149 拠点は整いつつあるようです
誤字報告いつもありがとうございます。
王都を出ると、ジョギングくらいの速度で移動を開始。シフは顔色は良いものの当然のように痩せ細っている、何分持つかというところだろう。
昨日の夕食と今朝の食事はお腹いっぱい食べたようだったが、まぁこんなに速攻で実になる訳じゃないからね… まぁ様子を見ながら適時グレイに背負ってもらおう。グレイに関しては訓練になりそうだからと背負うのは歓迎しているみたいだしね… さすが戦闘狂、どんな事でもそこに結びつかせるのね。
「ご主人様! シフが!」
「お? もうヤバそうか? じゃあグレイ、よろしく頼むよ」
「おう、任せてくれ」
10分ほど走ったあたりでアイシャが声を出してきた。まぁあの栄養失調状態でよく10分も走ったよね… 軽く走っているとはいえ弱った体にはきつかっただろう。だけど移動中でも効率良く運動させるためにはこうするしかないのよ、スパルタでごめんね。
「うむ、思ってたよりも軽いな… これならいつもの速度で走っても問題は無いぞ」
「そうかもしれないけど背負われている方は揺れるだろ? そこを気にしながら走ってくれよ」
「わかっている、体幹を鍛えるためと思えば軽いものよ」
シフを背負いつつも膝から下を上手に扱い、なるべく揺れないようにしながらも速度を上げていくグレイ… アイシャはニコニコで追いかけ始め、俺とクローディアも後を追う。シフの休憩時間はどのくらいが良いだろうね、まぁ訓練を兼ねているといっても初日だからじっくりでいいか。
昨晩、夕食後に少しだけシフと話をしたんだ。奴隷になった経緯とか奴隷になってどれくらいかとか… まぁこの辺はクローディアが質問していたんだけど、やはりというか、突然拉致されての違法奴隷だったそうだ。奴隷になってからの経過時間は曖昧になっているとの事で、いまいちよく覚えていないんだとか… それでも2~3年は奴隷になっていると思うそうだ。
左耳がちぎれているのは、以前の持ち主が余興とかで魔物と戦わされたとかなんとか… 全くひどい話だな。
しかし昨日俺達に買われ、最初のポテトを食べたくらいから体調が良くなってきたと感じたそうだ。ベッドでこれほどゆっくり寝られたのも奴隷になってから初めてだと言い、お昼寝をさせてくれた事に感謝された。
まぁね、お昼寝なんざ俺達にとってはいつもの事だし、これからいくらでも機会はあるだろうからそんな感謝する事も無いんだけどね…
今日の予定もしっかり伝えてあるし、疲れたら無理しないでという話もしてきた。まぁ今後は野営の時にクローディアが魔法に関しての訓練をするといっていたから、早くダンジョンに連れて行かないとな! 俺もグレイに感化されているのかもね、真っ先にダンジョンとか!
大体想定通り、8日で拠点に辿り着いた。
まぁ魔境の森を右手に見ながらの南下だったから、迷う事もないしね。道らしいものも無かったけど、まぁ平原とも言えるような地形だったので楽勝だったよ。
久しぶりの拠点… 職人が頑張ったんだろうけど、なんと倉庫が2棟も建っている! 過疎地域の小学校体育館くらいのサイズが2棟! これは大したもんだ。
「戻られましたかヒビキ様」
「まぁまたすぐに出る予定だけどね。でもこの倉庫… 頑張ったね」
「ええ、職人達が魔境の傍では安眠し難いと泣き言を言いまして、だったら早く建ててしまおうという話になりまして」
「まぁ見えるところに魔物のたまり場があるんだから仕方がないかもしれないね。じゃあ目途がついたら送るのかい?」
「はい。倉庫の管理は魔術師団の方で受け持ってくれるので、私達は輸送用の馬車を持ち込もうと思っています」
「なるほど」
ナイトハルトは元気そうだが職人はそうでもなかったようだね… まぁいくら護衛がついているとはいえ対魔王の最前線である魔境がすぐそばにあるんだ、気が気じゃないのも頷ける。
「おや、奴隷を買いましたか? ちなみにですけどどこで買いました?」
「ああ、ナイトグリーン王国の王都でね。またその内奴隷解除で世話になると思うけど良いかい?」
「ええ、それはもちろん構いませんよ」
「もっとも今すぐではないんだ、少しダンジョンで鍛えてからになるんだけど」
「了解しました。こちらの業務との兼ね合いもありますので、やると決まった時は早めにお願いします」
「よろしく頼むよ」
ナイトハルトと別れ、拠点内部を見て回る。俺達が戯れに作った物見櫓はどうやらそのまま使うみたいだな、これだけ職人がいるのだから素人作品を見せるのは恥ずかしいんだけど仕方がないね。
「ご主人よ、せっかくだから肉を狩ってきていいか?」
「構わないよ、怪我だけは気を付けてくれればね」
「承知した、では魔境に行ってくる。アイシャよ、行くぞ」
「ええ? ボクも?」
「そうだ。お前なら俺よりも速く走れるから良い訓練になる」
移動も訓練ですか… ストイックだねぇ。
そんなわけでグレイとアイシャは魔境へと向かっていった。
「さて、俺達はどうしようか? 職人の邪魔にならないようにって思ったら何もしないのが正解だと思うんだけど」
「確かにその通りじゃの。であれば、私はシフを扱くとするかの」
「まぁお手柔らかにね」
「うむ。ではシフよ、隅っこに行って魔力の訓練じゃ」
「は、はい!」
クローディアとシフも行ってしまった… まぁ魔力の訓練となれば俺もやった方が良いのかもしれないが、心得のある2人の邪魔にしかならないからな… 止めておこう。
結局何もすることが無く、邪魔にならなさそうな壁際に行ってバリアで周囲を囲い、お昼寝をすることにしたのだった。
SIDE:エルフの組合員、ジャン
「ようやく出番だな! 随分と待たせやがって… 早くクローディア様をお助けせねばいかんというのに」
「落ち着けジャン、遅くはなったがこうして準備が整ったのだから今から取り戻せばいいんだ」
「分かってるよ! それじゃあ行くぜ!」
組合から出された極秘任務、クローディア様の救出をするために俺達はディープパープル共和国、その首都を後にした。目指すはアキナイブルー王国リャンシャン、かなりの遠方になるため想像もつかないほどの時間を要するが、なんとか時間を短縮させながら進むしかないな。相棒のエルマンもいるから行き当たりばったりでもなんとかなるだろう。
「ところでエルマン、随分な荷物だな」
「当然だろう、どこに行くにしても身だしなみは整えなければいけないからな… たとえ相手が人間種であろうともな」
「はぁ… お前は人間種が嫌いなくせに、そうやって人間種の女どもを集めてしまうからな。却って面倒が増えないか?」
「ふっ、人間種に高貴なる我らエルフの姿を拝ませてやっているのだ、多少のお布施があっても良いだろう? 旅には金がかかるのだから」
「はぁ… まぁ好きにしな」
さて、国境を越えたら人間種の国が待ち構えている。連中は息を吐くように嘘をついてくるから気を引き締めないとな!
 




