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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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72話

 透は、ゾンビの群れから逃れられるように術を放っていた。

「玄武の鳴動。我が敵を見極め、阻害せよ。陰ノ四【繁茂する悪魔のトラップセサミパーティ】!」

「お前、その歳で四階位の術が使えるのか!」

「ただの足止めです! 中はゾンビだらけになっているでしょう! あなたの自慢のロボットが倒してくれるはずです! 俺たちは窓から外に!」

「そ、そうよね! 私のロボットは優秀だから!」

 透は手近に襲ってきたゾンビを錫杖で打ち倒しながら、姫を窓の方に誘導した。先ほど突如として現れたこのゾンビたちの面倒な所は、場所も何も関係なく、室内に平等に出現する所だ。つまり、姫のいた部屋にも何体かのゾンビが出現しているのである。そのため、透は姫を庇いながら、室内のゾンビを倒して窓に向かう必要があった。

「おっらぁ!」

 錫杖を力任せに振るいながら、時々【界壁】や【刺線条(しせんじょう)】のような詠唱の短い単発の術を使って、動ける場所を確保していく。部屋にひしめき合っていたゾンビは、そこまで戦闘力が高いわけでもない。なぎ倒すのに苦労はしなかったが、耐久力が高いのか、かなり痛めつけないと起き上がってくる固体も多かった。ただでさえ、広くない部屋だ。窓にたどり着くまでに障害となるゾンビが多く、守る者もいて、そこまで上手く進めないという状況だった。

「チッ、邪魔過ぎる! 強くはないが、俺の術との相性が悪い!」

 思わず透がそう叫んでしまったのも無理はないだろう。透の術は植物や自然物を使った術が主だ。そういった術の構成では、属性を付与した所で、敵を消し炭にしたり、押し流したりすることはできない。

「こいつらの性質的に、多分ちょっと刺したり殴ったりしたくらいじゃ起き上がってくるね。俺様の兵器の方が有効かもしれない!」

「はい?」

 姫がいきなりそのように叫びだす。透は驚いて姫の方を振り返った。姫はサムズアップをしながら加えて言う。

「そこの机のとこ! そこまで行って!」

「え、あ、はい!」

 透はその指示を反射的に聞いて【界壁】と【刺線条(しせんじょう)】を張り巡らせる。壁と障害物を作ることだけは透の専売特許のようなものである。即席でできた道を通って、透と姫はガラクタが山積みになっている机にたどり着いた。姫は、そのガラクタの山をかき分けながら、あれでもない、これでもないとつぶやいている。

「姫! そんなに長いこと待てませんからね! 窓の方、結構敵多いので早く殲滅しないと!」

「わかってる! というか、俺様のことを姫、姫って呼んでんじゃねえ! 俺様には、氷乃華(ひのか)って名前があんだよ!」

「え、あ、はい!」

「どいてろ!」

「え!?」

 姫あらため氷乃華が、唐突に透を押しのけて武器を構えた。それは、バカみたいにいかつい銀色の筒だった。バズーカ砲とでも形容されるものだろうか。透には現代兵器の知識がなかったのでよくわからなかったが、それが何かを発射するための装置であることは確実に理解できた。そして、振り向いた己の顔の方にその砲口が向いていることも。

 透は咄嗟に頭を下げた。姿勢を低くして、顔だけで上をうかがったときに、頭の上の熱量が急激に高まったことを感じた。嫌な予感がして、透は瞬時に耳をふさいだ。

 キュインという甲高い音がした後、爆発的な熱を全身が感知する。ドォンという音がしたときには、目の前で透の術に足止めされていたゾンビの多くが、吹き飛び、炎上していた。透は、その様子を目の当たりにして、氷乃華にいう。

「ちょ、今のは?」

「ああ、これは遊びで作った高熱衝撃型バズーカ砲だ。電気を熱に変換して、最初の衝撃を当て、その衝撃にのせた小型の燃焼弾を敵中の可燃物に放り込んで、燃えるものは燃やし尽くしてしまおうという作品だよ」

「す、すごいですね」」

 ひきつった笑みを浮かべつつ、透は体勢を整えた。キュインという音が背後から聞こえ続けている。恐らく、兵器にエネルギーをチャージしている音だろう。その証拠に、氷乃華が兵器を脇に携え、息を吐きつつ言った。

「ただねー、なんとも燃費が悪くてしょうがねえのよ。どうにか使えるようにした所で、数十分に一発が限界。これからまたチャージ期間を経て、もう一発。そんな燃費が悪い機械でも、今回は役に立ったな。奴ら、燃やされたり、ばらばらにされたりするのに弱そうだったもんね」

「そ、そうですね。代わりに俺の頭が吹き飛ばされそうだったわけですけど」

「バカ言うなよ。本気で防御の術を使ったら簡単に防げちゃうんだろ? 俺様はそれくらい知ってんだ。あのゾンビどもが倒せたのは、そういう知能もねえモンスターだからだ」

 氷乃華はそう言って笑った。透は、研究の成果もさることながら、周囲をかなり正確に把握していることに驚いた。あまりに観察することに慣れている。これまで会ってきた姫たちがそこまで実戦になれているという感じではなかったのに比べて、氷乃華は実戦の場に慣れている印象を感じるのである。

「もしかして、姫、いや、氷乃華姫は、ちゃんと深雪様に指導を受けていたのでは……?」

「知らねえな。いいんだよ。そんなことは。とにかく、道は大体つくれたわけだ。ここをさっさと抜け出そうじゃないか」

 氷乃華はこの話題に触れたくないという空気を出しながら、窓の方を指す。

 ゾンビが爆発四散した道を、氷乃華と透は走る。窓から飛び出して、日の光にさらされる。その瞬間、熱気がふたりの方へ吹き付けてくる。透は視界の端に、天高く火柱のようなものが上がるのをみた。

「あれは……!」

「見て!」

 氷乃華は透と反対の方向を指さす。それは、ふたりがまさに脱出してきたマンションだ。氾濫していたゾンビたちが、黒い煙のようになって蒸発するように消えていく。

「術者が術を解いたか……ということは、さっきの火柱……」

 透は緋山の戦闘が終わったことを悟り、自分もしっかりと氷乃華を安全な場所に連れていこうと考えた。これで任務は万事終了。ここでの目的は達成できたということになるはずだ。

 窓から飛び出した自分たちを蔦で巻きつけ、命綱の要領で安全に着地した。透の中では、この後、緋山、天海と合流し、将嗣の様子を見に帰るところまで想定していた。そう、透はまだ知らない。この後、重大な事実を突き付けられ、さらに忙しない戦いに巻き込まれていくことを。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


次回は5月15日18時に投稿予定です。

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