150 対魔王最前線ノリシーオでの出来事
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:キノ・コノヤマ
「よし、では出発せよ!」
「「「はいっ!」」」
「もしも見つけたからといっても功を焦るなよ? あのメンバーで恐ろしいのはオーガの男ただ1人、上手い事引き離してからエルフの女と獣人女を保護するのだ。ヒビキとかいう冒険者は大したことは無さそうだが、念のため複数人で事に当たるように。スニッカーズ隊長は全員をまとめ上げ、早急に任務の達成をするようにな。勇者様もお待ちかねだ」
「はっ! 委細承知しました」
少し時間がかかってしまったが、ようやく例の冒険者パーティの捜索隊が出発した。
何が理由で時間がかかったか… それはもう人選だな。腕が立って機動力があり、誘致した女性に手を出さない者が非常に少なかったためだ。
腕が立つだけのものなら結構いるのだが、勇者様へお届けする前に手を出しそうな者ばかりだったからな… 人選は慎重に行わなければいけなかったのだ。
捜索予定のルートだが、リャンシャンに行ってもろくに情報を得られないのは自分がすでに体験している。このキノ・コノヤマが得られなかった情報を部下達が出来る訳がないからな! 無理にやらせることもあるまい。
なのでまずはアキナイブルー王国の王都に向かい、そこのギルドから情報収集というわけだ。冒険者である以上、いくら各地を転々としたところでギルドを介して足がつくのは自明の理… この仕事も近い内には片が付くだろう。
「さて… めでたく最前線送りになったタケノはどうしている? まだ生きているのか?」
「はっ、タケノ隊長は連日魔境にて魔物を討伐されているそうです。しかしながらその戦果は魔境では低級と言われている魔物ばかりだと報告書が来ていました」
「ふむ… まぁタケノ程度の実力では浅層から進むことはできないのは仕方がないだろう、所詮実家が武家だからと口先だけで隊長になったのだろう? まぁその程度だろうな。
よし、もっと先に進むよう要請を出しておけ」
「はっ!」
ふふん、これで良しと。
これでタケノも近い内に戦死するだろう、コノサト家も脳筋の息子が消えてしまえばきっとスッキリとするだろうしな。
ああ、これであの忌まわしいタケノの顔を見る事が無くなるのか… よし、早い気がするが勝利のパーティだな。
「おっとその前にやる事があったな、先にそれを済ませておくか。おい誰か、供をせよ」
「はっ!」
俺は拠点となっているノリシーオの街にある鍛冶屋へと向かう。この鍛冶屋を営むのはドワーフの職人であり、対魔王の最前線基地となっているこの街にやってきて店を開いている。
腕の方もそこそこあるようで、買い取ったミスリルを使った武器の制作を頼んでいるのだが… 全く捗っていないのだ。
「おい、武器の制作はどうなっている? もう何ヶ月待っていると思っているのだ!」
「こりゃぁキノの旦那、無理を言わないでくだせぇ。ミスリルの加工には時間がかかると最初に言ったはずでしょう?」
「何を言っている、勇者様が早くせよと言っておられるのだ、早急になんとかするのがお前の仕事だろう」
「柄も鞘も一流の細工をするよう言われている、どう頑張ったって1本半年はかかるってもんだよ。弟子と共に総動員でやっているんだからもうちょっと猶予を下さいよ」
「ならん! 時間がないなら寝ずにやれば良いだろう? 食事の時間も削ってやれば少しは早くなるだろう。いいか、これは勇者様からの命令なんだからな! 守れないというのであれば処罰するぞ!
いいな? これからは一睡もせず鍛冶をするんだ!」
「そんな殺生な…」
「うるさい! いいか、確かに伝えたからな! 全く怠けやがって」
勇者様が装備する長剣なんだぞ? 腕によりをかけ、かつ迅速に仕事をするのが良い鍛冶師であろう。あいつはこの仕事が終わったら解雇だな。
よし、まだ明るいが飲みに行ってパーティだな。
SIDE:ホーク
「親方…」
「こいつぁもうダメかもしれんな」
儂はホーク、ドワーフの国アイアンブラックから流れてきた鍛冶師だ。何十年も前から悩まされている魔王を討伐するための武器を作りにノリシーオにまでやってきた。
この街に来た当初は数打ちの剣ばかり注文されていたんだが、数か月前から急にミスリルが手に入るようになったのだ。
「親方、もう辞めちまいましょうよ! 勇者の腰巾着の癖に威張り腐って、もう我慢できねえっすよ!」
「ああ、確かに儂もそろそろ我慢の限界だのぅ。しかしこの街を出たとしてもどこに行く? 儂は武器制作しか能のないただの職人だぞ?」
「親方の腕があればどこででもやっていけますよ! 俺も弟子として親方にはどこまでもついて行くつもりですし!」
「ふむ…」
確かに腕にはそれなりに自信はある、だが武器を必要とする場所でないと弟子に払う給金が稼げないからな… どうしたものか。
「親方、ギルドで聞いた噂ですけどね… 勇者よりも腕が立つといわれる冒険者パーティがあるらしいっすよ。なんでも4人パーティで、オーガとエルフに絶滅したと思われていた狐人族がいるとかなんとか… 遠くにあるダンジョンでミスリルを発掘しているのもそいつらみたいだし、少なくとも勇者なんかにつくよりも良いと思うんですけどね」
「ああ、その話は儂も聞いておる。だが4人パーティなのだろう? 2年もあれば終わってしまうではないか」
「まぁそうなんですけど…」
だがそうか、少なくとも勇者を相手にするよりマシかもしれんな。
「仮にこの街を出るとして、そのパーティの居場所は分かるのか?」
「あーいや、ちょっとそこまでは」
「ダメじゃないか! だが勇者の仕事も疲れたしな、ここらで心機一転するのも悪くは無いのかもしれんな」
「そうっすよ! こうなったらババっと剣を仕上げてしまい、こんな街から出て行ってやりましょう!」
幸いにも儂の工房は2人しかおらんからな、出て行くとしてもそれほど大きな荷物にはならん。まぁせっかくミスリル用に仕立てた竈は無駄になるが、それも仕方のない事だろう。
そこそこ稼いでいたから旅の路銀はある、いっちょ死ぬ気で仕上げてやるとするかね! それが勇者への最後の仕事という事で!
そう心に決めると、弟子と共に工房へと戻って仕事を再開した。




