122 タケノ・コノサトは諦めない
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:タケノ・コノサト
「はっ!?」
何か衝撃的な言葉を聞いて意識が飛んでいたようだ… というか、あれ? あの4人組はどこに行った?
「しかし勇者様に仕える事の素晴らしさを理解できんとは、理知的と言われているエルフも大したことが無いようだな。だが勇者様を愚弄した罪は償わせないと…」
どうしたものか… 奴隷であったからこそ相手がエルフやオーガ、獣人だったとしても引っ張り込めたというのに奴隷でないとなれば話は別だ。いくら勇者様の名をもってしてもそれぞれの種族からの反発は免れない。 何か策を… いや待て、独断行動は危険だな。
「時間がかかるがこの事を勇者様のお耳に入れる方が先か」
この地がナイトグリーン王国内であれば何も問題は無いというのに、面倒な国にダンジョンがあるのが悪い。この地では勇者様の名声も、コノサト家の名も通らないから困ったものだ。
まずは仲間と合流するか。
一先ず泊まっている宿へと戻ってきた。今日は休養日としているから隊員達はまだ宿で休んでいるはず… さすがにこのような早朝から遊び惚けてはいないだろう。
「あ、隊長! お早いお戻りで… 何かありました?」
「うむ、ちょっと面倒な事になった。例の冒険者パーティを見つけたのだが…」
「見つけたんですか!? ではもう任務完了ですか? さすがに勇者様の名を出されて奴隷を差し出さない者はいませんでしょう」
「それがな… エルフもオーガも獣人も奴隷の首輪をしていなかったんだ」
「ええ? それはつまり…」
「そうだ、どうやら奴隷ではないという事だ。勇者様に仕えるよう諭したのだが、聞く耳も持たずに断ってきたのだ。許せんだろう?」
「まぁ獣人はともかく、オーガもエルフも人間とつるむ事は少ないですからね… それでどんな話をしたんです? 勇者様に仕える事で得られる名声の話とかしたんですか?」
「む? そういえばそういった事は何も言ってなかった気がするな」
なるほどそうか。貴族ならばともかく、異種族の冒険者であれば名声だけでは飯は食えんという事か。俺とした事がぬかったな… もっとよく得られるメリットについて話をすればよかったのだ。
しかし考えてみれば100階層をクリアしたといわれる冒険者パーティ… 80階層のミスリルも含めて相当稼げているはず、つまり単純な金では動かない可能性もあるな。金で解決となれば相当な額を出さなければ釣れないだろうし、現状魔境で活動をしている勇者様が動かせる金も多いとは言えない。
「ふむ… では送られてくるミスリルを使い、それぞれに専用武器を与えるというのはどうだろうか?」
「え? でもそいつらはすでに100階層でも使える武器を持っているはずでは?」
「だから意匠をこらした専用武器をという事だ。店売りなんかと比べ物にならんほどの業物を作るという事だな」
「なるほど、さすがにそれは冒険者にとっては垂涎ものかもしれませんね。しかしそれだと勇者様に確認を取らなければいけないのでは?」
「うむ、早速文を送ろう。言ったはいいが用意できんとなれば、勇者様の名に傷がつくかもしれんからな」
「ですねぇ。これが我が国に住む人間種の平民なら強制的に連れ出せるというのに、異種族ではそうもいかないですもんね」
「ああ、心底面倒だと思っている。だが仕方あるまい、我らの行動で勇者様の名に泥を塗る訳には行かん」
文の往復には時間がかかるがどうせ奴らは冒険者だ、ナイトグリーン王国にミスリルを送るべくダンジョンに籠るしかやる事が無いのだろう。勇者様からの文が届いてからダンジョン前で張り込みをするか、ギルド内で待ち伏せをすれば会う事は容易いだろう。
「よし、ではその案で行くか」
「はいっ! では自分は休息の続きを!」
SIDE:ヒビキ・アカツキ
「というわけで、クローディアからダメ出しを喰らったんだよ」
「そうか。まぁ剣の熟練度と個人のレベルは別物だからな、護身できる程度の腕があれば十分だと思うぞ」
「まぁ剣じゃなく鈍器を使えば幾分マシになるかもって言われたよ。残念だけど鈍器を使った戦闘を先に覚えた方が良いかもしれないね」
「うむ、それが良かろう。ご主人は確か『警棒』とかいう鈍器を作ったのではなかったか?」
「そうなんだよね。でもあまりに使わなさ過ぎて忘れてたんだよ、次からは頑張る」
80階層転移陣の前でランチタイムだ。それぞれの戦果を確認しつつ、ドロップ品を俺が収納して片付ける。
今回100階層を回っていたアイシャが調子良いらしく、午前中だけで2枚もケルベロスの毛皮を持ち帰ってきた! 良い感じだよ!
「午後からはアイシャが主の護衛じゃな… コカトリスと戦いたいといっても甘やかさぬようにな」
「わかった!」
あらら… クローディアがアイシャに仕込みを入れているよ、これじゃあいくらアイシャが素直でも俺が前に出ようとすればダメって言いそうだな。まぁ仕方ないか、これも適材適所って事で納得するか。
そんな訳で、午後からの素材収集も問題なく終了した。
翌朝、俺達は念のために日の出前から動き出していた。
まぁね、さすがに出発だっていう時に昨日の勇者関係者に会いたくないからね。ナイトハルト氏には昨日の内に状況を説明し、街の外で待っていると告げてあるからのんびりと待つとしよう。
問題があるとすれば、街の外に出るには夜が明けないと門は開かないという事だ。まぁさすがに門が開くような時間帯に、勇者関係者が門の近くをうろつくとは思えないから大丈夫だろうと判断した。まぁ貴族というならそんな早朝から動かないだろう! 昨日遭遇した時も朝だったが街中だったしね!
特に問題がないまま町の外に出る。
王都方面へ向かう街道を少し進んだ所で脇に逸れ、ナイトハルト氏の馬車を待つ事に。
「しかし馬車か… 俺は初めて乗るんだけどどんな感じ?」
「うーむ… 私も奴隷商人の馬車くらいしか乗った事は無くてのぅ。さすがに王都に店を構えるカヤキス商会、ボロ馬車ではないと思うのじゃが」
「まぁ最悪はアレだな! 毛皮を多めに敷くしかないな! 振動ならそれだけで大分軽減されると思うしね」
「そうじゃな。馬車にもよるが、モコモコになるまで敷いてやれば大丈夫じゃろ」
モコモコになるまで… それは一体何枚敷くつもりなんだい? クローディアさん。
 




