131 アイシャ
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:アイシャ
ボクはアイシャ、奴隷に落とされてまだ3年くらい。住んでいた村が魔物に襲われてほとんどの狐人族が死んじゃって、ボクだけは村の保存庫にいたから魔物達に気づかれなかったんだ。
保存庫には大量の薬草やキノコ類が置いてあって、多分その匂いがボクの匂いを紛らわせてくれたんだね。
1人生き残ってしまい、両親の亡骸もどこにあるのか分からなくて途方に暮れていた、そうしたら人間の冒険者が魔物を求めて村にやってきたんだ。そして村の惨状を見ると… ボクの手足を縛って袋に詰められ、気づいたら奴隷にされていた。
奴隷の首輪のせいなのか、全然力が出せなくて抵抗する事も出来ないし、火の玉を出す事も出来なくなっていた。
でも幸運なのか不幸なのか、ボクの事はすぐに買い手がついたみたいだった。
なんでもボクを買ったのは東の果てにある国の王様みたい… それからが大変だった。
ボクが売られた場所は魔境の西側で、獣人の国とエルフの国との国境にあるマジカルイエロー王国の普通の町だった。そこから2年以上もかけて魔境を迂回し東の果てを目指した。
途中立ち寄った町でエルフのクローディアが馬車に乗せられ、更に途中でオーガのグレイが乗せられた。
この2人は奴隷になって長いのか、ものすごく痩せていて歩く事も大変な感じだった。そしてこの2人も東の果てに売られるという。
グレイはほとんど口を利かず、じっと何かを我慢しているような感じ。クローディアは首輪に魔力を吸われているとかで、ずっと寒そうに震えていたのをよく覚えている。
いつからかクローディアはボクの事を抱きかかえるようになり、震えは収まったように感じたけど… 抱きかかえられた事でボクは両親の事を思い出してしまったんだ。
拭いても拭いても涙があふれてきて、抑えようとしても泣き声が止められない… クローディアはボクの頭を撫でてくれたりして慰めてくれてたんだけど、それでも止める事はできなかったんだ。
ボクたちを運んでいた奴隷商人はそれが気に食わなかったようで、奴隷の首輪の力で声を出す事ができなくされた。声は出なくても涙は出るようで、更に気に入らないと言って檻のような馬車の荷台には布がかけられて、外を見る事ができなくなってしまった。
2年近くの間、出されるご飯は奴隷商人とその護衛の食べ残しだけ。もう硬くて食べられなくなったようなパンや、どこから掬ってきたのか分からないような濁った感じの水… でも、それですらも食べなきゃお腹が空いてどうにかなっちゃいそうだった。
長い間そんな檻の中での生活に、ボクの体もグレイやクローディアのように骨だけのようになってしまった。そして… 最後の国境を越えたと奴隷商人とその護衛達の声が聞こえてきた。
「グハハ! 東の果てにあるゴーマンレッド王国の王は特殊な趣味があるようでな、お前達のように珍しい奴隷を世界中から大金をかけて集めているんだよ。そんな王の物になるなんてなぁ… 一体どんな事をされるんだろうなぁ~! ギャッハッハ!」
え? 特殊な趣味ってどういう事? ボクはこれから何をされちゃうの?
何が起こるのかを考えたら怖くなって震えが止まらない。クローディアがボクを抱きしめてくれているんだけどそれでも止まらない。こんな事ならお父さんとお母さんと一緒にボクも死ねばよかったのかな…
だけど、そんな時に事件は起こった。
どうもたくさんの魔物から襲撃を受けたみたいで、護衛達が戦っているような音だけが聞こえてくる。だけど… 厭らしい顔をして太った奴隷商人の叫び声が聞こえた、どうやら魔物にやられてしまったようだ。
次第に護衛達の声も聞こえなくなり、クチャクチャと何かを食べるような音が聞こえ始める… ああ、皆やられたんだね? 別に悲しくもなんともないけど。
仮の主人である奴隷商人が死んだからか、奴隷の首輪のせいなのか体が動かなくなっている。檻の中に入っているから魔物からは身を守れるんだろうけど、体が動かないんじゃボク達ももうダメなんだろうね… これで両親のところに行けるのかな? どうせなら今すぐに会いに行きたいな。
もう何もかもあきらめて、その内訪れるだろう自分の死に覚悟を決めた。だけど…
「え!? 生きてる? あ、枷がつけられている… もしかして奴隷ってやつか? ちょっと大丈夫か?」
檻にかけられていた布がめくられ、見覚えの無い黒い髪の男の人が覗き込んでいた。
これがご主人様との出会いだ。
ボクは声が出せないし、グレイもなぜか声を出さないのでクローディアがご主人様の対応をしてくれている。
気がつくと色々つけられていた制限も外され、声も出せるようになった! ご主人様が出してくれた『はんばーがー』はとても美味しかった! どうしてかは分からないけど食べたら体の痛いところが無くなってきた! 一日3回もご飯が食べられた!
ご主人様はいつも優しくて怒るような事も全然無い… ボクにはお兄ちゃんはいなかったけど、いたらこんな感じだったのかな?
それからの毎日は楽しい事ばっかりだった。無口だったグレイも喋るようになって、奴隷商人の護衛が持っていた剣をもらい、旅の道中嬉しそうに魔物を斬っている… クローディアもご主人様からステッキを貸してもらい、魔法で魔物を倒しまくって… ボクも! ボクもご主人様の役に立ちたいの!
グレイに戦い方を教えてもらいながら、ダンジョンがあるリャンシャンにやってきた。ここのダンジョンでご主人様のレベルを上げて、強くしちゃおうという作戦だ! この作戦はクローディアが言い出した。
楽しくダンジョンを攻略していたら、いつの間にか一番下まで着いていて… そこにいたケルベロスを倒したらダンジョンクリアになっちゃった! グレイやクローディアが言うには、これはすごい偉業なんだとか… 偉業って何だろう?
ダンジョンでいっぱいお金を貯めて、ボクたち3人がとうとう奴隷じゃなくなった。これでご主人様はボクのご主人様じゃ無くなっちゃうの? でもご主人様は好きにして良いって言ってくれた。
そんなご主人様と一緒に、今度は魔境にいる魔王を倒そうという事になった。これも言い出したのはクローディア… クローディアの説明はなんだか難しい事ばかりで良く分からないけど、ご主人様にとって魔王が邪魔だって言うんなら、ボクが倒してみせるよ!
魔境の近くに拠点を作り、ご主人様と一緒に『やぐら』という物を作ったりとここでも楽しい事がいっぱいある! ううん、きっとご主人様と一緒に居るから楽しいんだね? ボクはこれからもご主人様の役に立てるように頑張るから、ずっと一緒にいてね? もしもボクがもう少し大きくなったら… ボクをお嫁さんに… な、なんちゃって!




