29 気合入っていたのに!
誤字報告いつもありがとうございます。
「主よ、そのステッキを私に預けてはくれないか?」
「ん? じゃあマジカルステッキを使うのをやめるって事か?」
「いいや、2本使うのじゃ!」
「ええ?」
マジですかクローディアさん… マジカルステッキだけでも十分強いと思っていたのに、ここで更に二刀流をするって事? 別に必要なくない?
「マジカルビームは光線じゃからな、射線が被らないと複数の敵に当てる事ができん。しかしそこでこのイエローサンダーステッキじゃ、2本使う事で最低でも2体の敵を一気に葬る事も可能になる。これがあれば今まで避けて通った大量の魔物がいる部屋にだって行く事が可能になると思うが」
「うーん… まぁ二刀流がしたいというならば構わないと思うけど、わざわざ危険な部屋に入るのはどうかと思うな」
「いや主よ、大量の魔物が犇めいている部屋はモンスターハウスと言われておっての、それらを殲滅すると少し豪華な宝箱があると言われておるのじゃ。まぁ残念ながら自分の目で確認はできておらんがの」
「ご主人、俺はその話に乗っても良いと思うぞ。俺もそれは聞いた事があるが、まず間違いなく宝箱はあるとの事だ。内容は確かめたことが無いがな」
「なるほど… というか、今までそんな部屋があったの?」
「47階層に1ヵ所あったな、アイシャが見つけたんだが安全のために通り過ぎてきたのだ」
「そうだったのか… まぁでも、そのイエローサンダーステッキ? 実際に使ってみてからだな。思ってたよりも弱かったら何とも言えないしな」
「うむ、承知した。早速明日のボス戦で試してみるのじゃ」
なんともはや… まさかのステッキで二刀流とはね。
いやでも待てよ? 目線で攻撃目標が決まるというのに2本振ったって同一目標に向かっていくんじゃないか? それだと複数の魔物が対象にならないんじゃ…
いや、まぁ魔法を熟知しているエルフのクローディアがやると言っているんだ、多分できるんだろう。もしもできなかったとしても、すぐに判断して戦い方を変えてくれるよね。
翌日、多分朝だと思うけどお腹を空かせたアイシャに起こされて食事となる。
しかしアレだよな… ダンジョンにいると時間の感覚がおかしくなるんだよ。だってね、いつだって微妙に明るい空間が広がっているだけで、朝とか昼とか晩とかで明るさが全く変わらない! 今は一体何時なんだ? なんて分からなくなってしまうんだよ。
そこでかなりの健康体となったアイシャのお腹が頼りになっているんだよね。なんせグレイもクローディアも多少の空腹なら黙って耐えてしまうだろうし、何よりも戦闘を優先させるような行動もちらほらと見えている… なので一番素直であろうアイシャに任せているんだよ。
「さて、じゃあ今日は50階層の階層主に挑むという事でいいね?」
「もちろんだ。まぁ50層ボスの情報が全く無いから、魔物の姿を見てからでないと策の立てようが無いわけだが… まぁ力押しでどうにかなると思っている」
「私もいるしの、物理的にも魔法的にも死角は無いと思うのじゃ。アイシャはダークステッキを借りて主の護衛に徹せよ」
「分かった!」
まぁボスというか階層主というだけあって、そこら辺をうろついている魔物よりは強いんだろうけど、結局力押しとかグレイの思考はヤバいよね? クローディアもある意味ゴリ押しが好きみたいだし敵である魔物が哀れに感じるな… まぁそんな事を言うだけの余裕があればいいんだけどね。
そしてボス部屋の直前に必ずある大きな扉の前に立つ。いつも通り先頭はグレイ、少し間をおいてクローディアが立ちその後ろに俺とアイシャが立つ。
「では行くぞ」
「うむ。しかしいきなり突撃は無しじゃぞ?」
「分かっている。俺が1人なら突撃するのが最良の策だが今はパーティだからな、それくらい弁えているぞ」
「そうかのぅ… まぁいいじゃろ。アイシャよ、後方は任せる」
「うん!」
ゴゴゴゴっと重苦しい音を立てているにもかかわらず、それでいてスムーズに開かれる大きな扉。そしてその向こうには…
「チッ、火蜥蜴だ。こいつはいくら俺でも簡単に接近できないぞ」
「主よ、水のステッキで放水を頼むのじゃ!」
「おう! なんかようやく出番が来たかも!」
火蜥蜴と呼ばれたその魔物、見た目は本当にただ大きな蜥蜴なのだが… うん、全身から燃え上がるように炎を纏っているんだよ。確かにこれでは近づいて斬るなんて行為は相当厳しいかもしれない。ここを突破したというパーティは一体どうやって倒したんだろうな、そっちの方が気になってくるよ。
「行くぞ! 多分水蒸気で視界が悪くなると思うから注意してくれ!」
「承知した、多少でも冷えてくれれば接近して斬るだけだ」
「それ!」
前回やってみたのと同じく、火災現場での放水作業をイメージして大量の水を火蜥蜴に向かって放出する。もちろんいきなり火元に直撃させるのではなくその周囲から冷ましていくようにばらまく。多分こうすればグレイが近づく時に少しは楽になるだろうと。
火蜥蜴の周囲にかかった水からはじゅうじゅうという音と共に水蒸気が上がっている… やばいな、周囲だけでそんなに熱くなっているのか、これは本体にかけたらどうなるんだ? でもやるしかないよね、ああいった火属性ってやつは水が弱点だというのは良くある話、動きが鈍くなってくれれば儲けものだ!
ジュワァァァ!
思った通りすごい水蒸気が発生しだし、一気に視界が悪くなる。しかしそれでも手を止めずに放水を続け、火蜥蜴を水浸しにしてやり魔法を解除。
「クローディア、ここで雷を!」
「承知!」
ガシャァァァン!
近所に落ちた落雷の時みたいな轟音が轟き、その雷は水蒸気の向こうに消えていく…
「よし、俺が行く! 視界が良くなるまで魔法は撃たないでくれ!」
「承知じゃ!」
待ってましたとばかりにグレイが飛び出していく、クローディアも援護のためか後を追うようにスルスルっと前に。
そして静寂が… おや? グレイが持っている大剣なら、斬った時にも結構大きな音が出ていたはずなんだけど何も聞こえないな。まぁグレイほどの大柄な人が倒れたなら音は出るはずだし、何事も無い事を祈るしかないか…
水蒸気が晴れていき、ようやく視界が良くなってくると… グレイが座り込んでいるのを確認できた。
「グレイ! どうした? 怪我か?」
「いや… どうやら雷の魔法で火蜥蜴が死んだらしくてな、俺が着いた時にはもう消えて行く所だったのだ…」
「ああ…」
なるほど、つまりやる気満々で飛び出していったのに魔物が倒されちゃってて不完全燃焼だと、このやる気をどうしてくれるんだという思いで座り込んでいたのかもしれないな…




