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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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77話

 バリケードが張られた東京。都市の内部には、住民を誘導する結界術師たちの姿が見えた。しかし、将嗣はそれらを一瞥すると、空を飛ぶ影と同じ方向に駆けた。あいにく、将嗣はその空を飛ぶ影が何を求めているのかを知っている。だからこそ、必死の形相で追いかけているのである。

「なぜ、千晶が人間の姫に選ばれているのだ! 可能性があるというだけの話しではなかったのか!」

 将嗣は文句をいいながら、最高速度で駆けた。

 そもそも、日下部透、千晶のきょうだいは、あの邪竜厄災で生き残った子どもたちである。様々な偶然が重なったとはいえ、普通の子どもたちがあんな恐ろしい場所で生きていられるわけもない。そう考えた過去の将嗣たちは、このきょうだいの素性を詳しく調べた。そうして発覚したのは、彼らが巫女の家系、つまり神に奉仕する一族の末裔であるということだった。

 その家系であるということは、当然のことながら、通常の人間よりも妖力をもっているということである。中でも、発見したときから千晶の妖力はすさまじいものだった。将嗣はそれに驚愕したと同時に、外部から付与されている恐ろしいまでの呪いの力に寒気がしたものである。それがマリアのものであることは、後でわかったが、幼い身体にそれだけの力をもっているのが恐ろしく思えた。

 人間には妖力が備わりにくい。特別な人間であるということはすぐに分かった。姫かもしれないという話はその時には既にされていたものだった。ただ、巫女の一族はそれなりの数があり、千晶が巫女であると確定することはできないという話だった。

「ただね、この子……マリアが助けるより前に死んでいた可能性もあるのよ。だけど、恐らくご両親と思われる第三者に厳重な保護の結界術を施されていた。だから助かったというわけ。それだけ強力な結界術を使えるご両親が、命がけで護ろうとした存在……姫である可能性は十分にあるわ。まあ、自分の子を護ろうと親が動くのは当然だと思うけれど」

 そう言って白天がゆるく笑みを浮かべたことを将嗣は今でも覚えていた。

 そんな千晶が姫であると、敵のローブの男は断言した。将嗣はそれを受けて、境界門を使い、埼玉付近の詰所の方へと転移し、東京へ走ってきたのが現在までの流れである。

 千晶を護ることは、現在の日下部家の重要な使命となっていた。透と将嗣、智美ははじめからそのつもりだった。しかし、マリアが再び来日した時に、千晶が姫であることはほぼ間違いないという情報をもってきた。それ故に、日下部家は極秘で東京において守るべき要衝のひとつとなっていた。

 そんな、日下部家に将嗣が着いた時、ちょうど、護衛に立っていた術師のことごとくが吹き飛ばされた所だった。

「何をしている貴様!」

 地面に降り立ったのは、蝶というよりは蛾のような羽をもった人型の怪物。人型とはいえ、顔の大半は複眼のようなものをモチーフにしたであろう仮面で見えないし、手は四つある。明らかに人外である何かだった。将嗣はそこで悟る。恐らく、コイツが悪魔の一人だと。

 その悪魔は、将嗣の方を振り返ると素が見えている口の部分を醜悪にゆがめて言った。

「おや、おやおや、また人間が邪魔を……む、お前は、先ほど我の部下を撃ち落とした手練れ……そうか、姫を守りに来たか」

「悪魔風情が、偉そうな口をきくな! 千晶が快適に眠れなかったらどうするんだ!」

「あん? 何をいってやがる。この惨状を見て、よくそんな事が言えるなあ、オイ?」

 にやにやと下卑た笑みを浮かべる悪魔に、問答無用と、将嗣は術を放つ。

「【衝風】!」

 風の塊が衝撃とともに、悪魔を襲う。しかし、悪魔は羽を自身の前にもってくるようにして、防いでみせた。

「なかなか効く攻撃をしてくるじゃないの。でも、我には通じない。そんな攻撃をいくら当てても我は倒れない。だから、ここにいる奴らは倒れてるんだ。そうだろう?」

「なるほど、それなりに高位の悪魔か。悪魔と戦うのは初めてだが、それなりの攻撃では無ければ通じないくらいには、身体強化を使っていると……知性もあるし、厄介な相手だ」

「そうそう、敵わないと悟ったら早く尻尾を巻いて逃げた方がいいと思うぞ?」

「なに、敵わないということはないだろう。逆に、さっさと片づけさせてもらう」

 将嗣は軽く右足を引いて、戦う構えを取った。悪魔がそれを見て、気味の悪い笑い声をあげた。

「ひひひ、我には勝てんさ。我の吐く呪いに、常人が耐えられるはずもない。【瘴気拡散】」

「む?」

 悪魔が羽を動かす。邪悪な光を放つ鱗粉のような粉が、周囲に広がった。将嗣はそれを風の術で霧散させる。

「これだけか? あまり有効な手とは思えんが」

「さあて、どうだかな」

 悪魔がそう笑う。将嗣はその表情を怪訝に思った。瞬間、周囲の倒れていた術師たちが一斉に苦しみだした。

「お前……まさか……」

「正々堂々と我が貴様のような人間を相手にするわけがないだろう。こいつらの呪いを解きたければ、姫をこちらに渡すんだな」

「……そんな脅しをするほどに、俺と戦う自信がないのか?」

「はっ、挑発したって無駄だ。我にはこの家に結界とトラップが幾重にも仕掛けられているのがわかる。ここを守りに来たってことは、この守りのカギをもってるのはお前だな?」

「……」

「なあに、悪魔ってのは魔力と親和性が高いのさ。どんな状況が目の前に広がっているかくらい、しっかりと見ればわかる。カギをもってる奴がもう一人いるのもわかる。お前たちが何を考えていたかもわかる。だからこそ我が取る行動は最大限の嫌がらせだ」

 将嗣は正直、舌打ちをしたい気持ちだった。この悪魔の言っていることは、全て当たっているのだ。

 恐らく、強硬手段でこの悪魔が守護結界を突破することもできるのだろう。しかし、この守護結界は相当に強力なものであり、この悪魔がそう小さくない傷を負うことは確実だった。そこまで見抜いているのであれば、相当に頭の回る悪魔だと言わざるを得ない。将嗣がここにいなかったならば、家の中で、千晶の隣で待機している智美に対して同じ脅しをしたのだろう。

 将嗣が頭を回し、しかし顔には出さないようにして悪魔と相対していると、頭に、とある声がよぎった。

 それは将嗣の顔色を瞬時に変えさせるほど、ありえない出来事だった。その動揺に気づいた悪魔が言う。

「どうした? 解決方法がないと気づいてついに絶望したか?」

 しかし、その声に答えたのは、将嗣ではなかった。

「私のお義父さんは、そんなに弱くない」

 凛と響く声だった。幼さの残るその声は、悪魔の後ろから、将嗣の視線の先から聞こえてきた。そこに立っていたのは、長い髪をすとんと下ろした黒髪の女の子。日下部千晶だった。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


次回は5月30日18時投稿予定です。

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