⭕ オフレコ 1
──*──*──*── 2ヵ月後
──*──*──*── オカルト雑誌月刊ウー・編集部
此処はオカルト雑誌 “ 月刊UA ” を生み出している編集部の一角だ。
僕はオカルトライターを目指している見習いの児野豈德。
僕は相変わらずオカルトライター見習いをしている。
8月中限定のアルバイトで来ていたアリコちゃんは9月に入ると土,日になるとオカルト編集部へ遊びに来るようになった。
僕はアリコちゃんとは5歳差だけど1番年齢が近くて仲良くなっていた。
アリコちゃんは編集部の先輩達とも仲良くて、和気藹々としている。
アリコちゃんが高校を卒業し暁にはオカルト編集部に就職が出来るようにと先輩達,上司達が勝手に動いていたりする。
男所帯だからか、“ 女子に入ってもらいたい ” って気持ちが大きいんだろうか。
編集部の皆の妹的存在なアリコちゃんは皆に大人気なんだ。
杜代加有明古
「 コノチ先輩、今は何をしてるの? 」
児野豈德
「 アリコちゃん。
4ヵ月後に始まる新企画に情報提供されてる投稿メールをチェックしてるんだ 」
杜代加有明古
「 それ全部、プリントアウトしたチェック済みのメール? 」
児野豈德
「 そうだよ。
これを清書して、内容別に仕分けするんだ 」
杜代加有明古
「 大変ね。
清書するなんて。
してる事が全然オカルトライターっぽくないよね 」
児野豈德
「 ははは…まぁね。
だけど、ネタは拾えるよ。
募集してるのはラジオ関連のホラーだけど、中には “ ラジオ ” に関係無いホラー話も投稿されてるからね。
ラジオ関連から外れる内容は僕が記事の参考として拝借してるんだ 」
杜代加有明古
「 ふ~ん?
意外とちゃっかりしてるだ。
一寸前に流行ったピン芸人の “ ちゃっかりはん ” みたいね 」
児野豈德
「 ははは!
そう言えば居たね。
最近はめっきり見なくなったけど、芸人を止めたのかな? 」
杜代加有明古
「 未だ止めてはないよ。
入院はしてるけどね 」
児野豈德
「 えっ?
入院してるの?
知らなかったな……。
アリコちゃんは芸人に知り合いでも居るのかい? 」
杜代加有明古
「 アタシには居ないけど、アグ兄が知人から受けた依頼だよ。
家族の誼でオフレコで教えてくれたの 」
児野豈德
「 オフレコで…。
それって他人の僕に話したら駄目な話なんじゃないかな 」
杜代加有明古
「 そうだね。
大事な部分を伏せれば使えるんじゃない?
【 ラジオ de ホラー 】にピッタリの内容だし 」
児野豈德
「 ピッタリって事はラジオ関連なんだ? 」
杜代加有明古
「 そっ!
登場人物は “ Vさん ” にしたら良いんじゃない 」
児野豈德
「 …………確かに “ V ” は芸名の “ ちゃっかりはん ” にも本名にも入ってないから身元は特定されないかも知れないけど… 」
杜代加有明古
「 Vさんは知人のBさんから “ とある ” カセットテープを手渡されたの 」
児野豈德
「 今から話すの?!
打ち込むから待ってくれるかな! 」
僕はアリコちゃんが話してくれるラジオ関連のホラー内容をパソコンに打ち込みながら聞く事になった。
杜代加有明古
「 Vさんは良く分からないカセットテープをBさんから手渡されたんだけど、Bさんからは『 絶対に聞いたら駄目だ 』って言われたそうなの 」
児野豈德
「 聞いたら駄目なカセットテープを渡すなんて何か可怪しくないかな? 」
杜代加有明古
「 一般的に考えても怪しいよね。
普通なら受け取らずに断るだろうし。
だけど、VさんはBさんの意味不明な頼みを立場的に断れなかったの 」
児野豈德
「 立場的に?
知人なんだよね? 」
杜代加有明古
「 表向きには知人だけど、実際には先輩,後輩の仲だったの。
縦社会の厳しい元ヤンの先輩,後輩って事にしときましょう 」
児野豈德
「 元ヤン……。
確かに元ヤン同士の話にすれば、Vさんの身元はバレなさそうだな… 」
杜代加有明古
「 仕方無くBさんからカセットテープを受け取ったVさんは、部屋の片隅に置いて放置しとく事にしたの。
まぁ、無難な選択よね?
