195 バンガードに戻ってきた
誤字報告いつもありがとうございます。
俺達は早々にペンチャンの街を出る事にした。もちろんギルドに顔を出し、違う場所に行くと声をかけてからね。口の達者な受付嬢に引き止められたり何かしらの情報を得ようと喋られたが、そこは一切スルーで… 感じ悪い奴だと思われただろうけど、まぁこの街にはもう来ないかもしれないので良しとする。
そして南下する事18日後の朝… バンガードからペンチャンに向かった時よりも多少早く拠点に辿り着いたのだった。
「あー久しぶりのバンガードだな!」
「そうじゃな… しかしなんじゃ? 何やら雰囲気が変わっておるの」
「うんうん。なんか急に町っぽくなったというか、立派になった?」
入り口の門を開けてもらい、バンガードの中に入った瞬間感じた違和感の正体… うん、やっぱりなんか立派になっているね!
具体的に言えば各種倉庫に鉄製の看板がついてたり、同様にナイフとフォークのマークを表現した看板なども見える。普通に考えてアレは食堂という事になるんだろうね… いつの間に! 建物も増えているし賑やかになった感じがあるんだよ。
「おお! 戻られたかヒビキ殿。ダンジョンはどうであった?」
「ああガラハド、久しぶりだね。ペンチャンダンジョンに行ってみたけどあそこもリャンシャンと同じでCランクだったよ」
「ふむ? ランクが分かったという事は踏破したという事か? 相変わらず凄まじいな…」
「バンガードの方はどうだい? 怪我人とか出てない?」
「うむ。我らも無理せず浅層で狩りをしているので大丈夫だ」
「ところでここの雰囲気が変わってるような気がするけど… 何かあった?」
「おお、気づいたか。実は道に迷ったというドワーフを助けたら、その礼だという事で色々と作ってくれたんだ。あの辺の看板とか各家庭用の鉄製調理器具とかな」
「迷子でこんな所に? それはまたどんだけ方向音痴なんだか」
「うむ。ノリシーオにいたらしいんだが王都に向かおうとしてここに辿り着いたそうだ」
「なんじゃと? ノリシーオからじゃとまるで正反対の方向ではないか」
「うむ」
聞けばそのドワーフ、なんと勇者軍に武器を作っていた鍛冶屋だったという。だがあまりに傲慢な注文に嫌気がさしてノリシーオを出て、これまた驚きの俺達を探す旅に出るところだったという。
なぜ俺達を? って質問にそのドワーフ達は「どうせなら腕の良い者に使ってもらいたい。勇者なんぞダメだアレは」なんだそうだ。
「最後の仕事は大量のミスリルを使った宝剣だったそうだ。勇者が最前線で宝剣を作れと注文したのを受けて愛想が尽きたらしいな」
「ガハハ! 宝剣など実用性皆無ではないか、それだと鍛冶屋に呆れられて当然だな」
宝剣を作れと言ったという勇者にグレイも楽しそうに笑う。それは勇者じゃないなと。クローディアも呆れた顔をしているし、俺だってそう思っているよ。高い金を出して魔王をどうにかするために集めたミスリルなのに、わざわざ装飾を施した宝剣を作れだなんて戦う気は無いのか? ってなるよね! ゴテゴテに飾られた剣じゃ戦闘の邪魔になるらしいし、はっきり言ってどこかに飾る以外は意味が無いとの事だ。
「やれやれじゃな。ところでナイトハルトはどうしたのじゃ?」
「ナイトハルト殿は忙しく働いている。こことアキナイブルーの王都を休みなく往復しているんだ」
「なんと… 商会長なのじゃから部下に任せれば良いじゃろうに」
「現場が楽しいみたいだな、本店やリャンシャン支店は息子たちに任せているから平気だと言っていた」
あらまぁ… 結構なお歳なんだから休めばいいのにね。
「しかしドワーフか、それも勇者の武器を作っていた者となれば腕が立つのだろう? ご主人よ、俺達も何か頼んでみてはどうだろうか」
「ん? 何か欲しい武器でもあるのか?」
「俺ではなくシフにだな。あいつは武器の都合上返り血を浴びやすい… だから刃物を持たせようかと思ってな」
「ダメじゃな。シフは支援魔法を使わせると言うとろうが、刃物のような魔力を散らす装備じゃとそっちが疎かになってしまうのじゃ」
そういえばゲームでは良くある設定だったな、僧侶系の職業が剣などの武器を持てないっていうのは。ちなみにこの世界での魔法界の常識では、鈍器などはセーフだけど刃物となると魔法を使うために練った魔力が剣に向かってしまうんだそうだ。身体能力を強化する魔法ならともかく、魔法を使う際特にミスリル製は魔力を通しやすいから剣に魔力を纏う感じになり、その状態から魔法を使うにはかなりの上級者じゃないと難しいんだとか…
「何を言っているクローディア、アイシャはミスリル製の小剣を使いながらも炎の魔法を使っているではないか。熟練度の問題じゃないのか?」
「アイシャは特別じゃ。種族的に炎に対しての適性があり、当たり前のように使いこなしてきてるから出来るというだけじゃ。魔法に関しては駆け出しのシフにそれを求めるのは酷というものじゃな」
しかし支援魔法か… 俺のハンバーガーによって付与されるバフと似たような事を魔法でやるって事だろ? その魔法を受けたらどんな感じがするのかねぇ、気になるな。
「とにかくだ、そのドワーフがここに駐在するのであれば腕の方を見ておいた方が良いだろう。例えばアイシャの小剣を二刀流にしてみようかと思っていたんだが、その剣を打たせてはどうだろうか?」
「アイシャが二刀流? いや、それがアイシャにとって良いものなら反対はしないけど」
「普段は小盾を持たせているだろう? それが剣になるだけだ。アイシャは器用だからそっちの方がより安全かつ攻撃力も増すと思うんだがな」
「なるほど… 安全も増すというのであればむしろ推奨したいところだな」
「アイシャはどうだ? 盾ではなく剣の方が逆に守りやすいだろう?」
「え? ボクはどっちでも大丈夫だと思うよ」
ま、まぁ本人も大丈夫みたいだからちょっと交渉でもしてみるかね。
「で、そのドワーフの鍛冶屋はどこにいるんだ?」
「その者は隅っこの方に工房を作っているからそこに行けば会えるだろう。ヒビキ殿にも興味を持っていたようだから引き受けてくれると思う」
「なるほど、じゃあちょっと行ってみようか。じゃあガラハド、気を付けてね」
立ち話を終えたガラハドは、これから部隊を率いて魔境に入るという。朝から狩りとは本当に勤勉だな。
じゃあちょっとそのドワーフに会いに行ってみるかね!




