129 ギルマスも企んでいるようだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
「主よ、戻ってきたのじゃ」
「お、お疲れさん。森の中はどうだった?」
「うむ、まだまだ外縁部の範疇じゃったから大した魔物はおらんかったのじゃ。狼系とボアの類じゃな」
「ボアというと猪かな? 食べれるの?」
「そうじゃの」
夢中で作っていたらもう夕方になってたようで、グレイとクローディアが戻ってきていた。一応出入り口には簡易的な柵を置いていたのだが、まぁ普通に通ってこられたようだ。
「で、ご主人は櫓を作っているのか?」
「まぁ暇だったからね、使い物になるかは分からん代物だよ」
「いや、現状であれば上出来なんじゃないか? なんせ防壁の内部からだと外は見えないからな」
確かにその通り。塀に囲まれたこの集落予定地は出入り口しか開口部はないからな。
「どうせなら四つ角に欲しいところじゃの。明日は私も参加しようかの」
「そうだな、俺も参加しよう。やはり周囲を見渡せるのは安全の基本だからな」
「うむ。突然このような施設が出来たとあらば、この辺を根城にしている盗賊がいたとすればやってくるじゃろうからな」
まぁね、確かに南側にあるコッソメ集落から勇者が拠点としているノリシーオに向かおうとすればこの辺を通る事になる。ならばそれを狙った盗賊がいてもおかしくはないんだよな… まぁまだ盗賊を見ていないが。
「よし、じゃあ暗くなる前に寝床を作っておこうか。クローディア、頼む」
「任せるがよい。一応出入り口も塞がんといけないからその周囲じゃな?」
「うん。無駄に広いけど出入り口は塞がないと危ないもんな」
「うむ、木材も多いし侵入者がおれば隠れる場所も多そうじゃの。まぁ気配で分かるとは思うのじゃがな」
「ま、わざわざ危険を招く事も無いだろうし、出入り口はしっかりと塞ごう」
そんな訳で、ダークバリアステッキの範囲から外れないように出入り口を塞ぎ、その前に寝床を形成する事となった。
そして暗くなれば夕食を取り、毛皮を敷いて眠る事に。
SIDE:冒険者ギルドリャンシャン支部、ギルドマスター
「あん? コノサト子爵家の奴がなんだって?」
「だから、ヒビキさん達のパーティが最近ギルドに来てないものですから文句を言いに?」
「なんでそれがギルドに関係あるんだ? しかし本当にナイトグリーン王国の連中は話にならんな」
買取所からの報告では、例の勇者の腰ぎんちゃくども… そいつらの持ち込む素材は20階層後半から30階層だったという、それでよくもミスリルゴーレムをなんて言えたもんだな。まぁそれでも並の冒険者よりは進んでいるように思えるが、進み具合を言うなら大集団でこの街にやってきた魔術師の集団の方が上だがな。
まぁあの魔術師集団は、ヒビキのパーティがなぜか率先して組んでいたという目撃報告があるからかもしれんが、どうせならウチの冒険者も面倒見てくれねぇかな…
「じゃあギルマス、私は受付に戻りますね」
「ああ。もしまた来たとしても、型通りの対応で良い」
「了解しました。まぁ他に言いようもないんですけどね」
「全くな。それにしてもヒビキ達はどうしたんだ? 普段なら10日前後に1回はギルドに顔を出してたはずだが」
「いやぁ分かりませんよ。私も毎回ギルドに来るたびに、アイシャちゃんを撫でるのを楽しみにしていたのに… 癒しが無いんですよ! 今のギルドには!」
「あ、あ~早く受付に戻って仕事してくれ。俺もやる事があるからよ」
受付嬢を執務室から追い出し、ようやく静かになる。しかしいつの間にか奴隷の解放を行い、普通の冒険者として登録してからのあいつらの人気はすごいな… ぶっちゃけヒビキ以外の3人は本当によく話題に上るようになっている。
まぁ近接戦闘において尋常ならざる戦闘力を誇るオーガのグレイ… 普通オーガと言えば、群れる事は無く個人の力を優先するためパーティに加わる事はまず少ない。奴隷であればともかく、解放されてからもヒビキ達と共にいるグレイには秘かにパーティに勧誘しようという動きがあったりするのだ。
ぶっちゃけオーガが1人いればアタッカーとタンクの両方が手に入るもんだし、戦う事が大好きな種族のため、ダンジョンに入るのを渋る事もあり得ないだろう。戦力として一級品だからな。
魔法の事ならどんな種族よりも長けていると言われるエルフのクローディアもそうだ、小柄なために幼く見えるがあの喋り方だ、相当の年齢なはずだ。年齢を重ねているという事は、それ相応の知識も身に着けているはず… その知識とあの魔法、こちらも戦力として申し分のない力を持っている。
そして狐人族の獣人アイシャ… 少し前にあった決闘でも獣人らしい素早い動きで冒険者どもを翻弄していたし、何よりあの見た目だ… 受付の連中だけじゃなく女性冒険者からは愛玩動物かのように愛でられているんだよな。確かにあの太い尻尾… 触ってみたくない訳でもないんだが。
まぁそういった訳で、奴隷解放されてからはあの3人をパーティに引き込もうとする動きが少し見られたんだ。実際には3人共勧誘には聞く耳持っていないようだが、どいつもこいつも見る目がねぇよな。
あの3人を率いていたのはヒビキだろう! そして主人と奴隷の関係では説明できないほどあの3人はヒビキに対して尊敬の念を持っている… ように俺の目には見えた!
「ま、勧誘したいんならまずはヒビキを落とせってな、そうすりゃもれなく3人もついてくるだろうに」
しかし… そんなヒビキ達の姿が見えなくなってもう一月くらいになるか? もしかして街の外に出たのかもしれないな。前回来た時に置いていったミスリル… いつもなら3~4個しか置いていかないのに6個も置いていった。一度に2回分置いていったと考えれば…
「まぁアレだ、あいつらがどこに行こうが止められはしないからな。無駄に険悪な関係になるよりも、現状維持をしつつさり気なくランクを上げて行って責任のある立場になってもらわないとな」
うむ、そうだ。
従来の冒険者規定では無理だが改定させて、ギルドへの貢献度に応じてギルドマスターがランクアップをさせられる仕組みを作らなくては。
まぁこれも昔、ギルマスの勝手な判断でポンポンランクを上げていった馬鹿がいたからダメになった事だが、ギルド本部や他の町のギルマスの推薦があれば可能にする仕組みを作らんとな… ああ、もちろんギルドへの貢献度というのは、本来は依頼の達成数などで目に見える貢献度合いの事を言っていたが、ヒビキ達のように希少素材をたくさん持ち込んでも可能… この文言を追加でな。




