174 宿を取ります
誤字報告いつもありがとうございます。
「はいいらっしゃい! 宿泊ですか? それともお食事で?」
「ギルドの紹介できたんだけど、1泊5人を頼めるかい」
「まぁギルドの? ではお1人様食事無しで銀貨5枚になります。食堂でお食事される場合は注文時にお支払いいただきます」
「わかったよ」
あえてギルドの紹介と告げてみたが、やはりギルドから客を斡旋してもらったといえばそう悪い扱いにはならないだろうという判断だったが、元よりそんな必要はなかったみたいだな。女将さんらしき人も温厚そうだし、シフに対する視線も厳しくない… うん、これならのんびりできそうだな。
そして部屋に案内されて一息をつく。
「ふむ、4人部屋なんだ。5人分の宿泊費払ったのに」
「まぁ本来奴隷というのはそういう扱いじゃからな、いくらこの国がある程度奴隷に寛容じゃとしても」
「まぁいいか、ベッドが4つでもいつも困ってないもんね」
残念な事にそういう事だった。
確かに今のシフには奴隷の首輪がついているからね、誰にでも奴隷だと分かるように。
「なんか久しぶりに奴隷の対応をされた気がしますね。ご主人様に買われてから、私は皆さんと同じに扱って頂いていたのですっかり忘れていました」
「まぁそうじゃろうな。私達も主に出会ったその日からこのような扱いじゃったからな、途中で自分が奴隷じゃという事を忘れる事もあったの」
「うむ、確かにな」
「でもご主人様! そろそろシフも買い取った額以上に稼げたと思うけど!」
「そうだね、まぁぶっちゃけてしまうと全く計算していないから差し引きが分からん! ここのダンジョンアタックが終わったらカヤキス商会の本店に行って奴隷解除でもしてもらうか」
「まぁナイトハルトがいれば… じゃけれどな。いなければ二度手間になるがバンガードに向かい、ナイトハルトを連れて行くしかないじゃろ」
「え? まさかこの数ヶ月でもう奴隷解除していただけるんですか? もしかして私は役に立てませんでしたか? 捨てられちゃうんですか?」
おや? シフの奴隷解除の話をしていたら、どうやらシフが勘違いをしてしまったようだ。
いやでも、奴隷解除の話なのにどうして捨てるだのって事になるんだ?
「おいシフ落ち着け、ご主人はそんな事をする人間ではないぞ。一体何を勘違いしているのだ」
「ええ? で、でも奴隷契約を解除するって…」
「それはお前についているその首輪を外すという事だ。どうせお前も奴隷解除されたからといってどこかに行くわけではないだろう?」
「もちろんです! 私はご主人様にずっとお仕えするんです!」
「ならば何も問題は無い。俺やクローディア、アイシャだって元々奴隷だったんだが、こうして奴隷じゃなくなってもご主人はそばに置いてくれているだろう? まぁついてくるなと言われても付きまとうがな! フハハハッ!」
「ボクも! ボクもずっと付きまとうの!」
「いやいや、付きまとうって言い方!」
ああなるほど、奴隷の解除じゃなくて奴隷契約の解除だと思っちゃったのか。シフの中では役に立てていないという気持ちがあったからこそ、また奴隷商会に売り飛ばされると思っちゃったんだな。
まぁグレイが豪快に付きまとう宣言をしたせいで、悲壮感の漂っていたシフの顔は落ち着いたようにも見えるが。
「そういう事じゃ。ただ単純にシフについているその首輪を外すというだけじゃ、何も役に立ってないなど誰も思ってはおらん。それにアレじゃろ? もうシフも主の出すハンバーガー以外の食事など考えられんじゃろ? ならば立場が変わってもついてくるだけで良いのじゃ」
「そ、そうですか? じゃあ私も付きまといます!」
「だから言い方!」
なんということでしょう。実は俺、この4人に付きまとわれていたのか! なんてね。
まだ夕方にもなっていない時間帯だが、せっかくなのでいつものようにベッドにケルベロスの毛皮を敷き、ゴロゴロと体を休める事にした。
SIDE:エルフの組合員ジャン
「おお! ここがリャンシャンか… ここにクローディア様が…」
「おい! ちょっと待て!」
「ど、どうしたんだエルマン、急に立ち止まって」
「あれを見ろ… あそこにいる冒険者風の4人組だ」
「冒険者風の4人組? 何だって急にそんな事… って、あいつら!?」
「ああ、間違いなく闇ギルドの者だろう」
「なんだってそんな連中がこんな場所に? もしや!」
「恐らくクローディア様を奴隷に墜とした何者かが、近頃の活躍を耳にして手配したと考えるべきだろうな」
「ええ? しかしもしそうならどうしてこの街を出て行くんだ? まさかもう仕事を終えたって事か! あの野郎ども!」
「待て待て! 良く見てみろ、とても任務達成したような雰囲気じゃない。もしかするとクローディア様はすでにこの街に居なかったから、次の候補地へと向かうところなのかもしれん」
「なるほど… だがだからといって確認も無しにあいつらを追いかける事は出来ねぇぞ? せめて自分の手でこの街で情報を得ないと」
「その通りだ。だからここで二手に分かれよう、俺はあいつらを尾行するからお前はリャンシャンの街で情報を収集して来い。もちろん要所要所に目印を置いていく、お前も収集が終わったらそれを目安に追って来い」
「ぐぬ… それしかないか。だけどエルマン、お前の方はそれで大丈夫なのか?」
「おいおいジャン、お前は何十年俺と組んでいるんだ? 俺が尾行すると言って失敗するなんて事あると思っているのか?」
「そりゃそうだが… しかし奴らだって暗殺にかけては一流の闇ギルド員だろう?」
「何を言っている? 俺は生粋のシューターだ、2~3キロ離れたって視認できるから十分な距離を保って追いかけるに決まっているだろう」
「まぁそうか… む? あいつらは馬車を使うようだぞ?」
「馬車か… それだと却って尾行しやすくなるな。よし! じゃあそっちは任せた、俺は距離を保ちつつ尾行を開始する。目印を見失うなよ?」
「見失う訳無いだろう! それこそ何十年お前とつるんでいると思ってるんだ? だが了解した、すぐに情報収集して追いかけるぜ」
「うむ。では近いうちにまた会おう」
「おうっ!」
エルマンはそう言い残し、馬車の向いている方向に少しだけ先行するように歩き始めた。あれは尾行を悟られ難くするためにやるいつもの行動だ… 追われる側は後ろばかり見るもんだからな、途中で追い越した者の事はそうそう疑う事は出来ないはずだ。
だがしかし闇ギルドの連中は腕が立つと噂されている… いくらエルマンでもバレないとは言い切れないだろう。ならば俺のやる事は一つ! 早急に情報収集してエルマンを追い、追いつく事だ。
よし、急ぐぜ!
 




