55 コカトリスの肉料理っぽいナニカ
誤字報告いつもありがとうございます。
もうそろそろ夕食という時間帯に、俺は宿の庭に出て来ていた。この庭はいつもグレイが鍛錬に使っているスペースだが、実は宿泊客が自分で調理する用の竈が一つだけ置いてあるのだ。
竈に用事… そう、コカトリスの肉を焼いてみようじゃないかと思ってね! 手をお手拭きで清潔にしてから一口サイズにカットして塩もみをする、そして串に刺して焼き鳥なんかを作っちゃおうと思ったわけなんだな! ねぎっぽい野菜も買って来てあるから異世界風のネギマだね!
そんな作業をアイシャが横で見ているんだが… グレイは食べる専門なので調理には興味無し、クローディアは野菜がメインなら来たと思うけど肉だからとスルーされた。そして暇だったであろうアイシャだけがついてきたというわけだね。
そして残念ながら炭というものはどうやらこの世界には存在していないという事… これは本当に残念だ。博識のクローディアに聞いても分からないと言われ、宿の人に聞いても何だそれはなんて言われたんだよ。さすがに料理人にそう言われたら無いんだなって納得するしかないもんね。
一応調理用とされている煙の少ない木材を仕入れてきたが、直火で炙るんじゃ表面焦げ焦げのレア肉が出来上がってしまう… どうしたもんかね。仕方ないが焼き鳥仕様の串刺し肉だけど鉄板で焼いてみるか、味だけでも知りたいしね。
というわけで、一応野営用に購入してあった直径30センチほどのフライパンに油を引き、コカトリスの肉を放り込む。ネギは火が通るのが早いから後入れだね!
生焼け肉で食あたりなんて嫌だから、蓋をして熱を逃がさないように閉じ込める。閉じ込めつつもフライパンを振って肉に焦げ目がつかないよう注意。
数分経ったらネギを放り込み、自分で削って作った菜箸でかき混ぜつつ火の通りを見る。塩の薫りに混ざりながら旨そうな鶏肉の匂いが充満してきて、横にいるアイシャの目が変わってきた…
「アイシャ、旨そうな臭いだと思うか?」
「はいっ! とても美味しそうな臭いです!」
「そうか、じゃあちょっと味見といくか」
「はいっ!!」
味見をと言ってみると非常に元気良く手を上げたので、菜箸でつまんだ一口サイズの肉を少しフーフーしてから口に放り込む。
「もぐもぐ… これはハンバーガーには無い歯ごたえがいいですね!」
「なるほど、歯ごたえか。まぁハンバーグはミンチ肉だから基本柔らかいもんな、ナゲットも食べやすいようにと柔らかく仕込んであるようだし」
まぁ俺も食べてみれば分かるか。ひょいパクっ。
ふむ? これはなかなか旨いんじゃないか? ただ塩で焼いただけなのにこのうま味は… そしてアイシャの言うように鶏肉特有の歯ごたえがあり、ハンバーガーやナゲットでは得られない食感が良い感じだね。
アイシャがピョンピョン跳ねながら待機しているのでもう1個、今度はネギと合わせて口の中に放り込んでやる。菜箸を渡して食べろというと、絶対にネギには手を付けないからね!
「むー、この野菜はお肉と合うかも!」
ほぅ、どうやら気に入ってもらえたようだな。じゃあこれは早速グレイにも食べさせてやるか、作り方が簡単だから、フライパンと油を持たせておけばダンジョン内でも勝手に食べられるかもしれないな。ただの塩焼きですらこんなに美味しいんだ、何か付け合わせをするだけで更に美味しくなりそうだな!
さて思い出せ… 鶏肉に合わせられていた食べ物を… んー、あれ? 全然思い出せないぞ。チキンと言えばメイン食材、チキン竜田揚げとかトマトチキンとかテリヤキチキンとか… あっ! テリヤキバーガーの袋に残るソースをかけたら良いんじゃないか? それにチキンナゲットのBBQソースも! ナゲットのように揚げていないからまた違う味わいになるに違いない! ちょっと夕食で試してみようかね。
そうと決まればコカトリスに肉とネギをどんどんと焼いていこう、焼いたやつからゴミ… じゃなくて収納していけば熱々のままだし、部屋に戻ってから試食だな! どうせグレイとアイシャも食べたいというだろうから多めにしよう。
とりあえず最初に焼いた分はアイシャに持たせる、そうすれば黙々と食べ続けるだろうから俺のやる事は目に入らないはずだ。
アイシャはすぐ考えてる事が顔に出るからな、皆に内緒なってやつはクローディアあたりになら速攻でばれてしまう恐れがある。だからここはいったん目くらましをしておこう。
しかし改めて思ったが、俺って料理の知識が全然無いのな。チキン南蛮とかチキン竜田とか、知っていても作り方なんて想像もつかないよ。この世界の基本料理は薄塩がメインのようだし、この世界で学んでもあまり意味が無いように思えるからそんな気も起きないしね。
あっ! 学ぶと言えばこの世界の文字だ! 相変わらず読めないし書けない… 毎度毎度クローディアに代筆してもらうのも悪くはないが、自分で何かを書かなければいけない時もきっとあるんじゃないかと思っている。
「これはクローディアに相談だな、グレイとアイシャは読み書き出来ないみたいだし全員で勉強会をする必要があるかもしれないな」
「ふぇっ!? べ、勉強ですか?」
ああ、隣にアイシャがいたんだった。俺の独り言が聞こえちゃったみたいだな… まぁ特に耳が良いから多少離れていても聞こえちゃうんだろうけど。
「ああ、やっぱ読み書きは大事だと思うんだ。こうして地上に戻ってきたらやっておいた方が良いんじゃないかって思ってね」
「ほああああ! 読み書きできるようになりたいです! 今まで勉強する事も許されなかったから」
「そっかそっか、やる気があるのは良い事だな。じゃあ次に戻ってきた時には出来るようクローディアと話し合わないとだな」
「はいっ!」
ふむふむ、俺の感性で物を言うと、やはり勉強というのはやっておいて損はないと分かっていても、どうしても嫌々やってるように思ってた。けど勉強が嫌いになるほど関われなかったアイシャにとっては気になる事なんだな、グレイはなんて言うか分からないけどここは諦めてもらうとするか。
そんな事を考えている間に、味見にしてはかなり多めのコカトリスの肉が焼きあがっていた。もちろんネギもね。
「よし、じゃあ部屋に戻って夕食にするか」
「はいっ!!」
 




