殴ってきた」

「いや。火急の用事があると言って、入れてもらった」

 ライオットとライナーが同時に言った。

「俺ら、根源貴族だぜー?そんじょそこらの貴族とはわけが違うのよ、わけが」

 ライオットはアレックスの肩に、しなだれるようにして言った。振り払おうにも、狭くてそれもできない。アレックスは眉間にしわを寄せるだけであった。

 しばらく男4人は食事に没頭した。ブルーノは主に紅茶を飲んで、軽くフルーツをつまむ程度であった。一番食べたのは、ライオットだ。遠慮という概念は彼にはないようで、心行くまで食事を楽しんでいた。ようやく食事を終え、ブルーノが口を開いた。アレックスは物足りないようでまだ食べるつもりなのか、クロワッサンを手に取っていた。

「で、火急の用とは?」

「ラドナの姫君が来てたらしいじゃん。何しに来たの?」

 えっ、とアレックスが瞬く。

「・・・・・・。別に、姉の思い出話をしただけですよ?」

 ブルーノは動揺を悟られないよう努めて冷静に返した。

(おいおい。もうその情報が入ってるのかよ。俺の家にスパイを入れてるのか?)

「まっさかー。そんなんでロザにお忍びでやってくる?」

「あの姫様は何かと突飛なことをするお方のようですので」

「我々は、ミルカ王女殿下の兄君であるレイナード王子殿下から何か託されたのではないかと考えている。なにせ、王女殿下は皇城には立ち寄らず、結納祝いの品だけ家来に届けさせ、まっすぐ君の邸宅に赴いたのだから」

 ライナーが重々しい口調で言った。

「例えば、君とミルカ王女殿下の婚姻について、とか」

「・・・・・・。問題ありますか?両家にとって良縁だと思いますが」

「確かに、ミルドゥナ大公の孫と、ラドナ王族の結婚は歓迎すべきところだ。だが、むざむざと領土をかすめ取られるわけにはいかないんだわ、ロザとしては」

「ラドナに吸収されると?むしろ、ロザがラドナを併合するのでは?」

「それなら、とっくにミルドゥナ大公がやってるでしょ。そうしないのは、ラドナは独立国であった方が都合がいいからだ」

(まあ、確かに・・・・・・)

 ラドナ王国は、ロザだけでなく幾つかの国と国境を接している。ラドナは何度も各国から併合の危機にあわされてきた。そのたびに、国主の機転と知恵によってその危機を脱していた。今は、ミルドゥナ大公との縁が深いと言われ、そのためか隣接する国々も大人しくしている。

 しかし、万が一、ミルドゥナ大公に縁のある者と、ラドナ王族が婚姻すれば、ラドナの立ち位置は大きく変化する。一時、ラティエース侯爵令嬢とレイナード王子の婚約が出たときは、周辺国は戦々恐々としていた。結局、ラティエースはアレックス・リースと婚約し、この話は落ち着いた。再び、ラティエースとアレックスの婚約が白紙となったことで、問題が再浮上したということだ。今回は、ブルーノとミルカも結婚適齢期ということで問題の当事者として名が挙がっている。

「俺らは、大公がロザを見限り、ラドナに寝返ることを疑ってる」

「祖父は元皇族ですよ?ロザに対する愛着は人一倍あります」

「怨嗟もだろ?」とライナー。

「・・・・・・。もしそうなら、俺とラティエースを婚約させてませんよ」

 ハムとチーズをパンにはさみながら、アレックスが言った。

「確かにねー。孫娘が大事なら、気心知れたレイナード王子とくっつけた方がいいもんね」

 アレックスはグッと唇を引き結ぶ。

「そっか、そっか。確かに、俺らが勘繰りすぎたのかもねー」

 タイミングよく議場の鐘が鳴る。これは議会再開の合図だ。そろそろ食事を終わらせねばならない。アレックスも慌てて口に詰め込む。

 ライナーとライオットは立ち上がる。

「でもさー、これだけは言わせてよ」

 徐に立ち上がったブルーノの腕を引き寄せて、そのまま拳をブルーノの腹にめり込ませる。

「かはっ!」

 ブルーノは回避行動を取る間もなく、ライオットの拳をまともに食らう。唾液が自分の意思とは関係なく吐き出される。

「何を!!」

 アレックスが反射的に立ち上がろうとするのを、ライナーが肩を抑え込むことで制止する。

「俺らもさ、マクシミリアン派とか分類されてる貴族は目障りだけどさ。あいつらにはあいつらなりの役割があって、俺らはそいつらも適材適所に配置した上で、国を回してるんだわ。それが、急にしゃしゃりでてきたお前らとかエレノア嬢とかリートリッヒとかが引っ掻き回すのはあまり気分が良くないわけ」

