12話 ドッペルゲンガーなんて知らないよ!?
ルキナは一悶着あった後、下の階層へと戻ってきた。今目の前に居るのは屍鬼だ。不死者と鬼、2つの種族に連なる者だ。
「武器に頼らずに素手で強くなるのも良さそうだな…。」
ルキナは篭手を外し、【加速】を使い屍鬼の眼前に近づく。そして拳を頭に当てると、綺麗に吹き飛んだ。
「やはり、篭手が無いと威力が落ちるな…分かっていたことだが…。これを抜きでビルマルキンと戦っていたら負けていたのは私かもしれないな。」
武器に頼りすぎるのは良くない…。魔力を肉体の内部で巡らせると身体機能が増大すると、ジグーに教わっていたが、それもそろそろ試していく必要があるな…。魔法で魔力操作の練習も兼ねていたが、そろそろ始める時が来たか。調整を間違えると内側から爆散すると聞いたが、まず手からやるか。
ルキナは心臓辺りにある魔力を腕まで巡らせる。全体の中でどこか突出するとかが無いように薄く広げていく。魔力感知の応用だ。魔力感知は外側へと広げていくが、肉体の内側に広げる事は難しい…。
「ここを…こうして……。」
ルキナはそうして両手にまで魔力を流すことが出来た。次は足までだ。最後に頭にしよう。さすがに頭を最初にして失敗すればそこで死んでしまうからな。
足の指先まで広げていく。ゆっくりと広げていく事で失敗した時の怪我の酷さが変わるとも教えて貰っている。
「お、出来た。」
私はやはり天才だな、と自画自賛する。次は頭のてっぺんまで流す。ここは細心の注意を払わねばならない…。
流す時はなるべくぶつからないように…あまり体の中の構造は分かっていないが気をつけよう。
「ぐっ…。少し頭痛がするな…。」
「お、できたか?急に頭痛が収まったと思ったら力がめちゃくちゃ湧いてきたな。」
とりあえずダンジョンの壁を殴り付ける。
殴ったと同時にダンジョン全体が激しく揺れる。
「え?こんな強くなるのか?もう一回やってみるか。」
ルキナは反対側の壁を殴る。すると、またもダンジョン全体が激しく揺れる。
「すごくね…?これ敵を倒したい放題?」
ルキナは調子に乗った。これはもうものすごく調子に乗った。敵を見つけては殴る。見つけては殴る。蹴る蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。
「屍鬼多すぎじゃね。」
でっかい屍鬼もいるし、武装し始めるし、骨人とか腐人とかと連携し始めるし、不死者だからなのか?
まさか、ゴーレムと連携してくるとは思わなかった。ただゴーレムもワンパン。なんか殴るだけでゴーレムの半身が消えるの癖になる。魔法を使わなくなった訳では無い。【虚無魔法】による身体強化、【鬼神強化】を使わずともいつもの速度、いつもの威力を出せるようになってしまったからだ。それらを使って壁を殴った日には考えたくもない。ダンジョン崩壊待ったなしかもしれないな…。
しかし、竜蜴人?まで現れた。
相手の攻撃力は凄まじい。1度食らってみたが、腕が痺れる。だが負けるほどでは無い。こちらも殴る。相手は両腕を頭に寄せてガードの姿勢を取った。
「意味無いんだよなそれ、腕ごと頭殴るぞ。」
ルキナは竜蜴人の頭を殴り飛ばす。やはり殴るというのは気持ちいい。蹴るのも気持ちいい。爽快だ、辞められない。
そんなルキナの前に立ちはだかったのは一体のゴーレムだ。いつものゴーレムとは違い。大きいだけでなく、覇気も感じられる。試しに殴りかかろうとする。
「マテ。」
突然、話しかけられたので、誰から!?となり辺りを見回す。そりゃ誰もいない。
「オレダ。ゴーレムダ。オマエコノダンジョンノナカデ物理デアバレテルソウジャナイカ。オレハ【物理無効】トイウ技能ガアル。オマエノ攻撃ナゾキカンゾ。」
「へぇ、それは楽しそうだ。サンドバッグになってくれるってことだよな!!!」
ルキナは勢いをつけ殴る。
ガキーーーーン
「かったいなぁ…それなら【雷魔法】神威。」
ゴーレムに魔法が直撃する。
「ナニヲシタノダ?カユイトコロニキイテキモチイイゾ。オレハミスリルゴーレムダゾ。マホウモキカン。」
「煽られてるのかこれは…。物理無効に魔法攻撃、恐らく高耐性なだけで効きはするのか。物理無効とは聞いたら突破したくなるじゃないか。」
ルキナは再度魔力を体全体に送る。そこから【鬼神強化】【虚無魔法】身体強化 【加速】【蹴神】を放つ。
蹴りが命中すると同時にミスリルゴーレムは後方に吹き飛ばされる。煙が立ちのぼる。煙が晴れると…。
「ナ、ナンダト!?オレノ【物理無効】ヲ突破シタダト!?」
「やっぱり効くじゃないか。【無効】って書いてるからって信じきってたやつだな…。しかもお前さっきより動きが鈍いぜ。おかげでさっきの攻撃もこちらには当たってないけどさっきよりも攻撃を避けやすくなったな。魔法も高耐性なんだろうけど、これは行けるかな。【空間操作】。」
ルキナはゴーレムの上と下を空間の境目にしてそれを左右に分ける。ゴーレムが気づいた時にはもう遅く、ゴーレムは上と下で生き別れとなり、機能が停止した。
