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誤字報告いつもありがとうございます。
まるでアニメの主人公のような展開から何とか脱出し、後で来るはずのガラハドを迎える準備を始める。飯はどうしようかな? いっちょここらでハンバーガーを食わせてみるのも良いかもしれないな。ポテトとオニオンフライしか食べさせていないし。
「あるぇー?」
「あ、ヒビキ様! ガラハドさんの指示により勝手ながら食事の支度を始めさせていただいてます」
「ガラハドの… じゃあこのバンガードの住人ってこと?」
「はい、夫が魔術師団に勤めておりまして」
「あー… じゃあお願いしますね」
「お任せください!」
なんだか知らんけど給仕のような事を魔術師団員の家族がやってくれるってことか… それは最初に教えてくれても良かったんじゃないかね? まぁ空けていることの方が多いだろうから、管理する人がいるのは確かにありがたいが。
しかしこの様子じゃハンバーガーはまた今度という事になるね、でもこれは仕方がないね!
だがしかし、これじゃやる事がなくなってしまったな… 素直にガラハドが来るのを待つか。しかしなんだ? 魔術師団の家族が俺の事を様付で呼んだんだけど、一体どんな風に話をしているんだか。魔術師団の家族というならリャンシャンで会っているはずなんだけど、どうにも思い出せん… グレイかクローディアが担当したから見てなかったんだろう。
そんなこんなで夕食の時間になり、ガラハドが副師団長の年配の男性を連れてやってきた。
彼らの報告には浅層にいる魔物肉の供給が安定したことと、その付近にある薬草の採集によりバンガードとしての収入が確立しつつあるとの事。
肉に関してはバンガード全体の食料を確保しつつ、その余剰分を販売。薬草に関しては一応確保してはいるが、それを処理できる薬師がいないから大部分を売りに出していると…
「そこで今、ナイトハルト殿の伝手を頼って定住してくれる薬師を探してもらているところだ」
「なるほど。まぁ確かに薬があるのとないのでは安心度が違うからね、良いんじゃないかな。人選をナイトハルトがやるというのなら為人も調査するだろうしね」
薬草かぁ… ゲームみたいに使った瞬間回復するわけじゃないからきちんと処方しないとダメみたいなんだよね。考えてみたらポーション系のアレコレって見てないし、そう都合の良い物なんてないのだろう。俺達にはホワイトヒールステッキがあるから多少は大丈夫なんだろうけど、ほかの人はそうもいかないからね。
「それでヒビキ殿、そちらの報告というのは?」
「ああ、それはね…」
俺はガラハドにここ最近の話を聞かせた。闇ギルドが誰かしらの依頼を受けて俺達を襲ってきたこと。エルフの国ではクローディアが英雄扱いで、そのクローディアを奴隷として使役していた俺に恨みを持っていること。冒険者ギルドの対応に変化があり、なんだか怪しく見える事など。
「なるほど、闇ギルドか… 確かに目的のためなら手段は選ばないと聞いている、我々を人質にと考えてくるかもしれないな。しかし正直言って今の我々のレベルと戦闘経験を積んだ師団員では負けるとは思えんが、注意喚起はしておこう。冒険者ギルドについての変化は我々も感じている、行くたびにヒビキ殿の行方を聞かれるからな」
「いい金づるだと思っているのか、俺たちに何かをやらせようとしているのかは不明だけどね。とりあえず俺達は冒険者ギルドから少し距離を置いてみることにするよ。そして休息の後、ちょっとゴーマンレッド王国にあるというダンジョンを攻略してくるよ」
「ゴーマンレッド王国に? まぁ我々魔術師団が抜けた今ならヒビキ殿に関わっていられるだけの戦力は薄いと思うがあの王の事だ、何をしでかしてくるかは全く読めないから注意してほしい。まぁヒビキ殿のパーティであれば関わってきたとしても一蹴できるだろうが」
「うむ、任せておくのじゃ。この私を買い取ろうとした罪は万死に値するからのぅ」
おやおやクローディアさん、おとなしくしていると思ったら突然の過激発言… まぁ気持ちはわかるけど騒ぎにならないようにほどほどにね?
ナイトハルトは魔境素材の販売に行っているそうで数日は確実に戻らないという事なので、俺達は明日にでも出発しようかね… 何か一泡吹かせられたらと思う自分もいるが、まずはダンジョンだな。
SIDE:○○大学自然鉱石サークル部長、香取
「キャアァァァァ!」
「おいっ! ロープが切れたぞ!」
「あいつが蹴り落していたのを俺は見たぞ!」
「警察! 誰か通報を!」
バンジーのロープが切れ、響の奴の姿が消えた時に騒ぎが始まった。
「ちょっと部長、響が落ちちゃったけど部長のせいだからね! 私達は見てただけだから無関係だからね!」
「部長が響を殺した…」
あーうるせぇうるせぇ! 何を今更無関係を装ってやがる、お前たちが煽るからやっただけだろう! だが警察はまずいな… スマホで撮影している奴はいないな、よし逃げるか。
「お前達、まずはここから離れるぞ! スマホで撮られたりしたら俺達は終わる、それは嫌だろう?」
「当たり前でしょ! なんで私が響程度の事で人生詰まなきゃならないのよ!」
「わかっているなら急げ! 撮影されて拡散されりゃ逃げ場もなくなる… 今しかない!」
そうだ、俺はこんなところで終わるような男じゃない! 響が落ちたのはただ単に整備不良だろう? だが蹴ったところを見られている以上警察は俺達を簡単には解放しないだろう、そうなりゃ動画だって撮られ拡散される…
「あ! 逃げるぞ!」
「この人殺し! 逃げるな!」
うるせぇって言ってんだろ! 今すぐ駆け寄ってぶん殴ってやりたいが… それどころじゃねぇから今は見逃してやる、後で覚えてやがれ。
このバンジー会場が郊外の山間部にあったのはある意味幸いだな、人気があるとはいえそれほど混雑しているわけじゃない。俺は他の部員どもと揃って駐車場にたどり着き、自慢の改造ハイエースに乗り込む。
「よし、どうやらスマホで撮られていないようだな。急いで車を出すから地元に戻るまでの間に口裏を合わせるネタを考えておけ!」
よし、後はもう大丈夫だ。俺達は山間部にあるバンジー会場には来ていない、それで万事解決だ。
アクセルを踏み込み、舗装のされていない道を砂埃を立てながらその場を立ち去るのだった。最後の最後、動き出すハイエースの後部を撮影されていたことに気づかずに。