「・・・・・・焦って事を起こすと、すべてを台無しにするこになる」

 ライナーがうずくまるブルーノを睥睨して言った。

「そういうこと、じゃーねー!」

 ライオットは軽い足取りで、傍聴席を後にする。その後をライナーが静かな足取りで追った。

 アレックスは瞠目し、彼らの背を静かに見送るしかなかった。


「腹パンはないだろ、腹パンは」

 ベルベットの絨毯を踏みしめながらライナーが苦言を呈した。

「だって、むかつくじゃん。自分たちは何も間違っていない。国を豊かにするために正しい行いをしているんだって信じて疑わない顔」

 後頭部に両手を組んで歩くライオットは全く反省していない。

「若さゆえ、ということだろう」

「皇太子にしなかっただけいいじゃん」

「まあ、そこはお前も考えたんだな」

 さすがに根源貴族といえども皇太子に手を上げたとなっては、罰を受けることになる。その前に、アレックスが声を上げるかどうかだが。

「ただでさえ、ドローレスの暗殺に失敗したんだ。それだけで忙しいのに、マクシミリアン派とリートリッヒ派とか言って権力闘争されたんじゃたまったもんじゃないよ」

「魔女、か」

 ライナーがひとりごちる。

「あの女がまた現れたんだ。ロザはまだ魔女に目を付けられている。まさか、ドローレス・カンゲル男爵夫人としてうろついていたとは知らなかったよ。あいつ、何歳だよホント」

「先生が出会った頃は、あれよりもう少し年若かったそうだが。それにしても長生きだな」

「暗殺は失敗するし、取り逃がすし。散々だよ」

「お前が焦って刺客を送るからだ。せめて俺に相談してくれればよかったのに」

「しょうがないじゃん。それに、お前に相談しても結果は同じだったと思う」

「まあ、確かに・・・・・・」

「こうなると、マジでバーネットとアーシアをどうにかしなきゃならなくなった。ドローレスが「ロザを呪う魔女」なら、その血を引いているであろうあの二人は始末しなきゃならない」

「・・・・・・最初に現れたのは、第三代皇帝の時代。隣国の王女として現れた。そこから、踊り子、薬師といった職業に扮し、名を変え、貴族を篭絡し、たびたびロザを危機に追いやった」

「先生の話だと、やたらヴィルヘルム陛下に執着していたそうだけど」

「ああ。けど、魔女の誘惑をはねつけた。それが余計、魔女の怒りを買った。あの魔女はロザが滅亡するまで、ああして手を変え品を変え、やってくる。今回は暗殺には失敗したけど、魔女には伝わったんじゃないかな。「お前の存在は分かっている」ってさ。事実、あれから特に問題は起こってないだろう?」

「そうだな。嵐の前の静けさ、ということもあるだろうが、とにかく時間にゆとりができた。とりあえずマクシミリアン派とリートリッヒ派の闘争に決着を付けないとな」

「そんで、リートリッヒを勝たせるしかない、か。ったく、そのためにベン・クーファを呼び込むなんて。あいつは貴族・皇族を根絶やしにするつもりなんだぞ」

「言うな。あいつの真意はあいつにしか分からん。貴族嫌いは有名だが、懇意にしている貴族は多いし、あいつはバランス感覚に長けているから、貴族とも貴族以外の有力者とも付き合っていける。その手腕に俺たちは何度も助けられているし、何なら利用している」

「一定の距離を保って、って前提でしょうが。ギブアンドテイク!それが絶対条件だ。それを皇太子たちはゼロ距離で付き合うことを選んじまったんだ。今回の件は借りだ。ベンはこの借りを最大限利用するぞ」

「そうさせないために、リートリッヒ派とマクシミリアン派の対決を早々に終わらせる。エレノア嬢もそれは分かっているだろうし、御婦人方、女性陣の方は彼女がうまく対処するだろう。だが、男性側は、血が流れる。確実にな」

「どうせ流れるなら、徹底的にやってやる。敗北したマクシミリアン派を粛正する際に流れた血も含めてね」

 その中にはもちろんバーネットとアーシアも含まれる。むしろ、マクシミリアンの処罰は、二人の隠れ蓑となるだろう。

「あいつらに、勝たせすぎないようにしないとな」

「だな」

「しばらく忙しくなるね、ライナー」

「まったくだ」

 ライナーはしみじみと深い息とともに吐きだした。

 一階に戻った二人は自席に着き、議会の再開を待つ。ライオットは相変わらずというか、机に両足を投げ出す。

「ところでさ、ライナー。ラティエース嬢は今頃どうしてると思う?」

 そうだな、と言ったきり、ライナーは黙考する。ライナーが答える前にライオットが口を開く。

「俺はさ、今頃、頭かきむしってるんじゃないかって思うんだよね」

「かきむしる?何だ、それは」

「ラティエース嬢は、自分が他者を巻き込んでいると思い込んで、その実、無理難題に巻き込まれるタイプなんだと思うんだよね。良い例がエレノア嬢さ。彼女の理想主義を現実にするために、ラティエース嬢は無理をする」

