130 のんびり留守番中
誤字報告いつもありがとうございます。
留守番を始めてから1ヶ月が過ぎた。この1ヶ月で拠点の中も随分と進化している…
暇だからと始めた物見櫓は防壁の内側四つ角に置かれ、ちゃんと屋根付きで弓矢の攻撃から身を守れるようなスペースも作った。一見するとただの手すりのように見えるけど、太い木材で作ってあるので多少の攻撃ではビクともしないんじゃないだろうか。
そしてこの物見櫓… 地面に固定されていないんだよね! だから防壁を広げたとしても、新しく立ち上がった防壁の角まで持ち運んで移動できちゃうのだ! 要力自慢数名だけどね。
そして何より意外だったのは、こういった大雑把な工作をグレイが非常に好んだ事だ。
リャンシャンにいた頃は、ことあるごとにダンジョンに行こうと言っていたグレイが黙々と工作をしている… とても新鮮に見えたよね。
余談だが、この1ヶ月の間に2回も盗賊団と思われる集団が襲ってきた。
一度目は昼間っから20人ほどの人数で出入り口までやって来て、ここを明け渡せなどとほざいていた。これは工作の邪魔をされたグレイが怒り、盗賊団目がけて丸太をスイング! 見事全員レフト前にヒットといった感じで吹き飛ばされ、ヨロヨロしながら去っていった。
2回目はその3日後の深夜、夜襲をかけてきたんだけど… この時はぐっすり眠っていて突然起こされたアイシャの逆鱗に触れたらしく、物見櫓から防壁の外へと飛び降りて炎の魔法で燃やしてた。
残った俺達が出入り口に張ったバリアを解除して外に出た時には… 服を燃やされて地面をゴロゴロと転がっている集団が… そして全員逃げていった。
うん、気持ちよく寝てるのに起こされたらそりゃー怒るよねって結論になった。
ここで特筆すべきは、この2回の襲撃を防衛しておきながら盗賊団と思われる集団の誰も殺していない事だ。
グレイが言うには、「せっかく作り上げた拠点だというのに、近くに死体なんぞばら撒く訳にはいかないだろう。血肉の匂いで他の魔物も集まってくるしな」との事だ。
アイシャもキレてはいたが、死体の処理が嫌だったから軽めで済ませといたらしい。
まぁ結果的には良かったと思うよ、この場所に手を出せば痛い目を見るって事を体で理解させたと思うしね。今後カヤキス商会の人や、元魔術師団の人が出入りするようになってもあの程度の盗賊であれば大丈夫だとグレイも言っていたからな。
「よしっ! いかにも簡易的に見えるけど扉の完成だ!」
「うむ、なかなかてこずったのぅ。しかしこういった作業もなかなかに楽しいものじゃな」
「ああ。しかしこれで拠点を出る事ができるんじゃないか? ご主人も含めて4人で魔境に入れるだろう」
「何を言っておるのじゃグレイよ、私達の役目は留守を守る事じゃぞ? いくらなんでも空け放して出かけるわけにはいかんじゃろ」
「む? そうか? この扉であればそうそう壊されはしないだろう」
ふむふむ、グレイにとっては自信作って感じだね? でも…
「鍵がついておらんのじゃから丈夫であっても意味はないじゃろ!」
「なんと!」
どうやら本気でボケていたみたいだ。
SIDE:ナイトハルト
「急ぎ職人の手配を! 家具職人を含む木工職人を10人ほど見繕ってくれ、出張になるから給金も弾むと伝えるんだぞ」
「はいっ!」
「護衛の皆さんは2~3日休んでいただき、英気を養っていてください。こちらの手配が済み次第戻ります」
「了解です」
よし、では私は食料の調達に向かいましょうか。
しかし分かっていた事ですが金がかかりますね… まぁ集落を一から作るのだからそれも仕方のない事、今後得られるであろう利益のための初期投資なのだから手を抜く訳にもいかない。
ヒビキ様のパーティが留守番をしている以上、あの土地に何かが起きるような事も考えにくい… 恐らく何事もなく待ち構えている事だろう。急がねば。
「会頭、商業ギルドの方はいかが致しますか?」
「まだ何も利益が出ていない、特に報告する事も無かろう。リャンシャンに支店を置く事はすでに報告済みなのだから放っておいて大丈夫だ」
「承知しました」
部下達も忙し気に動いている、出来れば2日間ですべての準備を整えて出発したいところだな。
しかし荷馬車での移動は時間がかかる… 実際に王都に戻ってくるまで1ヶ月弱かかっていた、急いで戻ったとしても到着にはもう1ヶ月… ヒビキ殿は食料などは大丈夫だと言っていたが、本当なのだろうか? まぁ魔境に入れば肉は得られるだろうが… まぁここで心配していても始まらん、私のすべきことは急いで向かう事だけだ。
魔境の素材の流通は少ない… なぜならナイトグリーン王国で独占しているからだ。溢れた素材だけを割高で諸外国に流しているだけだから必然的に値段は高騰している、ここが勝機だと私の勘が叫んでいるのだ! 現状のまま我が商会が適正価格で魔境由来の素材を流通させられれば、我が商会は大儲け間違いなしなのだ! それも我が商会歴代トップクラスの収益となるだろう… 私の名も歴史に残るかもしれないな。まぁ当家内での話だが。
しかし、他にも考えなければいけない事もある。特に魔境素材の流通を始めれば、その輸送中を狙って不届きな者が襲ってくるかもしれないという事だ。いや、かもしれないでは無くて間違いなく襲ってくるだろうな。それも盗賊だけじゃなく、この王都に巣食う悪徳商人が率先してやってくるだろう。
まぁそれもヒビキ殿が紹介してくれた魔術師達がいれば大丈夫だろうが、次回から護衛の人数を増やさないといけなくなるだろう。
魔術師は魔力が切れたらただの民間人… 世の常識ではそう認識されている。我らの護衛が魔術師だと分かれば、分散的に襲ってきて魔力の枯渇を狙ってくると容易に想像できる。
ま、それも普通の魔術師ならの話だがな。
魔術師の長であるガラハド様の話だと、剣を使った訓練もしているとの事… 案外これは良い買い物をしたのかもしれないな。
魔力が切れても戦える魔術師が我が商会の専属護衛… それも80人規模の! これは護衛代金をケチる状況ではない、万全の態勢で動いてもらえるようにしなければならないな。つまらない事で護衛代金を値切るようだと見切られてしまいそうだし、そうなるとヒビキ様との関係にも溝が入るかもしれん…
「ちゃんと利益は出るんだからしっかりと見返りを与え、我が商会以外の護衛依頼を受けられないようにするべきだな」
よし、保存食を買いに行こうか。




