28話 1人でダンジョンを周回する 後編
ボスの間へと到着する。部屋の広さはだいたい直径10m程の円形フィールドだ。そこまで広くはなく中央に椅子を構え座っているのが恐らくゴブリンナイトだろう。鎧をつけており、右手には銀色に光る盾を、左手には銀色に光る剣を持っている。
ルキナは篭手を外し空間にしまう。素手でやってみようという判断だ。ルキナはゴブリンナイトの盾目掛けて左手でパンチをする。もちろん高速で近づいてだ。
驚いた事にナイトはこちらのパンチにギリギリ対応し盾を構えた。
だが、盾は殴られた衝撃で粉々に砕け散る。砕け散った事で動揺したゴブリンナイトは後方に飛ぼうとする。
しかし、ルキナの右の拳が早く、ゴブリンナイトの顔面を爆散させる。
「…。弱いな…。」
『ルキナのレベルが241から243に上がりました。』
『ルキナは称号:魔の天敵を獲得しました。』
『ルキナの大罪度数が3から4に上昇しました。』
『ルキナは【終焉魔法】を使えるようになりました。』
『ルキナは称号:慈愛の鬼神を獲得しました。』
『ルキナは大罪技能【傲慢】を獲得しました。所持者が居なかったため、大罪度数を元に達成しました。』
なんか、色々手に入ったな。説明が見たいものだ。
大罪技能:【傲慢】
敵対または友好では無い生物、非生物に対して移動速度、攻撃速度、回避速度の著しい低下をもたらす覇気を当てることが出来る。対象は単体や複数、全体なども選ぶ事もできる。また、単体に対して行った場合、他の者は対象が覇気を食らっていることに気づくことが出来ない。また、対象を魔力的、五感的に捕捉することが出来なくとも覇気を与えることができる。
技能:【終焉魔法】
魔法の適正に関係なく終末に関連するSランク以上の魔物のみが使える魔法。多大な魔力を消費するが、回避不能の広範囲な魔法を与える事が出来る。1番低コストの魔法ですら1つの都市が灰になるほどだ。1番コストが高い魔法だと月であれば全て消すことができる。一度魔法を使用すると1週間は再使用できない。
称号:慈愛の鬼神
本来、敵対しているはずの人類に対して一定の人数に慈悲をかけた時に獲得できる。己が最も信頼する10人に攻撃力、防御力を底上げさせる事が出来る。相手への信頼が失墜した際、底上げされていた攻撃力と防御力は元に戻り、逆に上がった分、元の攻撃力と防御力が減少する。
称号:魔の天敵
全ての魔に対して特攻を有するようになる。相手からはこの称号を探知されず情報を誤認させることが出来る。主な特攻効果は、攻撃を当てた際、相手の技能を1つランダムに使用不可にする。攻撃を当てるといってもデコピンなどでは発動しない。パンチやキックなどで発動する。暗殺でも発動する。
大罪度数
大罪技能を保有できる度数。1であれば一つだけ保有できる。ルキナは4なので4つ保有できる。
名前:ルキナ(セレスティア・レブナント)
種族:終末の鬼神
ランク:SS
レベル:262
技能:【電速】【神気】【加速】【斬撃】【追撃】【変速】
固有技能:【終焉の衣】【深淵の鐘】【殺戮の嵐】【軍勢の導】【魔法帝の書】【深淵操作】【混沌操作】【絶滅吐息】【殺戮の魔眼】【鬼神生命】【終焉魔法】
特殊技能:【反射】【光沢】【無尽蔵】【法術省略】
禁忌技能:【暴食】【憤怒】【強欲】【傲慢】
称号:終焉を告げる者、禁忌の使い手、武と魔の達人、深淵を蠢く者、影の帝王、侵略者、簒奪者、踏破者、鏖殺者、慈愛の鬼神、魔の天敵、大地の破壊神、人族の殺戮者
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ルキナは一度部屋を出て10分ほど待つ。
その後、もう一度入ると、また部屋の中央に先程のゴブリンナイトが鎮座している。
今度は雷魔法を使う。
「瞬雷」
その瞬間、手からゴブリンナイトに向けて閃光が走る。ゴブリンナイトは雷をくらい、バリバリバリと音を立てたのち、黒焦げになり魔石へと変わった。
魔法への創造性が遥かに拡張されているような感じがする。これも傲慢の派生効果なのだろうか。
そこからはただただゴブリンナイトを倒しまくった。つい時間を忘れて200回ほど倒した。時間で言うと33時間以上。ルキナ自身は特に体調の変化は無いが人間であれば1日以上ダンジョンにこもり続けるのはあまり良くない。閉鎖的空間というのが大きい。
もちろん200回ほどやったからには成果もあった。
『ルキナのレベルが262に上がりました。』
『ルキナの能力上限を突破しました。』
『能力の制限値を5割、1割、1分、1厘で選べるようになりました。初期設定は10割です。レベル250突破報酬です。』
「おぉ、ついに力の制限ができるようになったな。1厘でどこまで力が落ちるのか確かめるにはいい感じかもしれない。」
試しに1厘まで落としてみる。そしてゴブリンナイトに挑む。能力が1厘まで落ちるということは速度も落ちるということ。
それでもゴブリンナイトを倒すには10秒もかからなかった。こいつ程度では己の弱体化がどんな感じかを測ることはできない。もう少し強い魔物でなければ。いや、今こそ絶滅吐息をゴブリンナイトに試す時か。
もう10分待ち、もう一度ボス部屋に入る。
絶滅吐息の準備をする。貯めの時点で少し時間がかかった。そして発動する。
「【絶滅吐息】」
