19話 リサの家で沢山学ぶ
ルキナはリサの家について行く。先程よりも家が増えてきた。これが住宅街か。そんな感傷に浸っていると、リサの家に着いたらしい。
「ねぇセレス。ちょっと親を説得したいから一緒についてきてほしい。」
「いいぞ。こちらとしてもその日暮らしだったからな。野宿を回避できるのなら協力する。」
リサは家のチャイムを鳴らす。
「ただいま〜。」
「はーい。」
その一言の後、数秒後、扉が開かれる。
「おかえり〜、ってあれ?友達ができたの?」
「えーと、難しいかもしれないけど頼み事があって。」
「なに?言ってみて?」
「この子を一緒に住まわせてくれたりしない?今日の講習で仲良くなったんだけど、今まで野宿してたみたいで、お願い!」
親と思しき人は考える。
「ねぇ、君の名前は?」
「セレスティア・レブナントだ。歳は15だ。」
「あら、同い年なのね。高校にも通っていないような子が野宿ばっかり?」
「産まれた頃から戦争の最中にあってな、安心して寝れる所がなかったんだ。」
すると、リサのお母さんは少し集中してこちらを見る。
「嘘をついてるようには見えないわ。よし、良いわよ。でも寝る場所はどうするの?あなたの部屋にでもする?」
「そうする!」
まぁ、あがりなさい。と言われ家に入る。靴を脱ぐ習慣は無かったが先程塾に行った際に靴を脱いだし、更に玄関に靴が沢山あったのでそれに習って脱いだ。向きは周りを見て整えた。
リビングに入ると、誰かが黒いもじゃもじゃが羅列された紙の束をペラペラと捲りながら読んでいる男性がいた。
「ん?リサ、その子は?」
「こういう経緯があって…。」
ルキナとの出会いを説明してくれた。
「まぁ、構わんよ。それで、セレスって呼んでいいのかな?」
「構わない。どんな呼ばれ方でもそこまで気にしていないから。」
「そうか、なら、セレス。自分の家だと思ってくつろいでくれ。」
「ありがとう。」
「セレス!部屋に来て!こっち!」
そういって、ルキナを部屋に案内する。
一方、親はというと。
「娘とあの子もついでに高校に通わせるか?あの感じだと学力面が厳しそうだが。」
「まぁ、そこは任せるけれど、別に4月から通わせる必要は無いわ。まずは生活に慣れさせないと。それにあの感じだと文字も書けるか怪しそうだし。」
「まぁ、確かに最低限、読み書きは出来ないとダメだな。」
2人はルキナの心配をしていた。
「リサ、ここがリサの部屋なのか?」
「そう!さぁ入って〜。」
ルキナが部屋に入ると、机と本棚とベッドといった簡素な作りにぬいぐるみが沢山置いてある。壁に立て掛けられているのは講習でも使っていたレイピアと呼ばれた細剣だ。
「これは、レイピアというやつか?」
「そう!これが家にあるから使ってみたくて、あとこれレイピアとしてだけじゃなくて杖としても使えるんだよね。」
「それは、応用性のある武器だな。」
「それよりその外套と帽子付けっぱなしだと暑くない?」
「あっ…。」
ルキナは失念していた。角があるにも関わらず人間の家に住もうとしていた事に。この世界で角がある生物がどんな扱いを受けているのかほとんど熟知していないのに…。一番大事なことを忘れていた。だがここまで来て帽子を脱がないという選択肢は無い。どうするべきか。まぁ、外套はすぐに外したが。
「そ、その。これは笑ったり怖がったりしないでくれると嬉しいんだが…。」
「ん?帽子の中に何か隠してるの?」
ルキナは深呼吸して帽子を取る。そこから現れたのは漆黒の鋭い2本の角だ。
「え?これって?本物??」
「そ、そうだ…。」
「普通にかっこいい!まるで熊人族みたい!」
「く、熊人族????」
「知らないの?獣人族の中には角を持つ種族もいるんだよ!この世界の総人口の約2%は獣人族なんだって!」
「でも、俺は別に獣人族って訳じゃ…。」
「かっこいいし、隠す必要ないよ!もはやギャップ萌えよ!見た目も綺麗!それとは裏腹にその鋭い角のおかげでかっこよさが増してる!」
「そ、そうか?」
「ねぇ、その角触ってもいい?」
「別にいいが…そんなに触りたいものなのか?」
ルキナはリサに角を触らせる。特にこれといって触られてる際の感覚は無い。
