104 途中経過
誤字報告いつもありがとうございます。
「ご主人、戻ったぞ」
「お疲れさん。昼食を取ってから情報交換だな」
「うむ、異論は無い。もう食べていいか?」
「皆戻ってきたから分配しよう、それからだな」
それを聞いたグレイはすぐさま動き出し、グレイのアイテム袋に入れてあった大きめの木皿にコカトリスの肉を山盛りにする。そして魔術師団員達のところへと運んでいき、分けて食べるよう伝えている。
うん、こういう時のグレイはアレだよな… 人参が目の前にぶら下がっている馬のように全力を尽くして働き出す、俺も早く準備を済ませよう。
想定通りグループで分かれて食べる体制になったので、大柄なグレイを壁にしてその陰に隠れるようクローディアが枝豆コーンサラダを食べ始める。魔術師団員に背を向ける体勢のグレイはコカトリスの肉を食べながらライスバーガー、アイシャはなぜかコカトリスの肉とセットでナゲットを食べている… どうしてこうなった。
程なくして食事も終わり、いつもならまったりとする時間なのだが今回は… 報告を聞かなければいけない!
「じゃあまずガラハドさん、レベルの方は?」
「レベル27だったのが35になっている。さすがは深層部だな、10人もいるパーティなのにこれだけ上がるとは…」
「グレイ、オルトロスは何匹倒せた?」
「うむ、移動速度の問題があって5匹しか倒していないな。まぁ午後からはもう少し効率が上がると思うが」
「そっか、5匹でもレベル8も上がったか… 10人パーティでそれならレベル差の恩恵は結構あると思っていいかもしれないな」
うんうん、パーティの場合人数で経験値の頭割りだって話だから、10人で分割しているのにこれだけ上がるのなら全然問題は無さそうだな。まぁ今のレベルだからっていうのもあるだろうし、この先もう少しレベルをってなった時は時間もかかるだろうけど。
「じゃあ81階層を回っていた組はどんな感じ?」
一番手前にいた40代くらいと思われる主婦の人に聞いてみる。
「あ、私はレベル2だったのですが26まで上がっています」
「ほほぅ! クローディア、コカトリスは何匹倒せたの?」
「10匹じゃな、まぁ元のレベルが低かったからこんなもんじゃろ。グレイの方の結果を見るに、残り半日ではいいとこレベル30前半あたりまでは上がりそうじゃの」
「そうかもしれないな。まぁ一般人でレベル30台ってだけでも大したもんなんだろ? どこまで上げるかはアレだ、まず一回りしてから考えた方が良さそうだな」
「そうじゃの。まぁ魔術師の方は最低でもレベル50台くらいは上げておきたいところじゃな」
まぁ一般人とはいえレベル30台となれば、このダンジョンでも20階層前後で狩りが出来るはずだ。まぁパーティを組む事を前提としてるけどね。
俺のように戦闘技能の無い者だと通例の『パーティの平均レベル=狩りがなんとかできる階層』というのは当てはまらないだろうから、なるべく安全マージンをって考えたら大体そんな所だと思っている。
しかしまぁ、元々戦う事のできなかった人達が、レベルアップの恩恵で狩りが出来るようになるだけでかなりの進歩になるだろう。それぞれが武器を持ち、戦闘経験を積んでいく事ができればその内レベルに見合った動きが出来るようになり、何かしらの問題… 盗賊であったり勇者関係の暗部が誘拐に来たりしたとしても対処が出来るようになる… かもしれない!
「ご主人よ、魔術師はともかくその家族達は別に魔術が使えたりはしないのだろう? そうするとそれぞれの適性に合った武器が必要になるぞ」
「そういえばそうなんだよな… 家族だからと言って皆が魔術を使えるなんて事はないんだよね?」
「そうだな… 使えていれば皆魔術師団に組み込まれていただろう」
ふんふん。ガラハド氏がこう言うんだから、適性が無かったから魔術師団に所属していなかったという訳ね。
「まぁ人数が人数だからな、いきなり武器を調達するといっても限度があるだろう。それにやっぱり武器に対する適正も考えなければね」
「とりあえず戦い慣れていないものなのじゃから、無難にショートソードなんかを揃えておけば良いじゃろうな。適正も大事じゃが、まず最初に武器を振るう事を経験せねばいかんじゃろ」
「まぁね、いきなり経験もないのに大剣とか槍とか持たされても、その武器を扱う事すらできないもんな… 経験者がいれば良いんだけど」
しかしまぁショートソードか… 新品をいきなり買おうとすればそこそこの値段はするはずだよな、そうすると武器を揃える事すらできない可能性もある訳だな。
まだこの街に移動してきて時間も経ってないだろうし、ダンジョンに入ってたとしてもそれらを揃えるだけの収入はまだまだかもしれない。そういった事に突っ込むのは気が引けるが、後でガラハド氏に確認しておこうかな。
俺に関わらせることで増える危険に対する事だ、ぶっちゃけ俺が武器屋で調達したとしても必要経費として十分当てはまるだろう。何といっても家族のことが心配となれば、仕事をするにしても手が付かないだろうしな。
「まぁ武器の事については後で話を、ガラハドさん」
「そうだな、レベルが上がっても武器に限らず装備が無ければ安全に稼げることはできないだろう。承知した」
「じゃあ午後からもこの2人の指示に従い、怪我の無いようによろしく」
こうしてまたそれぞれの階層に移動していった。
だけど何て言うかアレだな… 朝一に見せていた戦々恐々な顔つきだけはすっかり消えていたな。特に一般人に括られる組の人だと覿面で、ただ後をついて行くだけの超単純な行動だけどレベルが上がっていき、増していく自身の体力が体感できて安心しているのだろう。
まぁ調子に乗って「俺が倒す!」なんて言いながら突っ走っていくような年代じゃないからその辺の心配はしていないけど、変に万能感を覚えて驕るようにだけはならないでほしいね。
「よしアイシャ、俺達もやるとするか」
「はいっ!」
元気の良い返事とバサバサ揺れている尻尾にほっこりしつつ、ミスリルゴーレムの部屋に入っていくのだった。




