170 バンガードへの来訪者1
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ガラハド
「師団長! 北の方向に人影が見えます! 2名!」
「本当か? しかしこんな所に人が来るか? 別に道があるというわけでもないというのに。とりあえず警戒しろ! 不審な点があれば逐次報告せよ!」
「了解!」
バンガードの北側に設置されている物見櫓からの報告だが、2名であれば盗賊の類ではなさそうだが… あるいは警戒させないように少数にしての偵察か? 過去にグレイ殿が20名ほどの盗賊集団を追い払ったとは聞いているが、その報復なのだろうか。
我々魔術師団は、元々ゴーマンレッド王国に所属時には戦争も見据えた戦闘部隊だ。まぁヒビキ殿のパーティの強さやクローディア殿の魔法を見て自信は喪失気味だったが、盗賊程度に後れを取るような部隊ではない。まぁ相手の人数によるがな。
「よし、一応門は閉めておけ、魔境への出撃は一時中止だ!」
「師団長、たった2名にそんな備えが必要ですかな?」
「世の中は広いんだ、あの2名がグレイ殿くらい強かったらどうするつもりだ? あっという間に我らは壊滅するぞ? それと師団長と呼ぶなとあれほど…」
「師団長、そこは諦めてはどうかな? そう呼び慣れているから今更変えられんわい。だがしかしグレイ殿ほどとなれば勝ち目はないですな、門を閉めていても同様かと」
「そこは気持ちの問題だ。ヒビキ殿やナイトハルト殿が不在の時に、この地を奪われたなどとなってはならんからな」
拠点内部からだと外の様子は全く見えない、塀が高すぎるからな。しかし情報が足りないな…
「おいっ! 見えている2名の風貌はどんな感じだ? それとここに到達するまでの予想時間は?」
「見えている2名はずんぐりとしている気がします、恐らくはドワーフ種かと! そして今の歩みだとバンガード到達まで1時間前後かと!」
「了解した!」
ふむ? ドワーフ種だとはどういう事だろうか… ナイトハルト殿が手配した者なのか? いや、そのような報告は聞いていない。やはり警戒を解く訳にはいかないか。
「総員念のため戦闘用意! 見張りは相手側の動向が分かるまで攻撃は禁止だ、もしも交渉する余地があるようなら俺が出る!」
「総員戦闘配置せよ!」
「「「了解っ!」」」
さて、あまり面倒な事になってくれるなよ? そういった事はヒビキ殿のいる時に起こってくれ。レベル的に見れば我ら魔術師団は高い方だが、相手が2名と油断をすればこちらも無傷とはいかなくなるだろうからな。
うむ、到着を待つしかないな。
SIDE:ホーク
「おい弟子よ、魔境に沿って移動すれば王都に着くんじゃなかったのか?」
「そのはずっすけど… あれぇ?」
なんという事だ、弟子に任せてノリシーオを出たのはいいが、まさかこの歳になって迷子とはな… そろそろ食料の備蓄が無くなりそうだ… まずいぞ。
「あっ! 親方アレを見てください、結構遠くですが囲いが見えます!」
「見えとるわい、だがどう見ても王都には見えんぞ」
「いやいや、あそこで道を聞く事が可能っすよ! なんなら水と食料を売ってもらえるかもしれないっす!」
「ふむ、確かにそれができるのならば行く価値はあるか。まぁあれほど立派な防壁だ、まさか盗賊のアジトという事もあるまい」
勇者共の下働きはごめんだとノリシーオを出たのは何日前だったか… あの防壁の内部がどうなっておるのかは分からんが、宿でもあると助かるな… 野宿のし過ぎで体がガタガタ言うとるわい。
わしらドワーフ種は背も低ければ足も短い… 当然歩幅の関係で移動速度は普通に遅い。走れば良いんだろうが、何があるか分からん魔境の近くで体力を無駄に使う事は出来んからな。
「親方、端っこに見える櫓に人が立ってるっすね、一体何の集落なんですかね」
「何のってお前… 魔境の近くに作っているのだから素材集めがしたい商人か、複数の冒険者パーティが資金を出し合って作った物くらいしか無いだろう」
「そうっすねぇ。でも冒険者パーティがあれほどの施設を作れるとは思えないっす、商人じゃないっすかね」
「そうだといいがな、そうすれば水も食料も売ってもらえるかもしれんし宿もあるかもしれん」
「宿… ベッドが恋しいっす親方!」
「わしもだ」
さて、変に業突く張りな商人でない事を祈ろうか… 多少高値をつけられても現状買うしか選択肢は無いが、あまりにもぼったくりだとさすがにな。金は確かに持ってはいるが、無駄使いをするかどうかは別問題だからな。ま、忙しすぎて使う暇の無かった金だ… 酒が置いてあれば買うしかないがな!
小1時間ほど歩き、ようやく防壁のところへと辿り着いた。櫓の上に立っていた者の眼は厳しく、何かを警戒している雰囲気だったな。まぁこんな辺鄙な場所だ、通りすがりの盗賊とかも来たりするだろうからそれはしょうがない事だ。
「そこで止まってくれ、この地に何用か?」
お、向こうから声をかけてきたか。これがある意味有難い、儂らの用件を伝えやすくなるからな。
「自分達はちょっと迷ってしまってるっす、どうか王都への道のりを教えて欲しいっすけど… その他に水と食料の補給は可能っすか?」
「ちょっと待ってくれ、確認してみる。防壁沿いに魔境側に回っていくと門があるからそっちに向かってもらえるか?」
「承知したっす!」
弟子がやり取りをしていたが、どうやら交渉の余地はあるみたいだな。門があるという事だからそちらに向かうとするか。
「親方、どうやら盗賊のアジトではなさそうっすね。なにやら魔術師っぽい雰囲気っす」
「うむ、あの服装も恐らく魔術師の物だろう。まぁ盗賊にこれ程の物を建てられるとは思えんから間違ってはいないだろう」
言われた通りぐるりと回り、塀沿いに進んで行くと確かに門があった。馬車での乗り入れを前提にしているらしく、意外と大きめな門だ。
「俺はここ、バンガードの警備を担当しているガラハドという。ここはアキナイブルー王国に本店を持つカヤキス商会の倉庫兼拠点だ、残念ながら町や村ではないので宿というものは置いてはいないが多少の補給であれば出す事も出来る」
「それは有難いっす! もう水も食料も尽きかけててヤバかったっす!」
「ちなみにナイトグリーン王国の王都はあなた方が来た方向なんだが…」
「え!? まさかノリシーオを出た瞬間から方向を間違ってたっすか!?」
なんという事だ… こいつは方向音痴だったのか。
 




