140 ギルマス、食い下がる
誤字報告いつもありがとうございます。
「何をしてる…か。それはまぁ俺個人の自由だし、別に報告する義務なんて無いでしょう?」
「むむ? なんとなく思っていたが、もしや俺は信用されていない感じか? そりゃないぜ! 勇者軍の猛攻からどれだけ助けていたと思っているんだ? ギルドとしても勇者軍だけに肩入れしているわけでもないし、ギルドのナイトグリーン支部だってそうだ。むしろ勇者軍がおかしな行動をしでかさないように誘導しているんだぞ?」
おおう? それはマジか? だとすると勇者ってやつはどれだけ嫌われてんだって話だよな。
「ちなみにおかしな行動って?」
「ああ? そりゃぁあの馬鹿勇者… おっと失言だな。あの勇者様はよ、大層女好きで名を馳せているんだよ。ちょっと綺麗どころを見りゃ王子の肩書と勇者の肩書を使って勧誘してな、寝所に連れ込む事で有名なんだ。
しかもその勧誘した女を大事にしてりゃ文句はないが、飽きたらすぐに部下達に下賜するんだってよ。今じゃそんな噂が流れに流れて近寄る女はいないって話だな。だからだろうが、今手元にいる女だけは少しは大事にしているみたいだが」
「ただのゴミクズじゃないか」
「おう、まさにその通りだ。ちなみにな、ここ最近リャンシャンに来ていた理由は… そこの2人を持ち帰るためだったそうだぞ?」
ギルドマスターはそんな事を言いながらクローディアとアイシャを指差す。
というか、なんだとこの野郎! クローディアとアイシャをお持ち帰りだと? そんなもん断固拒否だ!
「勇者の事は良く知らんが、頭の悪い奴は無理なのじゃ」
「ボクもなんか嫌だ… 気持ち悪いね」
「なんでもな、その2人を持ち帰り、ヒビキとグレイの2人をこの街に残してミスリル集めをさせたかったらしいぞ。しかも直属の配下にして、ギルドを通さずミスリルを手に入れようとしていたみたいだな。まぁそんなのギルドが許すはずないだろうがな」
「なんだか聞いてるだけで腹一杯になってきたよ、どんだけアホなんだよ」
「俺も良く分からんが、能無しのために戦う気は無いぞ」
俺だってそうだよ。誰がそんな奴のために80階層引き籠りをしなければいけないんだ!
「主よ、これは早急に次の行動をとった方が良いかもしれんの。どうして私とアイシャに執着しているのかは知らんが、下手な工作をされてはたまらんのじゃ」
「そうだな。じゃあギルドマスター、またちょっと街を離れるからミスリルの納品は遅くなるかもしれない。なんなら保険で5個くらい置いていくか? それを使った時に支払ってくれればいいから」
「おいちょっと待て! 俺も一枚噛ませろと言っただろうが。なんか面白い事を考えてるんだろ? 勇者の奴が泣きを見るような話は大好きだぜ?」
「勇者が泣きをって… どうしてそう思うんだ?」
「そりゃー勘だよ。俺だって伊達に長い事ギルドマスターはやってないって事だ、楽しそうな事への嗅覚は衰えていないからな」
チッ、話を逸らせたと思っていたのに… 今日のギルドマスターの押しはすごいな。
「じゃがなギルマスよ、そなたはギルマスとしていろんな情報を各ギルドで共有しておるのじゃろう? ギルド経由で知られたくない情報が勇者関係者に漏れるのは嫌なのじゃ」
「それは大丈夫だぞ。確かに各ギルドであらゆる情報を共有しているが、基本冒険者の所在を探るなんてその冒険者が罪人だった場合だけだ。
もちろん勇者が罪人をでっちあげて、お前達の所在を探ってくる事も考えられるが… その場合は、その冒険者が一体何の罪を犯したのか、その証拠などを精査した上での協力体制となる。リャンシャン支部のギルマスであるこの俺が、お前達の潔白を証明する事だってあり得るんだぞ?」
「なんでギルドマスターはそこまで俺達に関わろうとするんだ?」
そう、どうして俺達にってね。確かに俺達パーティは前人未到のダンジョンを踏破したよ? 希少だと言われているミスリルだって持ち帰ってきているさ。だけどこの街に来て1年にも満たない時間で信用できる何かがあったか? 俺にはそれが思い当たらないんだよな。
「なんでかって? そりゃーこの俺が現状に不満を持っているからだよ。この国は奴隷が少ないだろ? いるにはいるが、表立って連れ回すには他者の視線が厳しいはず… ヒビキだってそう感じる事はあっただろう? この国は犯罪奴隷しか認めていない国だからだよ。
だからこそ、いまだに奴隷を買い集めているゴーマンレッド王国は嫌われているし、奴隷商の巣窟と言われているナイトグリーン王国も同様なんだ。まだゴーマンレッド王国は金を払って買っているが、ナイトグリーン王国はダメだ… あいつらは他国に行って人を襲い、拉致してきて奴隷にするからな。
そんな国の王子が勇者だと? 全く笑わせてくれるぜ。
ただ現状魔境の攻略が上手くいっていないから良いようなものだが、これで何か成果でも挙げられてみろ? 更に付け上がってくるだろう。あの国を何とかするのはもう手遅れだ、最悪でも魔境攻略の手柄を立てさせない事。欲を言えば王家と、王家に尻尾を振っている腐った貴族共を潰すしかない。
ヒビキの事はこの街に来た頃から観察していた、この国が嫌っている奴隷を3人も連れていたからな。しかもオーガにエルフ、狐人族だぞ? てっきりナイトグリーン王国の貴族令息かと思ったぜ。
しかし見ていれば、奴隷の3人とやたらと仲が良いみたいだし慕われているしでなんだコイツってなるだろう? 更に気がつけば3人共奴隷解除されているし、それなのに3人共今もなお主と従っている…
突然街にやってきた魔術師達もお前達と組んでいるんだろう? しかも王都の老舗、カヤキス商会まで… カヤキス商会が魔術師の一部を護衛として依頼している事は把握している、しかもその行き先がコッソメだという事もな。
つまり、お前達は魔境に入るつもりなんだろう? 魔境の素材はナイトグリーン王国の専売のようになっているから、それを餌にすれば大手の商会だってあっさりと釣れるだろうし、その商会がアキナイブルー王国の商会だっていうのであればそれだけでも十分ナイトグリーン王国に経済的なダメージを与える事ができる。
誰が考えたのかは知らないが、この策に俺も乗りてぇんだよ! ダンジョン都市にあるギルドとはいえ、俺を引き込んだ方がメリットはでかいと思うぞ?」
おおう、ギルドマスター… ただの筋肉じゃなかったんだ、なんか思ってたよりも色々と考えてんだな… 失礼な言い分だけどね!
しかしまぁどこまで想像なのかは分からないが、かなり良い線ついてきてるね。これはクローディアと相談した方がいい案件だな。




