123 魔境を見る
誤字報告いつもありがとうございます。
「お待たせしました、こちらの馬車にお乗りください」
「おはよう。じゃあ早速乗らせてもらうね」
街の外にて待機を始め、そう時間も経たないうちにナイトハルト氏が街から出てきた。やはり商人の朝は早いんだね。
ナイトハルト氏が用意した馬車は3台… 先頭に商品や自分達で食べる分の食料などを積んだ馬車があり、2台目にナイトハルト氏と俺達4人、そして最後尾には護衛としてついてきている元魔術師団のメンバーが乗っている。
先頭の荷物専用馬車の御者台にも護衛が乗っているね… うん、割と万全というか過剰戦力な気がするよ。もちろん俺達だってただの客というつもりはない、魔物や盗賊が出たとなれば飛び出していくつもりだ。
「さて、一応最初に向かうところは魔境から見て南西方向にある集落を目指しております。この集落は北東方向にあるナイトグリーン王国城塞都市ノリシーオから離れているので、勇者絡みの案件が少ないだろうと予想されます」
「あーなるほど! 確かに魔境と言えば勇者の本拠地みたいなものだもんね」
「はい。なのでアキナイブルーからもそう遠くなく、勇者からも距離が取れるという事でこの地を選びました。
向かっている集落はコッソメといい、集落と言えども魔境に近い場所に存在しているため強固な防壁を持っています。倉庫を建てる場所があれば良いと思っておりますが… 土地の都合がつかない場合もございます」
「まぁそうだよね… 土地が無ければどうしようもないし」
まぁこればかりは行ってみないと分からないって事だな。集落と呼ばれているからには少人数でやり繰りしている可能性もあるから、もしかしたら倉庫どころではない狭い場所なのかもしれない。
これが現代日本であれば、あっという間に空撮画像を見る事ができて場所の確認はできるんだけど… さすがに片道数週間って距離だと偵察も簡単には出来ないか。
「なので最悪は我が商会で開拓すると…」
「それは最後の手段だよね? でももしかしたら魔術を使える者が護衛をしているし、力自慢のグレイもいる。決断するなら早い方が良いかもしれないね」
「そうですな… 魔術師がいるから木の伐採や乾燥などは素早くできるでしょうし、オーガのグレイ様がいれば木材を運ぶくらいお手の物でしょう」
そう言うとナイトハルト氏はなにやら考え込んでしまった。
まぁ現地到着まで時間がかかるから、ゆっくりでも良いから最適解を導き出して欲しいね。
それから25日間をかけてコッソメに到着。まぁ荷馬車を引き連れてだから通常の馬車よりも速度が出せないからこんなもんだとクローディアが言っていた。
道中特に問題は無く、野営時にはバリアを使う事無く護衛達が当番制で見回っていた。俺達も見回りに参加をと言ったが、これも訓練の一環だという事で元魔術師団のメンバーが勤め上げた。
まぁ訓練というだけあり、本当にここに来るまで何も無かったんだ。せいぜいどこにでもいるという狼系の魔物が散見する程度であり、さすがの戦闘狂グレイも狼相手では飛び出していく事は無かった。
そんな感じで元魔術師団のメンバーの戦闘を見学してみたが、盾を持った魔術師が狼の動きを抑え、その隙に拘束系の魔術を使用。そしてトドメは剣で斬る… と。なんとなくイメージしていた魔術師の戦闘とは違うようだったね。
クローディア曰く、攻撃系の魔法、もしくは魔術というのは消費魔力が意外にあるんだそうだ。だからこういった長い行程を進む護衛の仕事だと、出来るだけ消費を抑えていざという時のために魔力をキープするのが鉄則だという。
まぁ個人的には複数人魔術師がいるんだから、持ち回りで使えばいんじゃね? って思ったが、そこはやはり人間種の保有魔力というのは少ないんだそうだ。
「それにアレじゃ、私は主のバフがあるから魔力がすぐに回復しているというだけで、何も無ければダンジョン内ですらそうポンポンと魔法を連射するものではないんじゃ」
「そう言えばそんな話、前に聞いたかもしれないね」
「ついでに言うとじゃな、主から借り受けているステッキの魔法があまりにも消費魔力が少ないという事じゃな。あれほどの威力の魔法を普通は連射なんて出来んのじゃ」
「確かにね。どれもこれも魔法の見た目は派手だったり盛大だったりするもんな、特に雷撃の魔法がね」
「うむ。あの魔法は見た目も爆音もお気に入りなのじゃ」
現在コッソメ集落の外側にて待機中… ナイトハルト氏が防壁内部に入って空いた土地があるのかを確認しているところだ。全員で集落の中に入っていないのは、門を守る兵士に待ったをかけられたためなんだけど… 外で待たされるとは見られて困るものでもあるんかな? そんな邪推をしてみたり。
そんな中元気なのはアイシャだね。馬車での移動中にも時々外に飛び出し、馬車と並行して走ってみたりとすっごい暇そうだったんだ。馬車が止まり、全員が外に出るとなった途端飛び降りて、外を走り回って遊んでいる… そしてそれを見守るクローディアという。
グレイはね、剣を振っているよ。アイシャのように暴れまわるというほどではないが、体が鈍っているのかしきりに運動しているね。俺も少しは体を動かした方が良いのかな?
「主よ、少し距離があるのじゃがアレが魔境じゃ」
「ふむふむ、見た感じ普通の森なんだけどね」
「まぁそうじゃの。じゃが森の中に入るとどんどん魔素が濃くなってきてな、奥に行くほど凶悪な魔物が出ると言われておる。まぁ私自身が確認したわけじゃないがの」
「ん? 魔素ってなんだ?」
「そうか、主は魔素を知らんのじゃな。まぁ解りやすく言えば空気中に含まれる魔力の事じゃが、これによって魔力酔いをする者もおるのじゃ」
「魔力酔いねぇ… 俺にもあり得る事?」
「いや、主はなんだかんだと高レベルじゃし問題は無いじゃろう」
そっか、そういえば俺も前例のないほどの高レベルなんだったっけ。クローディアの記憶にある過去の勇者のレベルはとっくに超えちゃってるしね! 戦う事はできなくても!
クローディアと一緒に魔境の方を眺めてみる… 俺には魔素がどうとか良く分からないが、その魔素酔いがあるために森の中に入れる者が限定されてしまうとの事だ。だからこそ勇者という存在は希望の光だと言われている… らしい。それもこの周辺だけみたいだけどね。




