186 夜に備えて…
誤字報告いつもありがとうございます。
「こんなものでいいか? ご主人」
「ああ、良い感じだね。後は周りをなだらかにして違和感を無くしてっと」
グレイには力仕事を頼んでいた。まぁ俺でもできる事なんだけど、やはり体力と腕力的にグレイが一番早そうだったからね。
「アイシャ、付近に気配は?」
「ないよ!」
「よし、まぁ仮に見られていたとしてもかなり距離があるはずだから詳細まではバレないだろう」
「そうじゃの。しかし主よ、またなんとも古典的な罠を考えたものじゃな」
「どうせ来るのは夜間だろ? だとしたらバッチリじゃないか?」
「まぁの、さすがにこれはアイシャでも気づけないかもしれんの」
「うん! だからちょっと興味あるよ、自分でもやってみたいって!」
「あはは! まぁ自分から罠にかかる必要なんて無いだろうさ」
よし、迎撃の準備は整った! といっても戦闘開始は先ほど言ったように夜間になるだろう、これだけひらけた場所に陣取っているからこっそり近づくなんて出来ないもんね。
そんなわけで俺達は今、街から5キロほど離れた場所にある荒野とも言えるようなところで焼き肉の準備をしている。まぁ現代日本にあったような炭とかは無いから魔道コンロ頼りになるけどね… それでもコンロの上に特注の薄い鉄板をセットするとそこそこの焼き肉は出来るのだ! 網焼きじゃないから油がちょっと多めになるが、そこは仕方がないだろう。
「さて、後は夜になるまでのんびりと楽しもうか」
「うむ、コカトリスの肉もいいがハンバーガーも頼みたい」
「私も今日くらいは肉を多めに食べるかのぅ」
塩をまぶしたコカトリスの肉を鉄板の上で焼き始める。熱くなった鉄板からはすぐにジュージューと食欲をそそる音が鳴り始め、ほんのりと煙が立ち上っていく。端の方に切り分けた野菜を並べゆっくりと火を通していく… うん、早速美味そうな香りがしてきたよ! よし、早速食べるか!
SIDE:闇ギルド、チームリーダーポール
「おい… あれは何をしてるんだと思う?」
「うーん、薄っすらと煙っぽいのが見えるな。5人で何かを囲っているようだし」
「チッ、遠すぎて良く分かんねーよ! どうすんだ? もうこのまま襲っちまうか?」
「いや待て、さすがにこれだけ見通しが良ければどれだけ気配を消しても途中でバレるだろう。なんせ向こうには獣人が2人もいるんだからな」
「しかも想定していた人数よりも増えているからな、これだとこちらが不利になる」
うむ、対人戦闘はお手の物だが人数差があれば完璧に済まない事があるからな… ここは慎重にいきたいところだが、もしもあのまま夜まで何かをやっているんなら勝負は今夜だな。しかもなんだ? 増えたというあの兎人族は! 良い体してんじゃねーか。見つけた奴もあの兎人族を狙っているようだが、これは譲ってやれる女じゃないな。
「よし、じゃあ交代で見張りだな。もしあのまま夜までいるのであれば… ヤルぞ」
「おおう! そうこなくっちゃなぁ! だがあの兎人族は俺がもらうぜ!」
「それはどうかな? 早い者勝ちと言いたいところだが、それをやるとお前達は任務を放り出してあの兎人族を確保しに行くだろう? だから任務への貢献度で決めようじゃないか」
「お? そりゃどういう事だ?」
「なに、簡単な話だ。相手は5人でこちらは4人、無力化できた人数の多い奴が勝ちって事だ」
「ほほぅ… ポールよ、お前俺のやる気を引き出すの上手いじゃないかよ。よし、俺は乗ったぜ!」
「ああ、だけど一番貢献度が高いのはあのオーガを倒した奴だな。間違いなくあれが一番強いだろうしな」
「いいぜそれで。だが狐人族も兎人族も夜目が効くはずだろ? 逃がさんようにしないといけないよな?」
「それもそうだな…」
うーむどうするか… 上手くやる気を引き出せたのはいいが、このままだと俺が決めた案のせいで兎人族を取り損なうぞ? まぁいいか、狐人族と兎人族の2人を捕らえてしまえば人数差って事で押し切れそうだしな。
「お前達もそれで構わないか?」
「ああ、それでいい」
「おれはあの狐人族でいいぞ、兎人族は勝手にやってくれ」
「ギャハハッ! お前はそういえば幼女趣味だったなぁ!」
「まぁな。あの狐人族は幼女という訳ではないが、一番若そうだからアレでいい」
よしよし、とりあえず話はまとまったな。上手くいけば今夜で仕事はお終いだ、ようやく地元へ帰れるぜ。
「よし、じゃあ今後は2人組で動くぞ。2人はここから監視し、残り2人はここで食えるような食糧の買い出しだ。さっきも言ったが交代で監視し、夜に備えて体力の温存だ」
「クククッ、夜に備えて体力の温存ってなんかエロいな!」
「うるさい黙れ!」
「ギャハハッ! じゃあ俺は見張っているから適当に食いもんを頼むぜ」
うしっ! なんか俺も漲ってきたぜ! 別にエロは関係無いけどな!
SIDE:エルフの組合員ジャン
エルマンに伝令を頼み、送り出してからクローディア様の行方を探る。ギルドに顔を出した後は街の外へと出てしまったんだが… こりゃ参ったね、街中なら気配はごまかせても外ではそうもいかない。あの狐人族の小娘もなんだかんだとダンジョン踏破のメンバーだ、それを考えれば半端な距離じゃ尾行も難しいだろう。
ただでさえ闇ギルドにも気を付けなきゃいけないってのに、獣人2人を含んだパーティの尾行なんて至難の業だ。まぁ普通の人間種ならばな。
エルフは総じて狩人の性質を持っている、特に視力の良さは他のどんな種族にも負けないほどだ。だから獣人の気配察知の外からでも視認する事は可能だ… もちろん欠点もある。稜線を越えられれば当然見えないし、何かがあった時にすぐに駆け付けるという事も出来ない。距離があるからな。
だが現状こうするしかないんだよな… 多分近づけばあのオーガや獣人どもが襲ってくるだろうし、クローディア様は助けてはくれないだろう。まだまだ信用なんて無いから仕方がないが、それでも人間種なんぞに劣っているというのは納得ができん。
「先ほどの話しぶりだと闇ギルドの連中をおびき寄せるようだが、間違いなく闇討ちしてくるであろう暗殺者が相手ではクローディア様が傷を負ってしまう可能性がある。それを止めるにはどうすれば…」
とりあえず夜まではまだ時間はある、バレない距離を保ったまま作戦を練らないとな。
 




