143 魔法省長官
本年もよろしくお願いします。
初回のドロップは鉄のインゴットか、ちょっと残念。
「むー、グレイならもっと早く倒せるのに」
「いやいや、持ってる武器も違うし身長も体重だって違うだろう? 倒す時間じゃなくて、どれだけ自分にとって有利な戦い方ができて安全に倒すかを重視してほしいな」
「安全に?」
「そう、安全にだ。アイシャが怪我とかしたら嫌だからな、時間がかかったとしても無傷で戻ってきてくれる方が俺は嬉しいよ」
「わ、わかったよ! 絶対怪我とかしないようにする!」
「おう、その意気だ」
倒すのに時間がかかったとしょぼくれた顔を見せたが、何やら元気を取り戻したようだ。やっぱりアイシャは元気じゃないとね。
その後もアイシャはどんどんとゴーレムを狩っていく、アイアンだろうがミスリルだろうが…
しっかし獣人というのはすごいね! こんなに小柄なのに俺よりも力強く、持ち前の素早さを活かして目にも留まらない動きで相手を翻弄していく戦い方。現状俺がアイシャよりも勝っている事といえば身長と体重だけかもしれない…
しかし俺はというと、身体能力自体はこの世界に着いた時よりも遥かに上がっているはずだ。長時間走っても耐えられる体力に、重そうな武器を振り回せる腕力。でもなぜか戦闘となると上手に体を動かせないんだよね… 実は何かしらの制限でもあるのだろうか? 僧侶が剣を持てないとかそういうゲーム的な感じで、支援職だと思われる俺は本来装備出来ない武器を振り回しているとかそんな感じなのかな? でもここはゲームじゃないしなぁ、さっぱりわからん。
性格的に戦闘は不向きかもって思いはあるけれど、もう魔物が相手であればそういった思いは無いと思うんだけどね。まぁ一番最初に言われた事… レベルを上げて逃げ足を鍛えるってやつしか残っていないよ。ステッキを使えばそこそこ戦闘は出来るのかもしれないが、攻撃用のステッキはクローディアに任せちゃってるから手元に無い。ハンバーガークリエイターのスキルレベルを上げて、新しいステッキが出るのを待つしかないのかね。
「ご主人様! そろそろお昼だよ!」
「おっ、じゃあ転移陣のところに戻ろうか。腹が減ってたら力も出ないもんな」
「はいっ!」
アイシャのお腹がお昼をお知らせしてくれたので、グレイ達と合流だね。
午後も体制を変えないまま狩りをして過ごす。
しかし昼食時のグレイの顔は… 大変満足している感じがしていたねぇ。きっと100階層周辺で大暴れでもしていたんだろうな、実にスッキリした顔つきだったよ。
どうもクローディアが一歩引いたようで、ケルベロスを独占していたそうな… ケルベロスの毛皮を1枚ドロップしたというし、俺としてはなにも文句はない。クローディアの方はグレイと被ると面倒だったからと言って、99階層に降りて狩りをしていたとの事だった。
そして晩飯時。
「面倒じゃからこのままダンジョンに泊まっていったらどうじゃ? 今からじゃと宿で部屋を取れるか心配じゃろう」
「そうだね、そうしようか」
ダンジョンでの宿泊にも慣れているし、特に問題は無いね。
今でこそここのダンジョンはクリア済みだが、クリア前は10階層進むのに10日も15日もかけて進んでいたんだ、安全地帯でもない場所でもバリアを使って野営していたしね。
俺達は明日になればナイトグリーン王国に向けて旅立つつもりだ。体力的には何も問題は無いけれど、気持ちの問題があるから今日はゆっくりと休まないとな。ギルドマスターが一体何を言うつもりなのかは分からないが、俺達は俺達に出来る事だけをやるだけだ。
しかし奴隷推奨国家で違法奴隷の巣窟かぁ… それを聞いただけでも心が萎えてしまうな。だけど俺達で魔王を討伐し、勇者を擁するはずのナイトグリーン王国の戦果がまるで無しとなれば周辺国からの評価も大幅に変わるだろう。周辺国の… 具体的に言えばアキナイブルー王国の発言力が増せば、奴隷撲滅とはいかなくてもそれに近い事ができるのではないだろうか…
まぁまだ先の事だし、まずは自分の足元からってね!
SIDE:ディープパープル共和国魔法省長官、バーバラ
なんて事よ! 一体本当に何が起こってるというのよ! またクローディアは私の邪魔をしようっていうの? せっかくあの女を蹴落として長官になれたというのに、あの女が戻ってきたらまた私が日の目を見れなくなってしまうじゃないの!
長官になってからの生活は素晴らしかった。誰もが私を敬うし予算は潤沢にあるポスト、誰かに命令される事も無く自分のやりたい研究に明け暮れる日々… この充実した時間が奪われるというの?
しかも何? ダンジョンを踏破したですって? どうしていつもいつも私よりも大きな功績ばかり立てられるの?
「いえ、少し落ち着かないとダメだわ。そう、聞いた話ではクローディアは奴隷だったという事、つまり120年前と何も変わってはいないのよ。だけどこのまま放置しておくのも気持ちが悪いわね… 無いとは思うけど失踪事件の事を喋られても具合が悪いしね」
クローディアは魔法の研究成果により局長にまでのし上がった者、その成果にいまだにクローディアを慕う者が多くいる。普通なら奴隷の言う事なんて誰も信じないものだけど、あのクローディアだからという理由でその言をまともに受け、調べる者が出てくるかもしれない… それは困るんだ。
「そうね、私の未来のために消してしまうのが一番良いわね。奴隷なんだから主人の命令以外での戦闘は制限されているはずだし、クローディアだけを狙うのであれば簡単なはずよね。まぁ主人を狙った場合は防衛のために動く事もあるだろうけど、奴隷は基本的に他者を傷付けられないようにされているはずよ!」
さて、消えてもらうのは決まりとしてその方法よね。腕の良い部下を向かわせると誰かに見られてしまう事もあるし、外部に発注すれば弱みを握られる恐れもある。しかもディープパープル共和国内ではこんな依頼は出せないだろうから人間種にやらせなければいけないわ。
人間は汚いし臭いし下衆だし、消せと依頼していても殺さないで別で使いそうな気がするのよね… だけどこの国で依頼を出せば、クローディアの知名度から考えて反発してくる者が出てくるだろう… それは回避しないといけない。
「やっぱり嫌だけど人間にやらせるのが一番のようね、部下の1人を出張させてやらせましょ」
誤字報告いつもありがとうございます。