発動した【絶滅吐息】はいつもと同じく空間をも溶かし、そのままゴブリンナイトに直撃する。いつもの調子で【絶滅吐息】を使うとダンジョンを消し飛ばしかねないが、能力制限を掛けている今ならある程度被害を抑えれるのではないか?と。
案の定、ゴブリンナイトは存在ごと消え去ったが、ダンジョンの壁を数枚溶かすだけに留まった。だが前方100m程に大きな空間ができた。
1厘にまで力を抑えてもここまで被害が出るらしい。全く。恐ろしい力だ。
『ルキナは称号:大地の破壊神を獲得しました。』
『ルキナは称号:人族の殺戮者を獲得しました。』
称号:大地の破壊神
ある一定の基準体積分の大地を己の力のみで破壊した際に貰える称号。破壊攻撃に対するバフがかかる。
称号:人族の殺戮者
ある一定の基準人数分、人族を殺害することで貰える称号。人族に対する攻撃にバフがかかる。
どんどん力をつけているらしい。これは嬉しい限りだ。しかし、人族の殺戮者という称号を持ってるのに人族と味方関係になっているな。別にそこまで意識した事は無いが。
ルキナは虚無魔法と混沌操作を使い、空間に裂け目を入れて静岡ダンジョンの入口に戻ってきた。どうやら下での被害は上には伝わってないようだ。
行きしに探索者証を見せた職員が居たので戻ってきた報告をする。
「1日以上こもっていましたが精神などに異常は無いですか?こもり続けると病んでしまう人もいますが。」
「特に問題は無い。協会に1度戻る。」
「道中、お気をつけて。」
ルキナは新幹線に乗り、大阪まで行く。席に座って大阪に着くまでぼーっとしている。ルキナは携帯を貰っていないので1日以上音沙汰無しという事になる。それはもうリサが怒るだろう。
「リサに黙って1日以上外に出ていたな。後で謝っておくか。リサの親にも迷惑を掛けたかもしれんな。」
そして、ルキナは家に帰り、リサとその親に超心配されて怒られたのは別のお話。
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協会の地下会議室にて
ここではダンジョン関連における重要な項目を幹部達が会議する場所である。飛鳥憐黎もまた、会議の幹部の1人である。
「今回集まってもらったのは他でもない、ダンジョン探索者の不審死が相次いでいる件についてだ。事が始まったのは2月1日、大阪ダンジョンにて発生したダンジョン消失と多数の探索者の死亡。証言により外からの攻撃だと断定されている。物質が溶かされていくような攻撃から現在行方不明の3体の魔物が候補として上がっている。うち2体が関与している可能性は無いとは言えないが限りなく低いだろう。残り一体、そう。最近現れたであろう静観ダンジョン内に居たとされるSランクの魔物、半鬼神という種族の名称ルキナだ。ダンジョンは既に2箇所消失している。そして魔力の痕跡がない。これらが判明している事実だ。これに対して何か意見はあるか?」
1人の幹部がみんなに意見を求める。
「消失したダンジョンの中に居た探索者達にはその半鬼神と思しき魔物との交戦記録が音声すら一切無いことから、このルキナという対象はダンジョンの破壊自体が大まかな目的では無いのか?探索者の死亡はその副産物でしかないのでは?」
という意見や。
「ダンジョンを破壊した際の大量の経験値が目的ではないのか?大幅なレベルアップを図るならこの可能性も捨てきれない。」
「このまま放置していると次々とダンジョンを破壊されかねない。我が国のダンジョン利益の損失にも繋がる。我が国がダンジョンで権利を勝ち得ているのはダンジョンの数というのも一因だ。その数が減少すれば今後どのような指令が下るかわかったものでは無い。」
そして、飛鳥憐黎も意見を述べた。
「そもそも、Sランクの魔物にそこまでの破壊力を出せるものかしら。Sランクなんて今まで見た魔物の中での最高威力でせいぜいビル崩壊よ?それよりも硬くて高いダンジョンを破壊出来るとは思えないわ。恐らく進化していると考えていいかもしれないわね。SSランクに到達していると再定義するべきよ。」
もう1人の幹部も意見する。この中では最年少の幹部である。
「自分からも意見よろしいでしょうか。進化先の想定ですが、破壊を繰り返しているということから
破壊の鬼神とか、殺戮の鬼神。なんてのは安直でしょうか?」
「大まかな進化先の予想はそれで合ってるかもしれないわね。でもそれだとS+くらいじゃないかしら。ダンジョンの消失。それもAランクダンジョンの消失なんてS+の魔物には到底出来ないわ。そもそもダンジョン内に稀にS+が居るのによ?だからもっと高位の進化個体になってるかもしれないわ。」
「かもしれませんね。ですが姿形を記憶しているのは探索者候補生の中でも静観ダンジョンに出入りした4人だけです。その4人からは既にその魔物の容姿などの報告は上がってるのでしょうか?」
「上がっているぞ。銀の長髪、赤い目、白い角、黒いドレス黒い靴に黒い篭手という報告は上がっているな。」
「それならすぐにでも見つかるのでは無いのか?相手は魔物だろう。特に銀の長髪に赤い目という1番わかりやすい特徴があるでは無いか。」
飛鳥憐黎は1人考えていた。協会で1人それに近しい子を見た記憶がある。中学生グループであろう4人組の1人、銀髪赤眼だったと。セレスと呼ばれていたな。あの4人の中では有望株だと思うが。まさかそんな事はないだろう。魔物が人間の生活に溶け込むなんていう最悪の事態は。
今度協会で会えたら二人で話してみるか。もしかしたら何かしら掴めるかもしれない。




