82 毛皮の素晴らしさ
誤字報告いつもありがとうございます。
クローディアの放ったマジカルビームは、アイシャを警戒している左側の顔やグレイを警戒している右側の顔を無視して、どっちつかずだった真ん中の顔の眉間を貫いた。
でもあれ? この手の魔物って漫画なんかだと全ての顔を同時とかあったかもしれないな… それはヤマタノオロチみたいな奴だっけ?
なんて思っていたが、真ん中の顔を撃ち抜かれたケルベロスはそのまま倒れ込み、ダンジョンへと吸収されていく。勝ったんだな!
「ぐぬ… さすがに強くて倒しきれなんだか、無念だ」
「頑丈だったね~」
グレイとアイシャは戦闘終了と共にこちらへと戻ってくるが、特にグレイは悔しそうだな。しかしまぁ物理攻撃一辺倒ではこういった事もままあるんだろうね。ああ、アイシャは火魔法が使えるね。まぁ最近使っている姿は見ていないけど…
「ご主人様! ケルベロスが全部消えそうだよ、消えたらドロップの確認をしてくるね!」
「うん、よろしく頼むよ。毛皮があると良いな…」
そんな事を考えながらケルベロスの完全消滅を待つ。ケルベロスも意外と巨躯だったからね… 体高だけでグレイと同じくらいだったから2メートル以上はあったんだよ、十分でかいよね! まぁそんな訳でダンジョンに吸収されていくのもちょいと時間がかかっていたのだ。
そしてケルベロスが完全に消えた、そしてケルベロスにいた場所にはドロップ品と宝箱が出現したんだが… 部屋の奥、その向こうに階段があると思われる扉… 扉の前に何やら石碑のようなものがいつの間にか現れていた。
「む? あの石碑はまさか?」
「クローディア、アレを知っているの?」
「うむ。とはいえあくまでも聞いた話じゃが… ダンジョンの全ての階層を突破した時に現れる物だと聞いた事があるのじゃ」
「マジで?」
「うむ。まぁ話を聞いたダンジョンはFランクダンジョンで、全部で10階層の小さなダンジョンじゃったがな… 確かそれでFランクダンジョンとなっていたそうじゃ」
「Fランクで10階層か… だとするとEランクで20階層、Dランクで4~50階層というところか。じゃあこのダンジョンはCランクかBランクって事かな?」
「それは石碑に書いてあるそうじゃ、後で確認じゃな」
「うん。じゃあアイシャ、確認を頼む」
「はいっ!」
しかしそうか、このダンジョンをクリアしてしまったという事か。
まぁさらに上のダンジョンもあるだろうし、戦闘欲と向上心の塊なグレイとクローディアは満足しないだろうなぁ。
まぁともかく、今のところミスリル集めの仕事がある事だしこのダンジョンからは離れる事は出来ないな。少なくとも近い内はって話だけど。
「ご主人様! 毛皮があります! オルトロスよりもフカフカです!」
「マジか!?」
よし! 考え事は後回しにして、まずはケルベロスの毛皮の感触を確かめよう!
そして触れてみたケルベロスの毛皮… 素晴らしい! 丁寧にブラッシングされた長毛種の猫、メインクーンを撫でまわしたかのような滑らかな手触り、そして手櫛をしても一切の抜け毛が無いというのもポイントが高いね。
そして特筆すべきはそのサイズだ。犬として見ればあり得ないほどの大型だったケルベロス、よくテレビなんかで見た虎とか熊なんかの1体ものの毛皮よりも大きいのだ! うん、デジタルに言えば幅2メートルで長さが3メートルほどもあるから2人くらいなら十分敷布団の代わりに出来るだろう。
「良いのぅ、この手触り。主よ、ここは最低でも人数分出るまで周回じゃろう?」
「確かにこれは素晴らしいな、これとオルトロスの毛布があれば快眠間違いないだろう」
グレイとクローディアがベタ褒めしている… あ、アイシャは毛皮に顔を突っ込んで堪能中だから声も出せないみたいだな。
もちろん俺の答えは決まっている!
「よし! じゃあ人数分出るまでやるか!」
「「「おうっ!」」」
「っと、その前にあの石碑とやらを確認しておこうか」
「そうじゃの。アイシャよ、ちゃんと文字の勉強をしていれば石碑に書かれている事が読めていたかもしれんというのに… じゃがこれで分かったじゃろう? 次はアイシャも参加するように」
「はい…」
うんうん、勉強は好きじゃないと中々手を付けられないからね、だけどやってみればそこに面白さなんかを見いだせるかもしれない。好きな事なら続けられるからね。そしてグレイは明後日の方向を向いているのだった。
『No.21 Cランクダンジョン突破報酬を授ける、ケルベロスを討伐せし者はこの石碑に触れるべし』
「って書いていると思うんだけど、合ってる?」
「うむ、主はもう読みの方は大丈夫そうじゃの。書く方は何度も繰り返さんと綺麗な字にならんが」
「No.21ってどういう事だと思う?」
「世界各地にあるダンジョンにナンバリングがされている… という事じゃなかろうかの。私も全てのダンジョンを知っているわけではなかったのじゃが… もしそうだとすると、最低でも21個のダンジョンが存在するという事じゃろう」
「ふむぅ… まぁダンジョンが何個あったって大した問題じゃないけど、この規模でCランクと言うのはな…」
「そうじゃの。上を見ればBランク、Aランクとあるじゃろうし、言い伝えによればSランクなんかも存在しているらしいからの」
「それは分からないものなの?」
「そうじゃの。このダンジョンでもそうじゃったように、腕利きの冒険者ですら30階層とか40階層がギリギリなのじゃから、確認のしようがないのじゃ」
「それってつまり、各ダンジョンに出てくる魔物って大差ないって事?」
「うむ。討伐が進んでおる30階層くらいまではどこのダンジョンも同じじゃという事じゃ。違うのは階層数じゃな。恐らくBランクダンジョンに行けば100階層のボスはケルベロスで、そこから先が未知の世界という事になるの」
なるほど… これよりも強い魔物と戦いたければ、更に上位のダンジョンに行けって事なのね。漫画のような各ダンジョンの特色とかって無いんだな… ちょっとがっかりだ。
「よし、じゃあ全員で石碑に触れてみようか」
「ふむ… 普通であれば私達奴隷に安全を確かめさせるところじゃが、主はそうは言わないのじゃな」
「いやいや、俺は言ったよね? 皆の事は仲間だと思ってるって。立場が奴隷だからってどうこうするつもりなんて無いよ。そもそもの話、そろそろ全員を解放できるだけのお金だって貯まっているはずだから解放しに行こうか?」
「いや、私は今のままで構わぬ。奴隷のままでも楽しく過ごさせてもらっておるからの」
「俺も後回しで構わんぞ。わざわざそれだけのために違う街になんぞ面倒でやってられんわ」
「ボクも! ボクはずっとご主人様の奴隷で良いよ!」
「はぁ~。普通は早く解放されたいもんじゃないの? でもまぁいっか、どっちにしたって俺の考えは変わらないからな」
よし、じゃあ早速石碑に触れてみるか!




