109 カヤキス商会
誤字報告いつもありがとうございます。
「えーとなになに? カヤキス商会?」
「うむ、読みの方も大丈夫のようじゃな。店の名前も記憶にあるから数代店主が変わっておるじゃろうが、ここで奴隷について色々と出来たはずじゃ」
「色々と… ねぇ」
「そうじゃ。奴隷の売買は当然の事、新規奴隷の登録や値付け首輪の取り付けもやっておるはずじゃ」
「まぁ外せるんなら付けられるよね。じゃあとりあえず中で話でも聞いてみるか」
見た目はかなり大きな建物で、この世界に来て初めて見る4階建ての建築物だ。2階までは石造りになっていて、その上が木造というある意味基本的な構造になっている。日本にある一般住宅は大体そうだもんね、石造りではないけどコンクリートで基礎を作り上物が木造… まぁ日本ではこの作り方で4階建てにはしないけどね。
見たところ幅広い商売をやっているようで、複数ある入り口らしき開口部の前には野菜だったり、かと思えば何かの器具みたいなものが店先に並べられている。ぶっちゃけるとどの入り口から入れば奴隷関連の部署に行けるのかがさっぱりわからないという事だ。
まぁアレだ、こういう時はサクッと聞いてしまおうか。
何やら木製の部品に革が取り付けられている品物を置いてある入り口から中に入り、店員らしき人を探してみる。
お? 何やら目つきの鋭い年配の人と目が合い、俺の方に向かって歩いてきたぞ? この人が店員なのかな?
「いらっしゃいませ、何をお探しですかな?」
「ああ、ちょっと入り口が分からなくてね。奴隷関連はどこに行けばいいんだろうか」
「奴隷関連ですか… どこでそれを?」
「うちにいる者が、まぁ100年以上前みたいだけどこの店で奴隷になったといってたんでね」
「100年以上前ですか… なるほど、確かにその時代では当店も大々的に奴隷商売をしていたかもしれませんな」
「え? その言い方だと今はやってないと?」
「その通りです。当時はそれが儲かったのでしょうが今はそれほどでもなく、先々代の時にその仕事は辞めたと聞いております。80年ほど前だったと思いますが」
「そうなんだ… それを頼りにこの街まで来てみたんだけど、残念だ」
「ちなみにどのようなご用件だったのです? 奴隷の購入でしたら別の店を紹介する事も可能ですが」
「ああ、この3人の首輪を外してもらおうと思ってね」
「奴隷契約の解除ですか… 借金奴隷であればその借金を完済、犯罪奴隷であれば刑期を全うされたという事ですか?」
「まぁそうだね」
いやいや、この人の目が鋭すぎてなんか怖いんですけど? それにグイグイ来るのもどういうわけだろう… 奴隷関連の事をどこで聞いたかと言っていたが、この人にとってはそれは嫌な事だったりするのかな? 店の内情にもなんか詳しいようだし、店主の縁者なのかもしれないね。
「当商会でも解除だけであれば行う事は可能です、当時の道具が残っておりますので」
「本当かい? 出来るのであればやってもらいたいんだけど」
「やるのは構いませんが、条件がございます」
「条件… それは一体?」
なんだ条件って? 是非とも解除はやって欲しいところだが、その条件次第では何とも言えないよな… まさかこの中から1人置いていけとか? それだったら絶対無理な話だぜ!
「当商会では先ほども言いましたが、先々代の時代に奴隷関連の商売からは手を引いています。この事を知っている者もほとんどいないと思っていたのですが… まさかこの事を知っているエルフの奴隷が生きているとは思いませんでした。
当商会としては過去に奴隷を扱っていた事はあまり知られたくないのです、なので一切の口外禁止を誓ってくれるのであれば処置しましょう。ちなみに当時の解除にかかる費用は覚えておられますか?」
「聞いたのは1人金貨500枚前後だって…」
「なるほど、記憶は確かのようですね。では口止め料として割引をしましょう、1人金貨400枚でいかがですか?」
「元より口外するつもりもないし、安くなるのは歓迎なんだけどいいのかい?」
「私の中では当商会で奴隷を扱っていたのは悪い歴史なのですよ、それを払拭しつつ稼げるのですから何も問題はありません。
あ、申し遅れましたが私がこの商会の店主、ナイトハルト・カヤキスと申します」
「あ、ヒビキという… どうも」
これははっきり言って良い話かもしれない。
多分だけど奴隷商人っていうのは、俺でも感じられるように悪いイメージがあるのかもしれないね。これほど大きな商会になれば、やはりクリーンなイメージが欲しいしすでにあるから潰したくはないよな。それでも3人分の解除となれば、金貨400枚に値引きしてくれても1200枚も儲ける事ができる… 確かに商会にとっても損の無い状況だ。
まぁ問題は… 口外しないと誓うって部分だな。
魔法的な何かで口に出来ないよう縛るものなのか… ただ単に口約束というには向こう側のリスクが大きいと思われる。
いやでもこれほど大きな商会であれば、やっかみなんかで商売敵から何かしらの妨害は受けているかもしれないね… そうすると俺のような個人があれこれ言ったところで揺るがない評判というものがあるのかもしれない。
一応振り返って後ろに控えているクローディアの顔を見てみる… お、頷いたね? じゃあ受けちゃうよ? この話。
「一応聞くけど、口外しないように誓うというのはどうやるのかな? 奴隷契約みたいな何かがあるの?」
「いえいえ、口頭で結構です。見たところ、3人の奴隷は血色も良くとても健康的で、それだけで主人である貴方の人柄が良く分かります。基本奴隷というのは痩せ細っているものですからね。
ですが貴方の奴隷はそれが無い上に衣服も上質、清潔にもされているようで大事に扱われているのが良く分かります。これほどの人なのであれば、口頭とはいえ一度約した事を覆す事は無い… と、私は見ております」
「過大評価にも思えるけど約束を破られるのは嫌いでね、されて嫌な事はしないように気を付けてるんだよ。それに連れて歩く者を臭くて汚いままにする訳無いでしょう?」
「ふふっ、では商談成立という事で構いませんか? そうであれば準備に取り掛かりますが」
「もちろん! よろしく頼むよ!」
なんだか知らないけどうまく奴隷契約の解除はできそうだな!
「では準備に時間を要しますので、明日の昼以降にご来店くださいますか? それまでには整えておきますので」
「分かった、じゃあ明日の昼頃にまた来るよ」
「お待ちしております」
よし! 最大の用事が片付きそうなので助かったよ! じゃあ早めに宿でも取りに行くか!