「ツルツルだねぇ。それに角で色々切れそうなくらい鋭いよねぇ、これは確かに誰かを傷つけるのはあれだから帽子を被っちゃうか。ていうかそれにしてもその帽子も凄いね!その角もまるで無いかのように被れるんでしょ?」
「周りから見たら無いように見えるだけで俺から見たら角は帽子から突き出てるように見える。」
「そうなんだ。でも獣人族じゃない角持ちって聞くと鬼族くらいしか思い浮かばないなぁ。」
「鬼族で合ってる。」
「そうなの!?人類に友好的な種族の中で身体能力が特に高い種族だって図鑑に載っててね!」
そうなのか!?それなら角を出したままでも問題ないのかも?それに前回人に見られた時より角は鋭く、黒く変色しているしな。髪の毛と目の色は変わってないけれど。
「そうと決まれば、お母さんに言ってこないと!お父さんにも言ってこよう!生活してたらいずれバレちゃうんだし。」
「た、確かに…。」
そうしてルキナはリサについて行き、もう一度リビングに向かう。
「ん?どうしたリサ。」
「実は報告したいことがあります!2つほど!ママも来て!」
そういって両親をリビングの机のとこに呼ぶ。
「なに〜?言いそびれたことでもあったの?」
「ほら、セレス!こっち来て!」
ルキナはリサに呼ばれリサの横まで歩く。
両親は驚いていた。
「え?つ、角?」とお母さんは驚いていた。
「む?もしかして…鬼族か?」
「そ、そうなんだ。帽子で隠してたんだ…いきなり命を狙われるのは嫌だったからな…。」
「鬼族なんて言ったら確認されている中だと100人にも満たないぞ?」
「そんなに少ないの!?」とリサは驚く。
「そもそも、人類とは少し違った種族だからな。」
「それで、リサ?もうひとつあるんじゃないの?」
「うん!高校には入学するんだけどさ、探索者になりたいんだ!もうチーム誰と組むかは決めてて、この男の子とセレスとあと一人組めたら男の子もうひとりいる!」
そういって4人で撮った集合写真を見せる。
「おぉ、探索者になるんだな。それで、他の子の大凡の職業は予想できるか?」
「この、明るい男の子が盾騎士かな。それでこの横の気弱そうな男の子が食医師、私が杖剣士!セレスは?」
「俺は、魔法と武術を扱うんだが、何か適正の職業はあるか?」
「それなら、魔体術士だね!」
なるほど、そんな職業があるのか。
「近中遠の攻撃もありつつ回復もいるのか。それに食料の確保もできると来たか。相当バランスがいいな。その分、誰かが欠けると瓦解するのもバランスのいいパーティーの欠点でもあるからな。リサ、セレス。2人は早速明日から登録しに行くのか?」
「セレスに文字の書き方を教えてからだよ。」
「まぁ日本語の文字は多いし、読みも多い。漢字なんて世界一難しいといっても過言じゃない。苦労すると思うが頑張ってくれ。」
「分かった。」
「それより2人とも、ご飯を食べるわよ。セレスも食べなさい。」
「構わないのだが…力加減が難しくてな…。」
「うーん、何かほかのもので練習した方がいいのだけれど、他に方法があるかなぁ。」
すると、お父さんが助言してくれた。
「セレス、力の制御はどうやればできると思う?」
「魔力の浸透を辞めるのか?」
「となると、鬼族のあれを超えれてないのか。」
「あれって、なんだ?」
「ん?【鬼の衣】って技能なんだが、これを獲得すると、鬼の力を極限まで制御できる。だから普通のパンチを人間並みにまで落とすことが出来る。意味があるかと言われたら日常生活で役に立つ程度だけれどもな。超える必要があるのは魔力の内外操作の事だ。内側の魔力の操作はもちろん難しい。だがそれ以上に外にある魔力の操作は段違いに難しい。【自然魔力】とも呼ぶべきか。これのコントロールを覚えれば制御が出来る。」
ルキナはそう言われ、話を聞きながら外の魔力に干渉する。これが外の魔力か。体内に宿る魔力と違って澄んでいて心地がいいな。
「ん?もしかしてこのたった数秒で外の魔力を感じたのか?」
「この澄んだ心地よい魔力の事か?」
「そんな事まで分かるのか。魔力に心地良いとか気持ち悪いとかの違いがあるとは知らなかった。まぁそれで操作できそうか?」
「多分できる。ところでこれができると何か得はあるのか?」
「戦闘時で言うなら体内の魔力が枯渇しても外の魔力を体内に取り込む事で使えたり体外の魔力をそのまま魔法へと変化させて使う事も出来る。また魔力の無い空間でも内外の操作を均一にする事で気持ち悪くならずに済む。」