意味も訳も分からない怪しいカセットテープの事なんて、さっさと忘れちゃうに限るもの。
Bさんからカセットテープを手渡されて、部屋の片隅に置いて放置をした日から3週間後に、Bさんは亡くなったの 」
児野豈德
「 うん?
どうして亡くなったんだ?
もしかしてカセットテープの呪い??
ラジオホラーなのにカセットテープなのも可怪しな話だけど… 」
杜代加有明古
「 Bさんの死因は呪いじゃなくて、悪ノリし過ぎた不注意で死んじゃっただけ。
カセットテープも全く関係無いよ 」
児野豈德
「 そうなんだ…。
羽目を外し過ぎて、はしゃぎ過ぎて、悪ふざけして、悪ノリし過ぎた──って感じとか? 」
杜代加有明古
「 じゃあ、それで。
Bさんが亡くなって四十九日が終わった頃から、Vさんの身の回りで奇妙な現象が起こり始めたの。
Vさんには奇妙な現象が起こる原因なんて分からないから、気味悪がった 」
児野豈德
「 まぁ、確かに気味は悪いだろうね。
奇妙な現象って例えば……不運に見舞われる…とかかな? 」
杜代加有明古
「 そうだね。
“ ハインリッヒの法則 ” ってあるじゃない?
あんな感じで身の周りで災難が起こるみたいな感じね 」
児野豈德
「 ハインリッヒの法則??
え~と……何だっけ? 」
杜代加有明古
「 分からないならググってよ。
簡単に言えば、大事故が起こる前には必ず中事故が数回起こるの。
中事故が起こる前には必ず小事故が沢山起こってるの。
小事故を見逃し続けてると中事故に変わるんだけど、中事故を見逃し続けてると命に関わるような大事故が発生して大変な目に遭うって事かな。
大事故を起こさない為には小事故の内からきちんと対処する必要があるの。
小事故が起きたらスルーしたり放置しないでちゃんと発生原因を調べて、解明,解決させて中事故が起こらないように未然に防いで行きましょうね──って事かな 」
児野豈德
「 成る程な~~。
アリコちゃんは難しい事を知ってるんだな 」
杜代加有明子古
「 ググったら詳しく分かるから。
アタシのは “ うろ覚え ” なの。
正しいかどうか怪しいからね 」
児野豈德
「 分かった。
後でググっとくよ 」
杜代加有明古
「 ──まぁ、Vさんは “ ハインリッヒの法則 ” なんて知らないから、小事故──些細な失敗,怪我,物忘れ,不運を繰り返す事になるんだけど、深く考えないで無視して過ごすのね。
見逃して、スルーして、知らん顔して過ごしてる内に小事故が何時の間にか中事故に変わってた。
Vさんが気味悪がり出したのは此処等辺からかな。
色んな人に相談をして回ったらみたいよ 」
児野豈德
「 どんな中事故が起き出したのか内容が気になるけど、後に回すとして──、Vさんに相談出来るような相手が居たんだな 」
杜代加有明古
「 居たって事にした方が信憑性が高くならない?
人物を特定されない為には脚色も必要だと思うのよね 」
児野豈德
「 確かに……。
でっち上げではないんだし、多少内容を盛っても問題ないかもな? 」
杜代加有明古
「 Vさんが相談した相手の中に霊感の強い人が居てね、奇妙な現象に悩まされていたVさんは、霊感の強い人からターゲットにロックオンされちゃったのね。
カモられるようになっちゃったの。
霊感の強い人は “ Rさん ” にしましょう 」
児野豈德
「 カモ……かぁ…。
嫌な予感がして来たな…… 」
杜代加有明古
「 そう、Rさんに絶好のカモカモにされちゃったVさんは、別の意味で大変な目に遭う事になるの。
だって、悩んでたり困ってる人に限って、疑いもせずに弱味を見せて相談してくれるから、悪巧みする人にとっては付け入り易いじゃない?
