⭕ 運命の出会い
──*──*──*── オカルト雑誌月刊ウー・編集部
此処はオカルト雑誌 “ 月刊UA ” を生み出している編集部の一角だ。
僕はオカルトライターを目指している見習いの児野豈德と言う。
どうして両親が “ キトク ” なんてふざけた名前を付けたのかは分からないけど、この名前の所為で小学生 ~ 高校生までの学生時代は苛められはしなかったけど、酷く弄られたもんだ。
因みに僕は本名を名乗って仕事をしている。
月刊UAには売れっ子のオカルトライターが何人も居て、僕も売れっ子オカルトライターを目標にして日々頑張っている。
今、僕は新たに立ち上がった新企画に使用する資料集めをしている最中なんだ。
立ち上がった新企画って言うのは、半年後に始まる新企画で名前は【 ラジオ de ホラー 】らしい。
雑誌なのになんで “ ラジオ ” なのか意味が分からないけど、そんな些細な事を気にしていたらオカルト関係の仕事なんて出来ないから気になっても気にしないのがコツだ。
何も居ないのに “ 何か ” の気配を背後に感じても “ 気付いてないフリ ” や “ 気にならないフリ ” をしてやり過ごさないと生き残って出世が出来ない世界がオカルト業界なんだ。
仮に “ 見えちゃいけない何か ” がガッツリと見えちゃっても “ 見えてないフリ ” をしてやり過ごす。
先輩達からも “ 漬け物石だと思って知らんぷりしろ ” と教わっている。
僕は未だ “ 見えない筈の何か ” が見えた事はないんだけど、正直言って態々 “ 見たい ” とは思わない。
見えたら僕の中で “ 何か ” が弾けて終わってしまいそうで嫌なんだ。
“ 見てみたい ” なんて軽々しく言う奴等の神経を疑うね!
“ 怖いもの見たさ ” って言うか純粋な好奇心から来る思いなんだろうけど、『 好奇心は猫も殺す 』って言われるくらいだし、好奇心を持つのも程々にしといた方が良いんじゃないかと僕は思う。
“ 見えない何か ” が “ 見える ” ようになってしまったら、きっと今迄のような平々凡々で暢気な暮らしは出来なくなってしまうんだろうな……。
毎日がスリスリングで “ 見えてる何か ” にビクビクと怯えながら生活しないといけなくなるかも知れないなんて堪らないよ。
後悔先に立たずな日常生活は送りたくないもんだ。
先輩
「 キトク!
資料は集まったか? 」
児野豈德
「 あ──、はい!
此処にあります 」
先輩
「 おっ、やっぱキトクは仕事が早いなぁ!
お前、出来る奴じゃん。
第2会議室で企画の打ち合わせがあるから持ってくぞ 」
児野豈德
「 はい、ボッチ先輩 」
ボッチ先輩
「 キトク、お前も企画会議に参加しろ。
1人2人増えたって誰も気にしないからな。
企画に関われるように確り使える人間だって事をアピールしろ。
企画関係者は雑誌に名前が載るんだ。
色んな企画に参加して名前を売るんだ。
上司に一目置かれるから出世の近道になるぞ 」
児野豈德
「 そうなんですか?
頑張ります! 」
ボッチ先輩
「 出世の道は予想以上にハードだからな。
潰れない程度に上手く調整してやれ。
企画の掛け持ちなんかしたら地獄を見るからな、其処だけは気を付けろ。
後、先輩を蹴落として出世するのは御法度だ。
足を引っ張られて引き摺り下ろされるから注意しろ。
先輩ってのは褒めて煽てて頼りにして気持ち良くさせながら掌の上で上手く転がして使うんだぞ。
可愛い後輩を演じて接する事を忘れるな。
愛嬌は大事だぞ 」
児野豈德
「 は、はい!
肝に銘じて頑張ります! 」
ボッチ先輩が教えてくれた事が事実かどうかは置いといて、助言をしてもらえるってのは嬉しいものだと思う。
オカルト業界は馬鹿みたいに儲かる職業だけど、末端はあんまりと言うか殆んど恩恵を受ける事はない。
僕の給料も見習いで月々12万だし…。
せめて後、3万 ~ 5万円は欲しい所だ。
先輩達は出世には興味ないみたいで、気になるオカルト記事をネットに上げているみたいだ。
月刊UAの公式HPの中にオカルト記事を掲載する場所があって、5名の先輩達がローテーションしながら記事をアップしている。
サイトには新企画を宣伝する広告も出ていて、読者達へ新企画への情報提供を呼び掛けていたりする。
信憑性は低いみたいだけど好き者達からの投稿は多いみたいで内容の裏を取るのが大変みたいだ。
何はともあれ、読者達からも今回の新企画が大いに “ 期待されている ” って事なんだろうから、嬉しい悲鳴ではあると思う。
──*──*──*── 第2会議室
会議室の机の上を軽く拭いたら、コピーした資料とペットボトルを置いて、ホワイトボードを出したら準備完了。
時間の15分前には新企画の打ち合わせをする為に続々と関係者達が入室して来る。
時間になると新企画の会議が始まった。
新企画の打ち合わせ会議に参加したのは初めてだけど、ピリピリ,ギスギスしてるのかと思っていたけど意外と和気藹々としていてフレンドリー感の溢れる会議だった。
暫し笑いが起こったりして、退屈だったり眠たくなったりしない会議だった。
打ち合わせ会議が終了して、会議室の後片付けをボッチ先輩と済ませた。
──*──*──*── 廊下
ボッチ先輩と会議室を出ると見知らぬ女子が立っていた。
高校生ぐらいかな??
