110 王都の雰囲気
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:元宮廷魔術師団長ガラハド
「よし、じゃあ本日はこの9名でダンジョンアタックを開始する。武器は全員持ったな? 防具が無いから盾持ちよりも前に出ないよう注意せよ。では出発だ!」
ヒビキ殿からダンジョンに入ると連絡を受けてから今日で5日、事前に頼んでおいたショートソード… その一部の引き取りが出来たので早速今日からダンジョン入りだ。
レベリングの時はグレイ殿とクローディア殿に引き連れられて行ったため、実際一般人枠と言われた組は10階層にある最初の転移陣ですら解放していない。俺が先導していっても良いんだが、それだといつまで経っても転移陣は解放されないからダメなんだ。解放ボスを倒してから進まないと転移陣を使う資格はもらえない。
師団員もすでに各自自身の身体能力を把握するために潜っている… その時点で今までとは大幅に違うという事をすでに実感しているのだ。
何が違うか? それは我々魔術師の欠点として挙げられる腕力と体力の低さだ。レベリングを終えた後だと、大きめの背負い袋に水と食料を詰め込んでいるにもかかわらず今までよりも体が動くのだ。あまりにも明確に示された身体能力の向上… 腕力と体力がこれなのだ、本命である魔力の方を試さずにはいられないのが魔術師だ。低階層では練習にも稼ぎにもならないため、各班転移陣の開放をメインに動いているのだ。
そして自分は、一番レベルを高くしてもらったために一般人枠の者を最低でも10階層の階層ボスを倒すところまで引率する事になったのだ。
まぁ… 今のレベルだと10階層以前の魔物であれば殴る蹴るでも対処可能だとは思うが、それだとどうしても拳や足に怪我を負う可能性もある。それを武器にする以上、それらが怪我を負うと進む事も引く事も出来なくなるからこうしてショートソードを使った戦いを経験しようという事だ。
目の前で師団員達の親兄弟がショートソードの使い心地を確かめている… 鍛冶屋の話によると、今回のような大量発注では著しく品質が落ちるという事。まさかとは思うがレベルアップによって向上した腕力で剣を折ったりしないかと心配だ。そうならないよう剣の振り方を指導すればいいのだが、残念な事に剣士という職業に就いている者は誰一人としていない…
だから頼む! 決して折れないように使ってくれよ!
SIDE:ヒビキ・アカツキ
さすがは王都… カヤキス商会の立地が良いのか、この近所で見かける宿屋はどれも高級宿ばっかりだった! 宿泊費を聞こうと立ち寄ってみたところ、3人の奴隷を見てものすごく嫌そうな顔をされたためその場で却下してやった。他を探すよ!
「うーむ、今まで私も気にしていなかったが、まさかこのような形で主に迷惑をかける事になるとは」
「ああ気にすんな! あんな宿はこっちからお断りだぜ! 門の近くに行けば普通の宿があるだろうしそっちに行こうぜ」
やはり警備上の問題なのか、王都の中央にそびえたつ王城を囲うように貴族街があり、外側に向かっていくごとにその地域に住む人の階級も上がっていっているように感じる。つまり外側に行けば行くほど冒険者も多くなってくるし、冒険者をあいてにする宿もあるんだろうと思う。明日には用意ができるって話だから今日一日だけ泊まれればいいんだ、さすがに王都内でバリアを張って野営する訳にはいかないからな… 絶対警備の人に怒られるか、最悪逮捕のような形で連れて行かれるだろう。
「そう考えるとリャンシャンって住みやすい街だったんだな」
「あそこはダンジョンで栄えた町だからな、俺のように荒っぽい者が集まる事が前提だ。冒険者が集めてくる素材が無ければ発展はないからな… だから冒険者にとっても住み安くしているのだろう」
「そんなもんか。でもまぁ少なくともこの王都よりは良いと思うけどね」
少々ムカムカするが、気持ちを切り替えよう。あまりカヤキス商会から遠くなると明日の移動が面倒になるんだが、イライラしながら時間を過ごすなんて御免だしな。
「しかしそうか、明日には全員奴隷じゃなくなるんだな… じゃあ記念にちょっと良い服でも買ってみるか? 王都であればオーガ用の服もあるだろうし、クローディアとアイシャも美人なんだから綺麗な服を着ればすっごい目立つかもしれないぞ!」
あれ? なんだかまるで眼中に無いかのような雰囲気が…
「ご主人よ、俺は戦闘で困らない服があれば他はいらんぞ」
「私も着飾るのはあまり好きでは無いのじゃ、戦闘用と旅装束があれば問題は無い」
「ボクは今の服で良いと思うよ!」
「そ、そっすか…」
うーん… グレイはゴリゴリのマッチョだし、ちょっと世紀末っぽい服装してヒャッハーすればいい感じになると思うんだけどなぁ… 残念だ。クローディアだって年寄り臭い話し方をするけど、純粋な見た目だけなら美人系だしな! なんかドレスみたいな服を着たって負ける事は無いと思うのに。
アイシャに至っては子供服みたいな感じで着飾れば、ファンタジー全開で良いと思うんだけどな。狐耳で子供服! ファンタジーじゃないか!
だけどこの3人、武器を買うっていえば良い顔で喜ぶんだよなぁ… なんて言うか色々ともったいないね。
そんな訳で、カヤキス商会から30分ほど外側に向かって歩いた辺りに商店街を見つけた。先ほどの区域とは違い、店も客層も庶民? 平民みたいだしこの辺の宿なら多分大丈夫だろう。
歩きながら店先を覗き、売られている商品を眺める。ここら辺もさすがは王都というべきなんだろう、様々な食べ物や雑貨が並べられていた。
だからといって目を引く物があるかと言われれば、案外そうでもないんだよなぁ… 見かけた果物なんか結構高いし、なんか熟れすぎている印象のある物が多いね。これは収穫してから王都までの移送中に完熟してしまったってオチなのかね…
「主よ、あの辺りに宿が並んでおるの」
「お、じゃあいつものように3人部屋でも借りるか」
「うむ。私とアイシャは一つのベッドで十分じゃしの、まぁグレイが収まるようなベッドがあるかは知らないが」
「それはね…」
「大丈夫だご主人、それこそいつもの事で慣れているぞ。そもそもご主人に拾われるまでベッドでは寝れんかったからな」
「それもそうじゃの。主に拾われてから私の感覚もすっかり変わってしまったのじゃ」
「ベッドにケルベロスの毛皮を敷くとぐっすり寝れるよね!」
なんだか笑顔が戻ったかな?
なんだか緊張してしまうが、明日はいよいよ3人から奴隷の首輪が無くなる… なんかようやくだな。
 