「お父さん、色々知ってるね!」
「ん?これでもBランクだからな!」
「お母さんは?」
「私もBランクよ?」
「凄いなぁ…。」
「出来た。」
「え?もう?」
なんか、体外の魔力操作が難しいというからやってみればなんか中と外で魔力の違いがわかりやすいからどれを操作したらいいのか凄いわかりやすい。
『ルキナは【鬼神生命】を獲得しました。』
なんか、言っていた技能とは違うけど似たようなものだろう。
ルキナはゆっくりとコップに手を近づける。そして掴む。持ち上げる。
「おー!セレス出来てんじゃん!これで食事の関係は箸の使い方くらい?」
「箸?手掴みでは無いのか?」
「それだと行儀が悪いって言われてるのが日本国内だからねぇ。箸とスプーンとフォークの使い方を覚えよう!教えるよ!」
そういって、ルキナとリサの家族達の4人で仲良く食べたとさ。ついでにリサに食事の箸などの使い方を教えてもらった。
お風呂についても教えてもらった。シャンプー?ボディソープ?コンディショナー?よく分からなかったが1から説明してくれたおかげで楽に使う事が出来る。
そして、湯船に浸かった。
「ぷはぁ〜。」
この後は文字の書き方を教わる事になっている。本はどうせ見たら覚えれるので書き方だけでも学ばねば。それにしてもこのお風呂とやらは気持ちいい。今までの戦闘で疲れた体を全て癒してくれる。眠ってしまいそうになる。
すると、リサが風呂に入ってきた。
「来たぞー!あれ、湯船もう浸かってる!ちゃんと洗った?洗い残しとかしてない??」
「それはしっかりやったぞ。魔力の目を使って後ろも確認してるから問題ない。洗い残しは0だ。それもこれもリサのおかげだ。」
とグッと親指を立てる。
「それにしても気持ち良さそうに湯船に浸かってるよね。」
「当然だ〜、湯船は初めてだからなぁ〜。気持ちよさで寝てしまいそうだ。」
「湯船の中で寝るのは気絶と一緒だからダメだよ!?」
「そうなのか〜。」
「よく見たら、筋肉ついてるね、シックスパック?エイトパックだっけ?鬼族ってみんなこうなのかなぁ…。」
「それは知らないな。自分は1人なことが多かったから。」
「まぁ、パジャマはサイズが合いそうで良かった。」
「それもそうだな…。合う服がなかったら最悪防具を装備して寝るところだった。」
2人で談笑している。そして風呂から上がった。
風呂から上がってきた二人を見てお母さんが、
「さっぱりしたわねぇ、セレスも顔も体格もいいんだからオシャレとかしてみたら?」
「おしゃれ?ってなんだ?」
「服装を色んなの着替えて楽しんだり、その着替えた服で遊びに行ったりするんだよ。」
「それがオシャレなのか。」
「まぁ、それよりも先に文字を覚えなくちゃね。」
リサに連れられ、部屋に行き、文字の書き方を学んでいった。ひらがな、カタカナ、漢字と。ついでに英語の書き方も学んだ。
そして国語の辞書と英語の辞書が置いてあったので見ようとする。
「そろそろ寝よ〜。明日に備えるのだ〜。」
「これで明かりを消せるのか。」
「そうそう〜。」
ポチッとボタンを押すと周りが暗くなる。それと同時に周りに対応するように夜目の効果が発動する。
「おやすみ〜。」
「おやすみ〜。」
リサは熟睡したそうだ。リサの期待に応える為にも、英語の辞書と国語の辞書、漢字辞典を1ページずつ全て暗記することにした。幸い記憶する事に関しては卓越した才能を持っているので難なく覚えられる。
全ての辞書を暗記したルキナは次に日本の数学と理科を学ぶ事にした。貰ったノートに色々書き連ねて学んでいく。最初はよく分からなかった足し算や引き算も時間が経つにつれ、三平方の定理やらフレミングの法則やらと理解速度が上がっていく。リサが熟睡し始めて3時間が経った頃、ルキナは数学を中学3年までの範囲、理科を中学3年までの範囲、国語辞典、漢字辞典、英語辞典を全て暗記し、家庭科の教科書、技術の教科書、美術の教科書も暗記した。音楽の教科書にも触れようとしたが音楽とはどんなものか想像がつかなかったので諦める事にした。これはまたリサにでも聞こう。
そしてようやく眠くなったのか、熟睡した。




