171 バンガードへの来訪者2
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ガラハド
「え!? まさかノリシーオを出た瞬間から方向を間違ってたっすか!?」
ノリシーオから来たのか… しかし王都に行こうとして反対側に来るものか? ドワーフ種であり普通に鍛冶職人のようにも見えるが、一応油断なく接しておこう。
「水と食料の補給との事だが、先ほども言ったように多少なら出来る。ああ、水は井戸があるからそれは大丈夫だが… まぁ魔境由来の魔物の干し肉程度しかないがそれでも構わないか?」
「十分有難いっす! 出来れば一晩だけでも休ませてもらえればと思ってるっすけど」
「ふむ、先ほども言ったようにここには宿がない、物置小屋しか無いが…」
「屋根があるだけで十分っす!」
「そういう事なら仕方あるまい、店主不在だからあまり勝手は出来ないが一晩くらいなら良いだろう。では中へ」
「うむ、感謝する。ところで魔境由来の干し肉と言ってたが、早速買わせてもらえるか?」
「ああ、魔境由来と言っても浅層にうろついているボアの肉だがな」
「ほぅ、ボアの肉なら保存食とはいえ申し分ないな」
うーむ… 態度や顔色から察するに、どうやら本当に迷っていたのか? 見た感じ職人の頭領と弟子といった感じだが… まぁいい、せっかくノリシーオから来たというのだ、勇者関連の情報を多少引き出せるか試してみるか。
「ところでノリシーオから来たというが、あの街は多くの冒険者で賑わっていると聞く。見たところ職人のようだが仕事がなかったのか?」
「確かに賑わっているように見えるっす。でも実際には勇者の連中にこき使われてる人だらけっすよ! 親方も安い金で良い物を作れといっぱい圧力かけられてたっす! 特にキノ・コノヤマって貴族がうざいっす!」
「ほほぅ…」
うーむ、噂で聞いた限りでは、ノリシーオにいる勇者関係者はまるで宗教のように勇者を信奉していると聞く。さすがに演技でもこれだけ勇者に悪態をつく事は信奉者にしてみれば屈辱な事だろう。だがこの2人は穏やかな顔で勇者関係者を悪し様に言い切った、これは関係者ではないという事だろうか。
「自分も親方も寝る暇を惜しまないと出来ないようなスケジュールを組まされて、もう疲れ果てたっす。最後の仕事を片付けてから街を出て来てやったっす!」
「出た瞬間に道に迷っていたようだがな」
「親方! それは言っちゃいけないっす!」
なんだか仲が良いな、この2人は…
だが幸運な事にまだこの拠点は運用されていない。だからここにある倉庫には常駐者用の食料と、我らが狩ってきた浅層の魔物素材しか無いから万が一盗賊に関わる者であっても被害は少ないと言える。やはりここは情報収集を進めていこうか。
なんだかんだ会話をしていると、これは紛れもなく勇者とは無縁の者であると判断できるな。しかしなんだ? 勇者と名乗っているにもかかわらず魔境攻略は遅々として進んでおらず、戦力の強化よりも見栄えのする装備品を先に注文するとはどうなっているのだ? 確か周辺国には魔王を討伐するためと名分を掲げて資金の援助を受けていたはず、ゴーマンレッド王国にもその通達が来ていた事を覚えている。まぁあの王は突っぱねていたがな… ヒビキ殿が集めてきたミスリルを購入するのは良いが、購入資金は援助された金だというのに宝剣もどきを作成するとはな。
しかしこう結果を突き付けられるとクローディア殿の慧眼は凄まじいな、勇者がボンクラだから自分達で魔王を討つと言ってた言葉の意味がしっかりと理解できるというものだな。
「うぉー! 干し肉なのに美味いっす!」
「いいから黙って食え!」
ふふっ、なんだかこの2人、師弟というよりも親子のように見えるな。
SIDE:ヒビキ・アカツキ
俺達は今アイアンゴーレムを駆逐しながら進んでいる。ダンジョンに入ってもう何日目だ? 最初はちゃんと数えていたんだけどもうわけが分からなくなっちゃってるよ。今進んでいるのは75階層、80階層に着くとお馴染みのミスリルゴーレムがいるはずだ。
ここまで来ると、リャンシャンで常日頃ルーティン化していた狩りと変わらないので妙な安心感があるな。グレイは金棒に装備を切り替えて殴打、クローディアは放水からの雷撃コンボ、アイシャは短剣で関節部位を破壊してからの討伐、そしてシフは…
「行きます!」
持ち前の素早さと、異常とも言えるジャンプ力であっという間にゴーレムの頭部より上に飛ぶ。反応の追いつかないアイアンゴーレムに対して釘バットを大きく振りかぶり、回転するように体重を乗せて振り下ろす。
ガキィィィィィン! ドサッ
うん、一撃だね。
やはり鈍器はゴーレムと相性が良いのだろう、対ゴーレムに関してはアイシャよりも遥かに効率良く倒せているのだ。やはりアタッカーが増えると効率が良すぎて逆に困るな…
「シフよ、お前はもう下がっていろ。後は俺がやる」
「順番じゃと言うてるじゃろうが! 私もちゃんと戦闘をこなさんと勘が鈍るのじゃ」
「何が鈍るのだ? 別に体を動かして戦う訳でもあるまいに、魔法だけなら使わんでも鈍るものではないだろう」
「無理じゃな、順番というたら順番なのじゃ」
こんな調子である。
効率がとかそう言った次元ではなく、すでに魔物の方が足りていないのだ。
アイシャは索敵など戦闘の他にも役割があるからか、こういった言い争いには参加はしない。こんな時はいつも俺の横だったり後ろだったりをせわしなくウロチョロするんだよ。まぁ側面や背後の警戒をしてくれてるんだろう。さて、そろそろ止めるか。
「はいはい順番な、グレイも戦いたいのは分かるけどゴーレムは結構な数が出てくるし… な?」
「むぅ、分かったのだご主人」
よしよし。でもこの調子だとどこかで息抜きというか、1日フリーにして狩らせないとダメかもな。この辺の階層は広いから1日や2日で階段まで行けないから、80階層に着いたらいつものようにって訳にもいかないだろう。まぁ76階層への階段が見つかれば、グレイを76階層に放り投げてクローディアを75階層で狩らせればいいか。シフとアイシャはゴリゴリの脳筋というわけじゃないから大丈夫だろう。
「よし、じゃあ進んで行くか。くれぐれも喧嘩しないようにね」
「分かっておるのじゃ」
「うむ」
本当か? 信じるからな?