ボッチ先輩
「 おぉっ、来たか~~、トヨガン 」
トヨガンと呼ばれた女子
「 トヨガンって呼ばないでよ!
ボッちゃん 」
ボッチ先輩
「 良いだろ、別に。
気にすんなよ、トヨガン 」
トヨガンと呼ばれた女子
「 ボッちゃん、アグ兄に言い付けるからね 」
ボッチ先輩
「 トヨちゃん、それだけは勘弁してくれよな!
あっそうそう。
トヨちゃんにも紹介するよ。
コイツは児野豈德って言ってな、オレの後輩なんだ 」
児野豈德
「 初めまして。
オカルトライター見習いをしている児野豈德です。
宜しくね? 」
トヨちゃんと呼ばれた女子
「 初めまして、コノチ。
杜代加有明古です 」
児野豈德
「 コノチ? 」
杜代加有明古
「 異性に下の名前で呼ばれるの嫌なんでしょ?
だから、アタシは “ コノチ ” って呼ぶね 」
児野豈德
「 …………有り難う? 」
杜代加有明古
「 ふふふ(////)
今から宜しくね、コノチ先輩♪ 」
児野豈德
「 うん?
僕が先輩??
ボッチ先輩、どういう事ですか? 」
ボッチ先輩
「 夏休みの間だけなんだけどな、臨時のバイトに入ってくれる事になった子なんだ。
【 心霊スポット検証 】があるだろ。
あれの手伝いさ 」
児野豈德
「 あぁ!
やたら読者達から人気ある【 心霊スポット検証 】ですか。
何の手伝いですか? 」
ボッチ先輩
「 現地取材だよ。
心霊スポットは人気があるけど、態々立候補してまで行きたがる奴なんて居ないからな 」
児野豈德
「 そんな──!!
大人の男が嫌がるような場所に女の子を行かせるんですか! 」
杜代加有明古
「 アタシは平気だよ。
杜代加家の男は先祖代々陰陽師が多いし、女は祓魔師が多いの。
アタシも祓魔師になる為の教育を幼少時から受けていたし。
アタシは祓魔師になる気ないから、夏休み中はオカルト雑誌で働いてる親戚の手伝いをしてお小遣い稼ぎする事にしたの 」
児野豈德
「 だからって……現地取材なんて危険じゃないか。
取材は夜するんだろう? 」
杜代加有明古
「 昼間に下見を兼ねての現場取材もするけど、メインは夜だし──、確かに夜間の取材時間の方が長いかもね。
その方が雰囲気が出るし、昼間と夜間の動画を左右に分けてアップするみたいだし? 」
児野豈德
「 アリコちゃん、怖くないのかい? 」
杜代加有明古
「 夏は特に虫が多くて困るわかもね。
虫除けスプレーとか吊り下げよう蚊取りは必需品かも。
トンネルの中は夏でも冷えるみたいだから厚手の長袖が必要だって聞いたし。
半袖厳禁,長ズボンも必須だよね。
歩いたり走ったりし易い運動靴がベストみたい? 」
児野豈德
「 いや、そうじゃなくてさ……。
ほら、あの……見えないのが見えちゃったり……とかさ?
途中で気分が悪くなったり、体調が悪くなったりとか…… 」
杜代加有明子古
「 コノチ先輩ったら、あんなの本気にしてるの?
あんなのは全部、演技なのに 」
児野豈德
「 演技だって!? 」
杜代加有明子古
「 そうだよ。
現場の臨場感を出して面白くする為に予め仕込んでる芝居なの。
早々体調が悪くなったり、気分が悪くなったりしないよ。
でっち上げのヤラセだから、信じちゃ駄目だよ? 」
児野豈德
「 …………寒気がしたり、頭が痛くなったり、眩暈がして倒れたりするのも? 」
杜代加有明古
「 眩暈は大袈裟だよね。
その場で吐かせるのは行き過ぎたヤラセだし 」
児野豈德
「 そう…なのか…… 」
杜代加有明古
「 TVなんて視聴者を騙してナンボだもん。
視聴率を取る為なら平気でヤラセもするんだって。
怪奇になんて早々出くわさないし、遭う事もないって親からも聞いてるし。
怪奇現象なんてものの大半は人間の幻想や脳の見せる幻覚症状みたいなものだし、大概の怪奇現象は科学で原因解明されるから本当の怪奇なんて御目に掛かる機会は無いって聞いてるよ 」
児野豈德
「 そうなのか…… 」
杜代加有明古
「 じゃあね、ボッちゃん,コノチ先輩。
アタシ、そろそろ行くわ。
またね~~ 」
今年の夏休みから8月中限定のアルバイトに入ったアリコちゃんとの出会いはこんな感じだった。
まさか、僕がアリコちゃんと交際する事になるなんて、この時の僕は微塵も思っていなかったんだ。
◎ 訂正しました。
杜代加有明子 ─→ 杜代加有明古
名のって ─→ 名乗って