138 いざリャンシャンへ!
誤字報告いつもありがとうございます。
夜が明けると、俺達4人は拠点を出てリャンシャンへと向かい出す。もちろん徒歩だ! 来た時は馬車だったけど、俺達なら馬車よりも速く移動できるし野営地点にも困らないからな… 馬車の半分の時間で移動できれば良いだろうと思っている。具体的に言うと2週間程度で移動が出来れば儲けものだろう。
「それじゃあ方角とか良く分かんないから、その辺よろしくね」
「任せておけ、どうせ道中も大した魔物もいないだろうからさほど時間をかけずに着くだろう」
任せろと言ったグレイが先頭に立ち、マラソンくらいの速度で走り出す。ジョギングやランニングよりもやや早い速度って感じだな。
とはいえ、このペースで昼食時間まで走り続けるのだから結構進む事ができるだろう。確かマラソンは2時間ちょっとで42キロも走れるんだから、昼まで6時間くらい… 単純計算で半日120キロほど進める計算になるね! もちろん計算通りにならない可能性もあるけど、大した誤差ではないだろう。
しかしなんだ、今更ながら俺も日本にいた頃よりかなりおかしくなっているね… マラソンペースで6時間走るなんて普通無理じゃん? でもレベルアップの効果だろうが普通に走れちゃうんだよ。魔物と戦う事は一向に上手くいかないのに、一番最初に言われた通り身体能力だけは一流に近づいているって事なんだろう。まぁ一流のポテンシャルがあったって、使いこなせていないから何とも言えないけどね…
昼休憩を挟み、日が沈む直前まで走り続けてそろそろ野営となる。実質12時間は走ったね! ペースは変わらなかったから240キロ前後は移動で来たんじゃなかろうか。
途中狼が6匹ほどの群れで現れたが、先頭を走るグレイを見ると立ち止まり、そのまま見送ってくれたんだ。まぁこれはグレイがいつでも来いって感じでガンを飛ばしていたから、狼の方がビビったのかもしれないね。
「良い調子じゃの、このまま進められれば15日もかからんで着くじゃろう。しかし主よ、リャンシャンに着いてからはどうするのじゃ? ミスリルを納めた後の事じゃ」
「うーん… まぁ結構考えたけど、ここはクローディアの意見を採用しようかなって思っている」
「ふむ、そうであるか。ではナイトグリーン王国方面でという事じゃな?」
「うん。もちろんナイトハルトには何も言ってないから、あまり時間をかけずに拠点に戻るつもりではあるけどね」
「そうじゃの。あの様子じゃと3か月もあれば拠点として機能するようになるじゃろう、次は魔境由来の素材集めをせんとな」
「うんうん」
クローディアは自分の案が採用されたことが嬉しいのか、なにやら穏やかな顔をしている。やはりナイトグリーン王国には何かあるのかな? クローディアが気になるような事が。
「ナイトグリーン王国は勇者を擁しているが、その実奴隷大国でもあるのじゃ。多くの奴隷商会があり、大陸中に生きる全ての種族の奴隷が買えるとまで言われておる。もちろん私のようなエルフもじゃ」
「へぇ~、勇者がいるから清廉潔白な国かと思ったけどそうじゃないんだな」
「うむ。ここからじゃと魔境を挟んで向こう側は人間以外の種族が多く住まう地となっておる、もちろんエルフも含めての。奴隷狩りが横行し、拉致誘拐は当たり前のように行われておるのじゃ。
あくまで個人的な理由でじゃが、私はナイトグリーン王国の奴隷事情を探りたいと常々思っておってな、主に相応しい奴隷を探すときに色々と見ておきたいのじゃ」
「なるほどね… まぁクローディアはもう奴隷じゃないし、意見があるなら自由に言って欲しいと思っているよ。俺も奴隷に対しては良い感情を持っていないしね… まぁどうせ魔王を倒せば勇者の鼻を明かす事ができるんだ、そうなった時ナイトグリーン王国の立ち位置が変われば…」
「そうなのじゃ、ナイトグリーン王国の立場が弱くなったところで奴隷制度の見直しをさせる事ができれば… 私も長い奴隷生活を恨まずに済むかもしれんの」
やはり違法奴隷はダメだよな、犯罪者だけが得をする法などあってはならないと思う。もちろん俺は王様でも貴族でもないから、ナイトグリーン王国にあれこれ言う資格は無いのだろう。もっとも言ったところで聞く耳すら持ってはくれないだろうしね… でもまぁ勇者を喧伝している国が、対魔王戦に参加すらできずに戦いが終わってたなんて情報が出回れば、勇者がいたんじゃないのか! ってクレームが殺到するかもしれない。勇者の名を使って国同士の交渉をしていたみたいだから、現状でも不満を持つ国が多いという話もナイトハルトから聞いているからね。
「まぁなんじゃ、主は普通に戦力アップのための奴隷じゃと思っておれば良いじゃろ。魔境に進軍するとなれば補給線も伸びるじゃろう、そうなれば魔術師団では心もとなくなるかもしれんからの。戦力として信用できるレベルまで私達が育て上げれば、素材のやり取りも任せられるかもしれん」
「まぁね、それは俺も思っていたよ。奥に行けば行くほど魔物は強くなる。そうなると魔術師団だけじゃ魔境内の輸送が厳しくなるなって」
「うむ。魔境から出てしまえば何も問題無いのじゃが、内部が問題じゃからのぅ。どこか魔境内に中継地点を作るなんて事も考えないといけないかもしれんの」
魔境内部に中継地点かぁ… それは意外とハードな役目になるかもしれないな。周囲は常に魔物がうろつき、魔境の深度によっては強力な魔物が現れる… そこを任せるとなれば、やはり俺達くらいのレベルは必要になるかもな。
「って! 魔境攻略もまだ始まっていないのに考えすぎじゃないか?」
「そんな事は無いじゃろ。私達が攻略を始めれば、割とするする進んで行くと思うのじゃがな… 私達だって伊達にケルベロスを単騎で倒せるわけでは無いのじゃから」
「んん? そういえばそう… なのか?」
「まぁ魔王という魔物をまだ見ておらんから何とも言えんが、それ以外の魔物に苦戦する私達では無いのじゃ。のぅグレイよ」
「当然だな。ご主人に鍛えられたこの俺が、魔王だって斬り倒してくれるぞ」
いやいや、俺が鍛えた訳じゃないだろうに… だけど、何とも頼もしい限りじゃないか。相性次第という事もあるけど、グレイなら真っ向勝負で殴り合いとかしそうだもんな… あー怖い怖い。
違法奴隷は気に入らないし、勇者関係者のやり口も気に入らない。まとめてどうにかするなら魔王を倒して… いや待て、でもこれって俺ではどうにもならない問題じゃないか?
 




