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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
75/93

74話

 戦場は敵味方が入り乱れ、激しくぶつかり合っていた。西と東でも様相が異なる。西は統率のとれた防御陣形を組み、その陣形ごと前進している。前線では土門が召喚したゴーレムが暴れていた。なんともわかりやすい進軍である。堅い守りの軍隊のような集団行動は、土門が直接指揮しているからならではだろう。対する東の地域では、三番隊が敵戦線に浸透しながら暴れ倒していた。三番隊は、基本的にペアで行動するシステムが組まれている。よって、2人よりも多い人数での集団戦のノウハウはあまりない。それ故に、互いを守り合いながらも好き勝手に進軍するというスタイルが確立されていた。ただ、だからといって統率が取れていないわけではなく、一定の戦線が保たれているのは、バカみたいな大声で叫びながら戦うケンカスタイルをとっているからのようである。そのためか、側から見れば暴れているのは、人間の方にも見える状況だ。

 そんな中で、北側を受け持つ火青の戦場だけは常軌を逸した荒れ方をしていた。そこにあった草木はすべて焼き尽くされ、荒れ地には何もない。()も不死者も何かしらの術の一環でつくられた力の塊である。術を保持できなくなったそれらの敵は、戦場から跡形もなく消えている。ゆえに、火青が燃やした後には、炭化した草木と荒れ地しか残らない。家屋がかろうじて残っているものの、付近で生活していた者たちに対する補填はしなければならないだろうと、土門は内心で感じていた。

 突然、戦線の向こうが爆ぜた。三方向すべてである。さすがに火青や土門も驚きを隠せない。自然とそちらのほうに目が行く。三方向の奥地、敵が迫ってきていると考えられる処から巨大な影がゆらりと姿をあらわした。それは、巨大なスケルトンであり、日本でいうがしゃどくろと呼ばれる妖怪だった。それが3体。一気に戦場に現れたのである。火青はそれを見て顔色を変える。

「啓、どうやら、ここを攻めている術者は健在のようです。私は大元をたたきに行きます。ここは任せました」

「火青様、ちょっと!」

 土門と同じく戦況を見渡せる高台に立ち、高火力の術を放ち続けていた火青は、土門に声をかけると北側の大地に降り立ち、がしゃどくろの方向をめがけて駆け始めた。

「術者がいるって言っても、その特定もできないのにあの方は全て滅ぼすつもりか。というか、火青様が抜けた後の北側の戦線はどうやって支えればいいっていうの……!」

 土門が頭を抱える。北側は焼け野原になるくらいには敵が殲滅されており、まだ敵が攻め込んでくる様子はない。しかし、時間が経てば敵が流れ込んでくるのは明白である。現に西側の二番隊を中心とした部隊は右翼である北側が少しずつ押し込まれているように見える。今すぐに支援に入らなければ、戦線自体の崩壊もあり得る。

「チッ、だったらもう、私が出るしかないじゃない……一番隊に通達、戦力の半分を北側に投入。私に続け!」

 一番隊は諜報部隊である。そのため、戦闘力よりは潜伏能力や偽装能力、移動能力に長けた者が選ばれている。ただし、諜報活動には危険が付き物であるために、四番隊よりも戦える者が多いのである。土門はそのような前提を含めて、一番隊を指名し、自分も戦場に降り立った。

 高台から降り立った土門がまず使った術は、先ほどと同じ【武装傀儡興行】である。主に西側部隊の前線を支えるための追加部隊だが、北側の大穴が開いたことにより撃ち漏らしが発生している東側にも的確に援軍を送った。

「これで前線はしばらく大丈夫だろう。問題は、東から中に流れてくる奴らと、北側正面に迫りくる敵だけど……ちょっと面倒ね」

 苦笑いをする土門の視線の先には、開いた空間をフルに活かして突撃してくる騎兵型の不死者と速度のでる四足歩行の怪物を模した()の部隊であった。

「敵側に頭の回る奴がいるっていうのは本当みたいね。私の仕事、増えたじゃない」

 そう言って、土門は妖力を練り上げる。そこに到着したのは一番隊から前線に送り出されてきたメンバーだった。

「土門隊長、我々はどこに」

「東だ! あっちは喧嘩戦法だから殲滅力はあるが攻め込まれている。撃ち漏らしを確実に仕留めて、街に近づけさせるな!」

「了解です。隊長はどちらに」

「私はここで四足歩行どもと喧嘩する!」

「は?」

「玄武の鳴動。阻め。打ち砕け。結晶せよ。大地の呼び声。剛力の尖岩。陽ノ七【猛り砕く結晶岩の大地】」

 第七階位の術式。それは、環境さえ変え得る大規模な力の行使である。

 土門が術式を発動した瞬間、大地にオレンジの波紋が広がった。その波紋の範囲に、異変が置き始める。大地が小刻みに震え、地中から半透明のオレンジ色をした結晶が何本も生えてきたのである。それらは全て尖っており、槍を突き出すようにして北側の敵の方向を向いていた。