『ルキナのレベルが146から150になりました。』
「まだ進化できないのか…。かなりレベルが必要そうだな…。」
『ルキナは鬼神への進化条件を満たしていません。』
『その1:レベル150以上:クリア』
『その2:倒した魔物の数945/1000:未クリア』
『その3:ドッペルゲンガーの討伐:未クリア』
「え?ドッペルゲンガーとかいうのがいるのか。どんなモンスターだろうか。倒した魔物の数はいずれクリア出来る。その1もやっとクリアした感じか。まぁ、そこはいずれ分かるだろうな…。もっと下に潜れば居るかもしれないな…さっさと条件その2をクリアしてしまうか。レベルもまだ上がりそうだしな。」
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学長室にて。
「地動先生の報告によりますと、我が学園が管理しているEランクダンジョン『静観』にてSランクの魔物である『半鬼神』なる種族の『ルキナ』という女がいたとの事。学生の【鑑定】により、相手は複数の技能を持ち、禁忌技能である【暴食】【憤怒】【強欲】を所持しているそうです。称号に関しても、7個あったと言っていましたが、その中で危険なものを抜粋したところ、『無慈悲なる者』『神速の殺し屋』とのことです。こちらへの被害は精神への恐怖はあれど、進退的な被害は無いとのことです。今現在、地動先生含む4名の講師が静観ダンジョンのボス的立ち位置の巨大木人形の先に道がないか調査中とのことです。飛鳥学長、いかが致しましょうか。」
学長と呼ばれた女性、飛鳥 憐黎は、地球上の探索者の中で序列制度が設けられており、上位1桁の者は破格の権限を有するという制度だがそこで序列6位を有している。
「ふむ、Eランクのところで発生したその魔物。名付けられていたのだな。」
「はい、鑑定した学生の供述のもと、判明しています。」
「私も『半鬼神』という種族は聞いたことが無い。今から書庫に向かって『半鬼神』に関する文献を漁ってくれ。禁書庫への立ち入りも許可する。」
「かしこまりました。それで、そのルキナに関してはどうしましょうか。」
「こちらに危害を加えないのであれば泳がせてもいいだろう。」
と思っていたその時、突如学園中が激しく揺れたのだ。
「何事だ!?今すぐ協会に連絡を取れ!」
「わかりました!」
少し時間が経った後、またも学園中、いや学園含むA地区全てが激しく揺れた。先程よりもはるかに強い揺れだ。
学長の秘書は今すぐ協会に連絡を取り、この揺れの発生源の特定をお願いした。
そこから5分後、協会から1本の電話が届く。
「出てくれ。」
「わかりました。」と秘書は電話に出る。
「こちら、美濃探索者専門学校飛鳥学長の秘書でございます。揺れの発生源の特定はできましたか?」
「特定は出来ました。発生源は貴校の管理する『静観ダンジョン』にて確認されました。」
「なるほど、わかりました。御協力ありがとうございます。」
「だ、そうです。飛鳥学長。」
「また『静観』か。」
「あのダンジョン、確かに巨大木人形まではEランクだ。だがそれも改める必要がありそうだな。恐らくこの揺れを起こしたのはルキナだろう。まさかダンジョン内での振動がダンジョン外にまで影響するとは思わなかったが。」
「過去に例が無いですね。通説ではダンジョン内での衝撃はダンジョン内で完結しているのが論文にも出ています。それを逸脱しているということは。」
「世界で6体目の【貴種】の可能性があるな。」
「仮にですよ!仮にそのルキナが今外に出てきたとしたら最大でどこまで被害が出ると思いますか。」
「簡単な事だ、A地区は1発で更地になるだろう。下手をするとC地区まで被害が及ぶかもしれん。君もゆめゆめ忘れないでくれ。Sランクの魔物とはそういうものなのだ。」
「なるほど…。ただ少し気がかりな事がありまして…。」
「何かあるのか?」
「はい、『半鬼神』という種族は確かに知らないですが、『半』が入っている以上、進化先があると思っています。恐らくランクがSで終わるような魔物では無いと思います。」
「少なく見積っても2回は進化の余地を残していると踏んだ方が良さそうだな…。」
「でしたら協会に助けを求めてみるのも良さそうでは。それが無理でしたら学長自ら出向かれるというのは…。」
「それはダメだ。私は個人で核兵器より強い存在なのだ。それが動くということは他の奴らも警戒しなくてはならなくなる。特に協会はそれほどの自体なのか、と気づいて、余計に被害が増えるかもしれない。私が勝てない事はないだろうが、だが念には念を、だ。分かったな。今は激しい揺れだけだ。殺されるなどが無いうちは協会に連絡を取る必要はない。」
「かしこまりました。」
秘書が学長室から出て書庫に向かった後、学長は1人物思いにふける。
「ルキナという魔物、果たして我々にどんな影響をもたらすのやら…。」




