124 魔境を見る 2
誤字報告いつもありがとうございます。
「それでじゃ、こんな所で説明するのもなんじゃが魔境について私が知っている事を話そう」
「うん、よろしく頼むよ」
「まずこの魔境と呼ばれる地域は非常に広大で、多くの魔物が生存競争をしていると言われておる。強い魔物が魔素の濃い中央部に陣取り、弱い魔物がどんどん外縁部に押し出されるという事じゃな… じゃから時折魔物達が魔境から溢れてくる事があるのじゃ。これをこの地ではスタンピードと呼ばれるのじゃ。
じゃが先ほど説明した通りスタンピードが起きたとしても、生存競争に敗れた弱い魔物達が溢れてくる程度じゃからそれほど脅威という事でも無かったのじゃが… 一度だけ特大級の魔物が現れたのじゃ」
「お、もしかしてそれが?」
「うむ、それが現在魔王と呼ばれる魔物じゃと言われておる。
その魔物はとにかく巨大で、狼とも熊とも言われておるのじゃがその詳細は不明じゃという事じゃ。近くで見た者は根こそぎ殺されて食われたと言われ、遠くで見ていた者は逃げるのに必死でどんな魔物かと問われた際、先ほど言ったように狼だの熊だのと意見が分かれていたのじゃ」
ふむぅ… とりあえず四足歩行の魔物って事なのかな?
「その立ち姿は10メートルを超えていると言われ、走れば風のように速かったと言われてのう… 正直まともな目撃例は少ないのじゃ」
「でもここにいるって事は確定しているんだろ? 外縁部まで出てくるなんて何がしたかったんだろうね」
「ま、それも不明なのじゃ。分かっておる事は、その巨大な魔物が現れてから魔境からは定期的に強い魔物が出てくるようになったという事実だけなのじゃ」
「まぁ相手が魔物であれば、領土を拡大とかって人間的な思想はしていないだろうね。餌がどうのって事でもなさそうだし… まぁ来たばかりじゃ何も分からないか」
「領土がどうとかは分からんが、この広大な森の中での縄張り争いについても良く分かっておらんらしいの」
「謎ばっかりなんだね。それで? 勇者一行はどのくらい進んでいるの?」
「主よ… そんなの私が分かる訳無かろう。100年以上も奴隷として生かされてきてたのじゃ、自由に動けるようになったのも主に拾われてから… それからずっと一緒におるじゃろうが」
「そういやそうだった。つまりクローディアの情報は100年以上前の事なんだね?」
「まぁそうなるの。当代の勇者がどこまで進んでいようが結局はナイトグリーン王国の王子、金に物を言わして名うての冒険者を囲っておるのじゃろう」
「王子だったんだっけ、今の勇者は。それじゃあ危険なところに先陣切ってとはならないだろうね」
「うむ。先の勇者の手先が言っておったじゃろう? 私達を献上せよと」
そうだそうだ、クローディアを含めて3人を寄こせと言ってきたんだったな。確かに勇者の腕が良いなら現状戦力でどうにかできているだろうし、それができていないから更なる戦力をって行動なのだろう。
まったく何をしてるんだか、少しは自分のレベルを上げて自身が戦力になるって考えろよ! 仮にも勇者と呼ばれているならな!
「じゃが、主には他の者に無い特殊な能力を持っておる。この広大な魔境で中心部を探しての探索など何ヶ月かかるか分からない… つまり通常であれば100人以上の編成で、水や食料などを運び入れながら戦闘するという大変な仕事じゃ。それを主が一手に賄えることにより私達4人でも魔境に侵攻していけるというもの、勇者を出し抜く事など容易いと私は思っておるのじゃ」
「確かに水と食料はね… 非常食や保存食だけだとモチベは上がらないし、温かい物も食べたくなるしな。戦意というか士気には多大な影響が出るもんな」
「まぁアレじゃ、勇者がどこまで進んでいるのかはナイトハルトが聞いてくるじゃろう。予想としては碌に進んでいないと思うがの」
「経験値はパーティ人数で頭割りだから、それだけ大人数で進んで行くからレベルも上がらないんだろうね。少数精鋭と言えば聞こえはいいけど、実際それを実行できるかと言われれば難しいもんな」
「その通りじゃ。そしてそれを可能にするのが主であり、勇者が見せた主に対する評価を見れば大した者ではないという結論に行きつくの」
「まぁまぁ、俺のスキルの事は他の誰も知らない事だしね。物理に強いオーガに魔法に強いエルフ、そして万能な狐人族がいるとなれば、その3人が強いからダンジョンを進めているって思うのも仕方がないよ」
ま、俺をどう評価してこようとどうでも良い事… だけど勝手な主観で評価しておいて、後から手を貸してくれと言われても同意する気にはなれないよね。だからこうして魔境までやってきたんだし。
とりあえず魔王とやらがいなくなれば、魔境の開拓も進むだろうし珍しい魔物も狩れるようになってくるだろう。
そうすれば新素材が手に入り物流も商業も、冒険者も繁盛して景気も上がるだろう。良い素材は良い武器防具になり、魔素が濃いと言われる中心部にも辿り着く冒険者も出てくるだろう。そうなれば今更グレイ、クローディア、アイシャを手に入れようとは思わなくなるはずだ。
ま、そもそもこの3人はもう奴隷じゃないしね。それなのに物扱いをしてくるほど愚かだとは… さすがにないよな? そこら辺まともな感性を持っていてくれよ?
SIDE:タケノ・コノサト
「どういう事だ! あれから全く姿が見えなくなったんだが!」
「そう言われましても… ギルドとしても定期的にミスリルを納入してくれれば良いとしか約束をしていませんので、四六時中ダンジョンを探索しているわけでもないという事でしょう」
「しかしだな、そういった約束で勇者様への奉公を断ったではないか!」
「いえ、そのような約束を交わしたという話は聞いておりません。私が聞いているのは魔境に送るためのミスリルを、定期的に納入するという事だけです。それだけで十分すぎる程貢献しているのではないですか? 現状彼らしかミスリルを安定して手に入れられる冒険者はいないのですから」
「ぐぬぬ…」
たかが冒険者ギルドの受付嬢の分際で、このコノサト子爵の次男である俺に口ごたえをするとは生意気な! ここがナイトグリーン王国であれば今すぐにでも無礼打ちだぞ!
だが冒険者ギルドと争う事は、この街で行う活動に支障が出る… 仕方あるまい、当番でダンジョンの出入り口を張らせるしかないか…
 




