215 緊急帰還
新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。
目的を失った俺達は、いつも以上に駆け足で移動をしていた。なぜならのんびり旅をするのも飽きるからだ! それなら急いで戻って魔境に入る! と、グレイが急かしているせいでもある。
まぁね、グレイは相変わらずの戦闘狂だしお預け食らったような状態だ、さっさと魔境の魔物を相手にストレス解消をしたいってところだろう。本当にオーガって種族は怖いね。
国境を越え、アキナイブルー国土に入ってから2日目… クローディアが異変に気付いた。
「主よ、なにやらこの辺の魔力が多少濃くなっている気がするのぅ」
「へ~、ちなみにそれの意味する事は?」
「魔物の量が増えたか、魔物の質が上がったかじゃの。このような場所で多少とはいえ魔力が濃いという事は、まぁ良い事ではないの」
「なるほど。でもこの辺って狼くらいしか魔物はいなかったはず… その狼が激増したって事?」
「それもあり得るのじゃが、ほんの数日前に通った時はそのような気配はなかったからの… どこからかやや強めの魔物が流れてきたと考える方が自然じゃの」
「そっかぁ。でもそういう事であれば、魔物が流れてきた発生源があるって事でしょ? 何度かこの辺は通っているけど、その手の話は聞かなかったよね… あればグレイが絶対行くっていうはずだし」
「そうなのじゃが… 残念ながら先ほどの話は全て推測じゃからのぅ、この先で魔物の姿を確認できれば出現元も割れると思うのじゃ」
「うむ、そうだな。俺もこの辺の事には詳しくないが、強い魔物がいるとは聞いたことがないな」
ふむふむ、つまりグレイとクローディアには知らない事象が起きているってことか? それはまたイレギュラーな話だね… バンガードから魔物素材を運んでいるナイトハルトからもそんな話は聞いたことがないし、なんか嫌なことが起きている… もしくは起きようとしているって事なのだろうか。
「だが心配する必要はないぞご主人、どれだけの魔物であろうと俺が蹴散らしてくれる」
「ボクもいるしね! だからご主人様は安心してて大丈夫! ね? シフ」
「はい、ご主人様の敵は全て殴り倒します。この釘バットで…!」
なんだなんだ、みんな揃って漲っているなぁ。
「大丈夫、そんな心配は最初からしていないよ。俺が参戦しようとしても、到着する前に片付いてそうだもんね」
「その通りだご主人、さすがに分かってきたじゃないか」
お、珍しくグレイがドヤっているな… まぁ筋骨隆々の鬼がドヤっている姿は正直怖いんだが、ここは黙っているとするか… わざわざ士気を下げるようなことをする必要もないしね。
しかし魔力が濃いかぁ… 俺には全く感じる事ができないんだけど、そこはやはり熟練のエルフ魔法使いであるクローディアの専売なんだろうな。最近はステッキを手放さないで、付与されている魔法ばかりを使っているが、すでに高レベルになっているクローディア自身の魔力を使った魔法も相当な高威力になっているんじゃなかろうか。まぁ全然使ってないけどね!
そしてほどなくして、狼以外の魔物と遭遇することとなる。
「むむ? こやつらは魔境にいる魔物ではないか? なぜこのような場所におるのじゃ」
「さぁな、昔から噂されているスタンピードでも起きたのではないか? つまりそこら中に魔物が溢れているかもしれんという事だな」
「それもあるかもしれんのぅ。じゃがそうなると、水と雷の連続攻撃が猛威を振るいそうじゃの! グレイは確かに強いが、攻撃範囲は狭いからの」
「なんだと? 俺だってもっと間合いの長い得物を持てば…」
おっとー、またグレイとクローディアがじゃれあい始めたな? しかもいつもの範囲の話か… これに関しては魔法使いに有利な話だからね、いつもグレイがやり込められているのだけど…
「でもスタンピードだっけ? そうそう起きるものじゃないんじゃ?」
「それはあくまでも魔境外部にいる者たちの考えじゃ、魔境奥地で何が起きているかなど誰にもわからん」
「まぁその通りだけど…」
しかしそうか… 急にそんなことが起きるなんて、もしかして俺達が魔境素材を狩り集めるために侵攻しているからか? でもなぁ、勇者軍団もずっと魔境を狩場にしているはずだし、それはあんまり関係無さそうか。
「ん? スタンピードって魔境から魔物が溢れてくるんだよね?」
「そうじゃな。まぁダンジョンから溢れてくる場合もあるのじゃが、この近辺でそのような事が起きるはずはないのじゃ」
「そうだな、近場のダンジョンは俺達がすでに攻略しているから魔境のスタンピードの線が濃厚だ」
「そうなるとつまり… バンガードが大変ことになっているんじゃ?」
「「!」」
これはかなりまずいのでは? 今のバンガードにガラハドが控えているとはいえ、魔物があまりにも多ければすぐに魔力切れで手が詰まってしまうんじゃないだろうか。
「主よ、これは急いだほうが良さそうじゃ。アイシャよ、主を担ぐのじゃ! シフは私を、グレイは先行してくれ」
「うむ、心得た」
「ご主人様… よいしょ!」
「うわぁぁ~! お手柔らかに頼むよ? というか、身長の都合で考えれば俺を担ぐのはシフの方が良いんじゃ?」
「シフよりもアイシャの方が速いからの、あきらめてアイシャに担がれるがよい」
くぅぅ… これじゃ絵面が… なんて言ってられないか、急いで向かわないと。
SIDE:オーガの里 里長
「戦えるものは全員出ろ! 1匹も里の中に入れるでないぞ!」
突然起こってしまったスタンピード… 里の主力戦士のほとんどがダンジョンに入っていて、残っている者は歳を取った者や子供と妊婦のみ。
まぁ我らオーガは妊婦であろうとも戦うが、それだと腹の中にいる子供が危険だ。数十年ぶりの子供ラッシュ… 里の存続のためには欠かせない次世代の子、これらは何があっても守り抜かないと里長の名が泣くってものだ!
「妊婦と子供はダンジョンの1階層に入れ、この状況であればそちらの方が安全だ! よし、儂も出るぞ! 人間の集落ならばいざ知らず、我らオーガの里を襲ったことを後悔させてやるがいい!」
こうして、わずか30人足らずの年老いたオーガ達は先の見えない防衛戦に突入するのだった。
誤字報告いつもありがとうございます(o*。_。)oペコッ
 