「なるほど・・・・・・。だが、それだけエレノア嬢の理想が実現に値すると思っているからじゃないか?」

「いんやー?彼女はエレノアが矛盾していると分かっていても、何とかしてやりたいと無理するんだよ。そんでエレノアは、ラティエースの苦悶に無頓着なんだ」

「つまり今はエレノア嬢の理想を実現する者がいない、ということか?」

「そう。ラティエースはどこかで別の難題にぶち当たって、相も変わらず頭を抱えてるんじゃないかってね」

「・・・・・・。楽しそうだな、ライオット」

「まあね。エレノア嬢たちが引っかき回した分、どこか遠く地で苦労していると思われるラティエース嬢を想像すると少しは許せるって気がしちゃうんだよね」

「腹パンしておいて、何を言う」

 頬杖をついてライナーが返す。ライオットはニヤリと口角を上げる。

(ラティエース嬢がこの場にいれば、どう思うかな)

 ライナーは心中で呟き、演説卓に立つ議長をぼんやりと眺めていた。

(不思議だな。この情勢で重要なのはラティエース嬢じゃないのに、何故か、彼女の挙動を想像してしまう。何処で何をしているか分からないが、無事でいてくれるといいのだか)


 ――――――聖ケイドン魔法国イグニー州某所

「なんで、なんで・・・・・・」

 アマネ・リアはため込んだ怨嗟を口元から零した。

「治癒魔法はあって、ポーションはないんだ、この世界ぃぃぃぃ!!!技術開発部、GBワクチン入りのタブレットの前に、ポーション開発しろやぁぁぁぁ!!!」

 崖っぷちに立ち、アマネ・リアは声を張り上げた。幸いこのあたりに敵はおらず、絶叫しても問題ない場所であった。つい先ほどまで死闘を繰り広げたにしては、我らが隊長、アマネ・リアは元気である。

「なんすか、あれ」

 野営の準備をしていたユアン・ソウは夕日に向かって叫ぶ隊長を見て、火をおこしている副隊長のオーエン・ガードナーに問う。

「魂の叫びさ」

 面倒くさそうにオーエンが言う。

「ついでになんで蘇生魔法ないんじゃ、こらぁぁぁ!!魔法っていうなら定番だろうがよ、乙女ゲーム『ラブラブ学園~恋しちゃったの~』の世界!!」

 アマネは絶叫する。その意味不明な言葉に部下たちは不審げな視線を隊長に向ける。この部隊は大丈夫か、と不安がよぎる。つい先ほどまで鬼神のごとく堕神を屠っていた者と同一人物とは思えない。

「ついに、狂ったんじゃないですか?」

 オーエンの側で食材を切っているアヤ・タマナが顔を歪ませる。

「隊長は時折、ああなる。頭をかきむしり、意味不明なことを口走り、ついには叫ぶ」

 オーエンは隊長の奇行にすでに耐性があるのか特に動揺はしていない。

「やばいじゃいっすか」

 ユアンが焚き火用の小枝をオーエンの足下に置きながら言う。

「でもな、発散したあとは、何故か百人中百人が無理だという難題を解決してしまうんだ、あの方は」

「確かに、今回も包囲された状態から損耗も殆どなく突破できましたけど・・・・・・」

 あれは奇跡ではない。アマネ・リアの成果だ。

「そして、わたしはあの方の扱いがそれなりに上手いから副隊長なんだ」

 そう言って、オーエンはゆっくり立ち上がる。

「アマネさーん!今日の夕食はカスバートさん直伝の鳥の唐揚げですよー。戦勝祝いに油を惜しまず使いますよー」

 それまで肩をいからせ、仁王立ちに背を向けていたアマネがクルリと踵を返す。

「たっ、べるー!!(食べる♥♥!!)」

 満面の微笑を浮かべ、スキップしてこちらに向かってくる隊長を、ユアンとアヤはなんとも言えない表情で見ていた。しかし、不思議とこの作戦に対する不安は薄れていた。オーエンの言うとおり我らが隊長アマネは奇策を用いて今回も成し遂げてくれるだろうと楽観的な思いを抱いた。

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