騙し放題のカモり放題よ。
最終的には『 御祓いしてあげる 』とか巧い事でも言って多額の御祓い料を請求して来るんだけど、その前にターゲットに対して色んな小物を買わせてたりして小銭を稼ぐの。
最初は定番の “ お浄めの塩 ” とか “ お浄めの水 ” とか、そんな些細な物から買わせて行くの。
“ お浄めの塩 ” なんて市販のアジシオだし、“ お浄めの水 ” なんて安い塩を水に溶かした食塩水だからね。
それを『 特別だからね 』って言葉巧みに騙して1.000円ぐらいで買わせるの。
効果なんか出るわけないのに、藁にもすがりたい状態のVさんは、心底Rさんの言葉を素直に信じてすっかり騙されてちゃうの。
次から次に効果の全く無い小物を紹介されて買っちゃうのね。
線香,アロマ,石鹸,蝋燭,ミサンガ,数珠,天然石,御守り,御札,ハンカチ,絵画,ペットボトル……色々ね 」
児野豈德
「 質の悪い霊感商法みたいだな…。
酷い事をする奴が居るもんだな。
怪奇より質が悪いんじゃないか? 」
杜代加有明古
「 1番怖いのは金にがめつい貪欲な人間かもね 」
児野豈德
「 そう言うオチで終わったりしないよね?
“ ラジオ ” が全然登場してないし… 」
杜代加有明古
「 未だ続くよ。
一切合切何の効果の無いガラクタを買わされ続けていたVさんの知人がね、Vさんを心配したの。
その知人が知り合いのコネを使ってアグ兄に依頼して来たの 」
児野豈德
「 一気に現実味が増して来たね 」
杜代加有明子古
「 依頼を受けたアグ兄は陰陽師なの。
因みに次男ね。
長男は1級建築士してるから 」
児野豈德
「 アリコちゃんの兄さんって1級建築士と陰陽師なんだ…。
何か凄いね… 」
杜代加有明古
「 此処でオカルトライターをしてる藺羨駛夏って人が居るでしょ?
アグ兄は藺羨さんと知り合いなの 」
児野豈德
「 へぇ?
藺羨さんなら知ってるよ。
編集部の個室を1人で占領してる人だよね。
編集部随一の変わり者だって聞いてるよ 」
杜代加有明古
「 うん、正解!
アグ兄は依頼を受けてVさんと会う事になったの 」
児野豈德
「 会ったんだ…。
それで?? 」
杜代加有明古
「 Vさんの目を覚ましてあげたんだって。
その時にアグ兄は例のカセットテープを回収したの 」
児野豈德
「 うん?
アリコちゃんの兄さんがカセットテープを回収??
何でまた? 」
杜代加有明古
「 カセットテープが奇妙な現象を起こしてる原因だったから 」
児野豈德
「 は?
Bさんから押し付けられた怪しいカセットテープが “ 奇妙な現象の原因 ” だった??
良く分からないな…。
どうしてカセットテープが奇妙な現象を起こしていた原因だったんだ? 」
杜代加有明古
「 怪異かな。
“ 怪異が怪奇を起こしてた ” って事らしいの。
其処等辺の詳しい事情はアグ兄じゃないと分からないよ 」
児野豈德
「 そうなんだ… 」
杜代加有明古
「 回収したカセットテープテープをアグ兄が再生した聞いたらしいんだけど、再生出来ないように粉砕して処分したって 」
児野豈德
「 聞いたんだ?
何で粉砕して処分したんだろうな? 」
杜代加有明古
「 う~~~ん?
ヤバいのが録音されてみたい 」
児野豈德
「 ヤバいの?
アリコちゃん、どんな内容なのか聞いてないの? 」
杜代加有明古
「 深夜ラジオの生放送が録音されてたみたい。
最近のじゃなくて、一昔前のラジオ放送ね 」
児野豈德
「 深夜ラジオの生放送の内容が録音された?
それの何がヤバかったんだろう?? 」
杜代加有明古
「 う~~~ん……それは内容を聞いたアグ兄しか分からないかな~~ 」
児野豈德
「 だろうね… 」
杜代加有明古
「 陰陽師のアグ兄が粉砕して処分するぐらいだから、“ よっぽどだった ” って事だけはアタシにも分かるよ 」
児野豈德
「 う~~~ん……。
どうせならカセットテープに録音されていたラジオの内容を書けたら読者の興味を惹けると思うんだけどな… 」
杜代加有明古
「 其処は興味を持ってもらえるように上手く誤魔化したら良いんじゃない?
オカルトライターの腕の見せ所だと思うけどな 」
児野豈德
「 そうかな?
じゃあ、試しに書いてみるよ。
情報提供してくれて有り難うな、アリコちゃん 」
杜代加有明古
「 どう致しまして。
面白い記事にしてね 」
そう言って僕に笑顔を向けて笑い掛けてくれたアリコちゃんは、僕に手を振りながら他の先輩の所へ行ってしまった。
◎ 訂正しました。
杜代加有明子 ─→ 杜代加有明古
見たら駄目なカセットテープ ─→ 聞いたら駄目なカセットテープ