 勢いをつけて走ってきていた敵の機動力の高い部隊は急に止まる事ができず、次々とその結晶に刺さって息絶えていく。土門は、呆けたリアクションを取った一番隊の面々を手で追い払うようにして言う。

「私があの柵を通ろうとするやつを片づける。だが、少しは撃ち漏らしもあるかもしれない。それを倒して、北側の第二関門になるのがお前たちの仕事だ」

「は、はい!」

 恐縮した顔で言う一番隊の隊員を見て、土門は笑う。

「大丈夫だ。私はここを突破させる気はねえよ。安心して、左右だけ見てな」

 こくりと隊員が頷いたのを見た土門は、小さく息を吸って気合を入れ直したかのようにつぶやいた。

「来たれ。粉砕丸」

 相変わらず、ネーミングセンスがないのはいかんともしがたい所だが、彼女の手元に現れたのはそんな考えすら粉砕してしまうほどに大きな金棒である。それは、大柄の鬼が使うのではないかと思うような、無骨なデザインをしており、両腕で持つのも大変そうな代物だ。しかし、所々に鋭い突起のついたそれを彼女は軽々と片手で振り回し、刀と同じように脇に構えた。

「おぉらぁ!!」

 気合一閃。彼女が放った横薙ぎの攻撃は、結晶を飛び越えようとした不死者を一撃で吹き飛ばした。デュラハンとも呼ぶべき、首なしの騎士は馬ごと吹き飛ばされ、途中で姿が保てなくなり霧散した。

 見れば誰もがわかる剛力。結界術も力押しに長けている。これが、本来の戦場での彼女である。処理能力が高いのは彼女の性格上の特性であるが、彼女の術者としての才は、圧倒的な出力で敵を吹き飛ばすところにあった。

「これが、四番隊隊長の実力……!」

「そんな感想言っている場合じゃない! さっさと散れ!」

「は、はい!」

 土門が強い口調で言ったのに合わせて、一番隊がそれぞれの戦場に向かっていく。それを見届けてから、土門はひとりでつぶやいた。

「さて、鼓舞はできたが、これはそんなに長いこともたないぞ……!」

 そう。どれだけ土門の実力が突出していても、火青のように一面を全て一人で支えるほどの力はない。いや、継戦能力がそこまで高くないと言うべきか。大規模な術を放ち続けてケロッとしていられるのは、結界術師では祝福や呪いを受けた者や一部の天才だけである。例えば、一番隊隊長天海流泉や二番隊隊長緋山燕治がそれにあたる。だが、土門啓はそうではない。隊長にふさわしい妖力をもっていても、強力な術をもっていても、全てを護れるほど万能ではないのだ。

「私が崩れる前に術者が倒れてくれるか……」

 見えない火青に思いをはせ、土門は敵陣に躍り出る。突進してくる化け物たちに、その勢いを利用できるトラップを的確に配置し、少ないコストで多くの敵を屠る。突破してきた敵には、金棒の一撃を見舞う。

 火青が荒れ地にした大地は、トラップだらけの戦場になり、地雷原も真っ青な状態である。敵の屍が転がらない分、獅子奮迅の活躍をする土門の姿が目立つ。この戦場でともに戦う結界術師にとってそれは大きな心の支えであった。

 ただ、その活躍の頭上を、一瞬で通り過ぎる影がひとつ。空中の敵に対する有効打を土門は持ち合わせていなかった。術者は新たな化け物を生み出したらしい。

 対応しなければと土門が思った矢先、戦場に声が響いた。

「土門くん! 任せろ!」

 火青がいたはずの、戦場の奥から聞こえてきた声。目の前の敵がみじん切りになり、粒子へと変わる。そうして視界が開けたところに立っていたのは、三番隊隊長日下部将嗣だった。

「玄武の鳴動。風刃。連鎖。拡散。切り裂け。陰ノ五【裂風幕陣】!」

 将嗣の放った術は、空気中に風の刃を拡散して一定範囲の敵を全て切り裂く術であり、空中にいる敵に対して効果的な術だった。範囲も火力も十分であり、土門が取り逃がした敵のほとんどを狩りつくしてしまった。

「日下部隊長!」

「ちょっと野暮用でな。火青様が多分こちらの大元をどうにかしてくれる。あと10分、耐えられるか?」

「耐えてみせます! そう言うということは日下部隊長もここではなくどこかへ?」

「ああ、ちょっと、娘が大変そうなんだよ」

「娘さんが……?」

「詳しい説明は後だ。今はここを頼む!」

 そう言うと将嗣はすさまじい速さで街の中へと駆けていった。土門の中には疑問が残る。しかし、思った以上に護界局の重鎮の登場は彼女に安心感を与えたらしい。再び、強気の笑みを浮かべてつぶやく。

「あとで、ちゃんと事情を教えてもらいますからね……!」

 土門は金棒を構えて敵陣に切り込んでいった。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


次回は5月21日18時投稿予定です。

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