196 ホーク親方へ依頼発注
誤字報告いつもありがとうございます。
ガラハドに言われた通り、バンガードの防壁に沿った形で作られていた工房とやらを発見! 大きめの煙突があり、そこから煙が出ているから恐らく仕事をしているんだろう。
このバンガードには不足している物が多いからね、その不足している金物をこの地で自給できるのであればナイトハルトも歓迎する事だろう。あえて問題を挙げるとすれば鉄の仕入れ先くらいかな? 近くに町がないからねぇ。
間近まで迫ってみると、カンカンと鉄を打っているであろう金属音が聞こえる。それほど近所迷惑といった騒音でもないけど、やはり民家の近くには工房を置く事はマズかったんだろうね…
「主よ、私は鍛冶に興味が無いので離れても良いかの?」
「え? 移動する前に言ってくれればその場で別行動にしたのに」
「いや、鍛冶工房の位置と雰囲気を見るためにここまではついてきたのじゃ。こんな拠点で得られる依頼では零細もいいところじゃろうが、仕事はしているという事も確認できたから用は済んだのじゃ」
「零細なのは仕方がない事だけど、別にやる事があるんなら良いよ」
「うむ」
クローディアはスタスタと離れていく。グレイはともかくアイシャ用の武器を頼むという事で、アイシャは俺の傍にいる。そしてシフも一緒だ… 何か興味のある装備でもあるのかな? 刃物はダメだという話だから、対人制圧が目的で作られたという十手みたいなものでも頼んでみようかな? 十手は刀での攻撃を受けても折れないよう円形の棒状に作られていて、受けた際に刀の刃を折るための鈎かぎがついているアレだ。
中国発祥とか日本発祥とか2種類の起源説があるが、そこら辺は正直俺にはどうでもいい情報だ。実物は見た事無いが、時代劇なんかで出てくるのは見たことがある。だから形状とかは何とか伝える事ができると思うんだよね。
そんな事を考えていたら、グレイが扉に近づいてガンガンと豪快にノックを始めた。
「はーいなんすか? 依頼っすか?」
「お前が職人か? 勇者のところにいたと聞いたが」
「自分は親方の助手っす! まだ独立できる程ではないっす!」
「そ、そうか」
おおお… まさか自分が未熟であるとこれほど自信たっぷりに言われるとは思わなかったよ。グレイまでも呆気にとられているじゃないか… でも交渉事をグレイに任せると上から目線で行くからな、ここは俺が代わって話をしよう。
「じゃあその親方に会わせてくれないか? 剣の製造を頼みたいんだ」
「剣っすか… せっかくっすけど鉄の在庫が薄いんで断られると思うっすよ」
「いや、手持ちにミスリルがあるからそれを使ってもらおうと思っているよ。それに鉄なら掃いて捨てるほど持っているからこの工房に卸しても良いよ」
「マジっすか!? ちょっと親方を呼んでくるっす!」
ふっふっふ! やはり鉄は不足していたか。だが俺にはミスリル収集の弊害とも言える鉄のインゴットを本気で捨てるほど持っている! それを交渉材料にすればイケると思ったが予想通りだったようで安心だよ。
少し待つとカンカンいっていた作業音が止まり、奥から先ほどの助手と同じくらいの身長のおっさんが出てきた。うん、助手を見た時も思ったけどこれぞまさにドワーフ! って感じのひげもじゃだね!
「ふむ、人間種にオーガに狐人族… 噂ではエルフもいると聞いていたがお前さんがヒビキという冒険者か?」
「確かに俺は響だけど、エルフは別の事をしているよ」
「なるほどそうか。儂はホーク、見ての通りドワーフの鍛冶師だ。希少金属であるミスリルを大量に集めてくるお前さんのパーティに興味があっての、勇者軍を見限って出て来てやったわ! ガハハハ!」
「お、おう」
いやいやいや、ずんぐりしていて身長も低いのにめちゃくちゃ貫禄があるなぁドワーフって。そして声がでかい!
「そして今日はどうしたって? 剣がどうのと助手に聞いたが」
「そうそう、この娘専用に双剣を作ってもらいたくてね。もちろんミスリルは用意できてるからそれで頼みたい」
「ほほぅ双剣とな、それはまた珍しい事をやろうとしておるな。ちょっと今持っている剣を見せてみろ」
親方の声の大きさにポカンと呆けていたアイシャも何とか再起動し、腰に下げていたミスリルの小剣を手渡す。
「ふむ… 悪くはないがそれほど良いという訳でもない、これを作った鍛冶師は人間種か?」
「そうだね、リャンシャンの街には鍛冶屋が1軒しか無かったから」
「なるほどな… よし良いだろう! 俺がその依頼受けようじゃないか!」
「お、頼めるかい? じゃあ費用の話なんだけど…」
「助手に聞いたが鉄をいっぱい持っておるんだろ? ここにいて金に困る事は無いから鉄でいいぞ、むしろ鉄の方が有難い。仕事をすれば飯は食えるが鉄が無いと仕事ができんからな」
まぁその通りだね! そしてそれも予想通りで俺としても有難い話なんだよね!
そしてアイシャはこれから作る予定の双剣の打ち合わせ。重さとか重心とか色々と調べる事があるという。俺個人としては、今はまだ小柄なアイシャだが着々と肉体的に成長してきているからすぐにサイズが合わなくなるのではないかと思ってる。だからそこまで真面目に合わせなくてもよくない? ってね。
まぁこれから魔境の奥に入っていく予定だから、ちゃんと合わせていた方が安全面で間違い無さそうだから口には出さずに見守っている。
アイシャの小剣を目利きしたホーク親方に対してグレイは思うところがあったのだろう、なんかそわそわしているんだよね。まぁ理由は多分アレだ、アイシャの小剣を可もなく不可もなくと鑑定した事によって自分の大剣はどうなんだろうと考えているに違いない! そしてあわよくば自分の大剣の修正、もしくは新造とかも考えていそうだ。
戦力強化につながるのは間違いないから俺は反対はしない、どうせしばらくは狩りをしつつ魔境に漂う魔力に体を慣らしていくつもりだから時間もそこそこあるからね。俺のスキル謹製のステッキを数多く持つクローディアばかり優遇されている状況なだけに、グレイやアイシャ、シフの強化には手持ちの素材に糸目は付けないつもりだよ!
さて… じゃあ暇そうにしている助手君に十手の相談でもしておこうか、本職ならば俺の説明だけでもある程度は把握してくれそうだし、予想外の改造とかもしてくれるかもしれないしね。
 




