136 エルフの国が動き出す。
誤字報告いつもありがとうございます。
「肉はダメだな。肉が食いたければ狩りに行け」
「どうしたんだ? グレイ」
「む? 主の出す肉類は旨すぎて中毒性が高い、アレに慣れると通常の肉が食えなくなると思ってな。まぁ俺のようにどんな肉でも食うタイプであればなんともないが、人間種は誘惑に弱いからな」
「まぁ否定はしないけど… だからこそメニュー決めを思案してるんだけど」
「草でも食わせておけばいいだろう」
「おいグレイ! サラダを言うに事欠いて草じゃと? 聞き捨てならんのじゃ!」
「むむ?」
あー… これはグレイの失言だね。クローディアがヒートアップしてしまったぞ? そんな困ったような顔を向けられても…
「大体じゃな、グレイもアイシャも健康のためにサラダを食べるよう主に言われておるじゃろう。そもそもじゃな、お前達のように前線で動きまくるタイプであれば体調の管理は万全でなければいけないはずじゃ! サラダだってナゲットのソースなりテリヤキのソースなりを使えば美味しくなるじゃろう?」
「む…」
なんかアイシャにも飛び火しているし… しかもサラダについて語り出しちゃったよ? 俺は避難しよっと。でも野菜は大事だからね? オーガと獣人の体が人間と同じ作りだったとすればだけど。
大陸北西部、多くのエルフが住まうディープパープル共和国。そして冒険者ギルドのような組織である、この国にしか存在しない森林組合ではある噂が広まっていた…
「おい聞いたか? ずっと東の方にあるアキナイブルーという国にあったダンジョンが踏破されたんだってよ」
「ああ、それはすでに聞いているよ。まぁ本当かどうかは分からないけどね」
「いや、本当らしいぞ? なんでもナイトグリーン王国の自称勇者が勧誘に動いてるんだとさ。東から来た商人が言ってたってよ」
「東から来た商人が? だとすると結構前の話なのか?」
「いや、3ヶ月ほど前の事みたいだな。その商人は高速移動で穀物を運んで来たらしいが、ナイトグリーン王国が騒がしくなっていたとの事だ」
「ふむ… では組合長に聞けば何か分かるかもしれないな、人間国の冒険者ギルドと提携しているんだろう? そういった情報は入ってきているかもしれない」
「そうだな! 聞いてみようぜ!」
話をしていた男性のエルフ2人は、頷きながら組合の奥へと進んで行った。
「組合長! ダンジョン踏破の噂を聞いたんだけどよ、本当のところどうなんだい?」
「耳が早いな…」
組合長と呼ばれた一見30代半ばほどの男性が、書類仕事の手を止めて顔を上げる。
「まぁ隠す事でもないから教えてやるが、ダンジョン踏破以外の情報は流されちゃ困る。ここだけの話にしておけよ?」
「何か込み入った事になっているのか?」
「うむ。人間国の冒険者ギルド… その中のナイトグリーン支部からの情報では、アキナイブルーにあったリャンシャンダンジョンの踏破がリャンシャン支部の報告で明らかになったという事だ。ダンジョンはCランクで100階層まであり、100階層にいた魔物はケルベロスだそうだ」
「ケルベロス… あの伝承に出てくる魔物か?」
「そうだ。そのダンジョンを踏破したのは1人の冒険者と3人の奴隷だといわれていて、オーガの奴隷と獣人の奴隷、そしてエルフの奴隷だと報告にある」
「なんだと!? 我らの同胞が奴隷にされてダンジョンに連れて行かれてるって事か!」
若く見えるエルフは憤って立ち上がる。
「お前は話を聞きに来たんじゃなかったのか? 腰を折らないで最後まで聞け」
「あ、ああすまない。続きを頼む」
「エルフの奴隷を連れていた… まぁこの事もあまり広めたくない情報なのだが、そのエルフという者の名が問題なのだ」
「名が問題? そ、そいつの名前が何だって言うんだ?」
「そのエルフの奴隷の名が、クローディアというらしい」
「クローディア!? 確かにこの国ではそれほど珍しい名前じゃないが、ダンジョンを踏破できるほどの使い手でクローディアと言えば…」
「ああ、120年ほど前に突如行方不明になった魔法省トップの天才魔法使い、あのクローディア様かもしれないという事だ」
「なんという事だ… 国はこの事をなんと言っているんだ? すぐに救出に向かうんだろ?」
「それがな… 今の魔法省トップのバーバラ様が乗り気では無いという事なのだ」
「バーバラ様が? 確か行方不明になったクローディア様の後釜に座った方だよな… それがどうして?」
「さぁな、良く分からん。だが森林組合とてこの情報を聞いて黙っている訳には行かんからな、調査隊を編成してアキナイブルーに送り込もうと考えている」
「よし! 俺は参加するぜ!」
「まぁ焦るな。簡単にリャンシャンに行くというがその距離はかなりある、移動速度の事も踏まえて綿密な準備が必要となるだろう」
「む… まぁ確かに行った事は無いが、荷馬車だと1年くらいかかるんだったか?」
「まぁな、魔境を真っ直ぐ通り抜けられるのなら半年もかからんだろうがな」
組合長は腕を組みつつ考え込む。
「まぁとりあえず遅くとも10日以内に結論を出そう、移動速度の事を考えれば馬も用意しなければならんし道中にある町とも連携をしなければいけないしな。お前達が行くというのであればその10日以内に準備を整えておいてくれ、非常食は多めでな」
「おっし! 了解だぜ!」
「なるほど… あの天才クローディア様に会えるとは、この仕事は行かざるを得んな」
2人のエルフの男性の目は決意に満ち、最強だったと名高い天才魔法使いの捜索と奪還に誓いを立てるのだった。
「それはそうと組合長、他の奴隷… オーガと獣人だったか? そいつらはどうするんだ? もしも不正に奴隷堕ちしているとなれば一緒に救った方が良いのか?」
「おお、そうだった。その獣人の奴隷なんだが、数年前に魔物によって滅ぼされた狐人族の最後の生き残りだという事だ。是非とも一緒に救い出して欲しいところだな」
「ああ、そういえばそんな事があったな。聞いた話では魔物に急襲された直後に人間どもによって攫われたとか… 獣人の国でも保護しようとしたらしいが即座に売られてしまい、足取りが追えなくなったと聞いているな」
「うむ。だがそうなると、オーガの情報は何も入ってはいないが同様に不正奴隷なのかもしれんな。まぁ救出してからでもいいから本人に話を聞いてみてから判断しようか」
「よし、じゃあちょっと準備をしてくるぜ!」
エルフの国の組織、森林組合から腕利きのエルフが2名が動き出そうとしていた。
 




