213 そのころ魔境では?
誤字報告いつもありがとうございます。
「おいそこの者、こちらはゼイ・ターク辺境伯家の者だ。お前たち全員こちらに来てもらおうか」
えええ? 何事もなくという俺の淡い希望が… 一瞬で崩れ去ってしまったよ。
「辺境伯様のお目に留まることができたことを幸運に思うがよい。さぁこちらへ来るのだ」
使いと思わしき人物… 高級そうな軽装鎧を纏っているため護衛の中でも上位に見えるが、やっていることは使い走りなんだよね! しかしこれはどうするべきだろうか。
「主よ、ここで逃げるくらいなら明確に敵対し、追っ手をかけられぬよう潰しておいた方がよいと思うのじゃが?」
「そうだな、どうせ敵対するのだから先手を打っておけばダンジョン探索が捗ると思うぞ」
「ボクもあの偉そうな人間嫌い!」
まぁね、確かにあの使い走りはうちの子達を舐めまわすように見ていた… 特に見た目グラマーなシフをね!
まぁしょうがないか? 確かにゴーマンレッド王国の貴族ともなれば、俺の想像するはるか上を行く馬鹿貴族なんだろうし、まじめに取り合うのも時間の無駄だろうし…
「何をしている! さっさと来ないか!」
うん決めた、俺はこの事に一切口を出さないことに。せいぜいグレイやクローディアを怒らせないことだね。
4人は俺を取り囲むような陣形を取り、俺達を呼びに来た騎士の後を続く。相変わらず先頭はグレイ、進行方向左にアイシャが歩き、右側をシフが。そして俺の後ろにクローディアと…
グレイはいつも通りの感じだが、クローディアはすでにステッキの選定に入っているようだ。とはいえ、対多数戦闘が想定できるのでブルーウォーターステッキとイエローサンダーステッキで決定のようだね。
とりあえず言われるがまま付いていき、辺境伯とやらがいると思われる馬車の近くまでやってきた。
うぉっ! 遠見ではわからなかったけど、ずいぶんと成金趣味的な装飾をしているね… 扉なんか金箔か? ってくらいピカピカと輝いてらっしゃる。馬車を引く馬にもゴテゴテと装飾を施し、日本では一般人を自称する俺には理解できないこだわりっぷりだ。
「うむ、来たか」
使いの騎士が声をかけるとでっぷりとして、非常に不健康そうなおでこの光った男が出てきた。なんだこれ? 漫画にでも出てきそうなほど意地の悪そうな顔立ちで、ニヤニヤしながら俺達を舐めまわすように見てくるんだが… くっ! ただ見られただけでこんなに不愉快になるの初めてだよ!
「ふむふむ、精強そうなオーガだな。そこのエルフも質が良さそうだし兎獣人も良いではないか… それに滅んだと言われている狐獣人までいるではないか! ククク、暇つぶしに外に出てみれば良い拾い物をしたものだ。
よし、オーガのお前と兎獣人は儂が使ってやる。エルフと狐獣人は売れば相当金になるだろう… ん? 普通の人間もいたのか、こいつはいらんな、殺してどこかに埋めてこい」
おおっと、やはりゴーマンレッド王国の貴族とは想像以上の馬鹿野郎だったな。
「今のは宣戦布告という事で間違いないな? ご主人よ、俺はもう我慢はできんぞ」
「私もじゃ。厭らしい目で見おって、不愉快極まりないとはこの事じゃ!」
グレイがキレた! しかもクローディアまで!
「なんだと? この儂を誰だと心得る! 王よりこの地を預かる辺境伯ゼイ・タークだぞ! いや、間もなくこの国の王になるのだ! お前達ごときが気安く口を利ける者ではないのだ! ただ黙って言う事を聞いていればよいのだ! 騎士ども、さっさとこやつらを拘束しろ!」
「はっ!」
ほほぅ、なんかもうあまりの悪徳貴族っぷりに逆に清々しく見えてきたぞ? ある意味すごいねこれ。
だがしかし! すでにクローディアがブルーウォーターステッキを振りかぶっていた…
SIDE:ナイトグリーン王国
「陛下! 大変でございます!」
「一体なんだ、騒々しい」
「魔境から大量の魔物が!」
「なんだと!?」
「現在勇者様率いる部隊が対応しておりますが、すでに多くの魔物が多方面に散らばってしまったとのことです」
「何という事だ! 至急騎士団を招集し、王都の防衛に当たらせろ! そしてその情報を持ちこんだ使者に会わせるのだ、直接話を聞く」
「はっ! 使者として訪れたものは勇者様の護衛騎士の者ですのですぐに会う事ができます!」
「では、当時の事を話せ」
「はっ。魔物が魔境からあふれ出す直前に、魔物と思われる咆哮と地揺れが起こりました。参謀殿の話ですと中心部付近にて強い魔物同士で戦闘が始まったのではないかと…」
「何という事だ、その咆哮に恐れおののいた魔物が逃げだしたという事か。む? そうであるのならその戦闘が終われば魔境へ戻るのではないか? であれば… 無理に討伐せずとも各地で防衛に徹すれば最小被害で乗り越えられるのではないか?」
ふむ、そうすれば最悪魔境近隣の集落や村などに被害は出るかもしれないが、平民などどれほど死んでもどうでもいい事だからな。まぁその分の税収が減ってしまうのは残念だが、騎士の犠牲を出してまで救うこともあるまい。よし。
「各領に伝令! 領都や重要拠点の防衛に徹するよう指示を出せ! 騎士団は王都防衛に入るため出動できんとな!」
ふふん、最初魔物が溢れたと聞いたときは肝が冷えたが、冷静に考えてみれば大したことにはならなさそうだ。多少の被害は出るかもしれんが、魔境の近くに住んでいることを恨むがいい。
「よし、勇者には引き続き魔物のせん滅に努めろと伝令を出せ。王都方面に魔物を1匹も通すなとな」
勇者を名乗らせているのだ、そのくらいはやって見せろ。ま、あいつが死んでも変わりはいるからな、せいぜい勇者らしく戦うがよい。
さて、近頃冒険者ギルドが煩わしい… 奴隷の事などどうでもいい事だろう。まぁいい、どうせ口だけで手は出せないのだ、適当にあしらっておけばいいだろう。




