59話
“原初の結界”の封印解除を阻止する。その目標を共有した一同は、三方に分かれることとなった。
ひとつには、引き続き日本に侵入してくる敵性勢力の監視、排除である。こちらは、内戦が始まろうというのに横槍を入れられては堪らないということで、いつもより強化した勢力を揃えることになった。いつも通り、各種族の長は基本的にここに入る。ただし、近隣地域で内戦が発生した場合は、そこへ救援に行くらしい。族長以外の人員の筆頭は、コノハナサクヤヒメ、火青となり、土門啓をはじめとした4番隊、副隊長以下の他部隊も主にここに配属された。
続いて、まだ捕まっていない姫の確保に向かう部隊が2つ組織された。行き先は九州と東北である。九州には河童の姫が、東北には雪女の姫がいるという話だった。“原初の結界”があるのは九州であるということから、戦力は7対3程度で、九州の方に厚く分配された。
九州行き勢力の筆頭はマリアである。欧州のジェームズと飼い悪魔となったあーちゃんを連れて、基本的には独自で立ち回るらしい。なぜなら、この3人のメインミッションは、姫の確保よりも悪魔勢力の探索撃破だからである。では、姫の確保はというと、朱火と5番隊隊長の佐久間楓を中心とした結界術師が向かう。マリアが姫の確保に向かわずとも、朱火がいればまずミッションは成功するだろうという見通しである。
対する東北行き勢力は、1番隊隊長の天海流泉、2番隊隊長の緋山燕治と4番隊隊長の日下部将嗣である。少数ではあるが。隊長3人を導入することで確実に姫を確保する作戦である。しかし、このオーダーにマリアが茶々を入れた。
「東北の方に、透も連れて行ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだウチの愚息は一隊員なので……」
将嗣が慌てて否定する。透もその言葉に同調するように首を縦に振る。将嗣としては、ただでさえ危険に巻き込まれている透をこれ以上巻き込みたくなかったし、透としても隊長3人と同行するのは緊張感がありそうで嫌だった。だが、そんな2人の考えを全く気にしない様子で言い放つ。
「いや、透は私との間にパスがあるから、何かあったときに私が飛んでいくための目印になるの。実力云々とか階級とか関係ないの。悪いけど決定事項よ」
「僕はいいと思いますよ。実力もかなりあるでしょう。日下部隊長は、わかってるはずですよ。彼は若いが、優秀だ」
「天海くん、なんでそんな……」
思わぬ援護射撃をした天海に向かって、将嗣は困惑の表情を向ける。天海は笑って言った。
「見たからですよ。彼の術を。僕の魔眼があれば、術者の練度くらいわかります」
「透の術を……」
「天海隊長がそう言うなんて珍しいなあ。期待しちまうじゃないの」
天海の言葉に緋山も同調する。緋山はそもそも2番隊に所属し、結界内の治安維持に務めているため、他の隊の隊員で顔を合わせる者は少ない。特に結界外部の警戒をする3番隊は副隊長クラスにならないとわからないレベルであった。それに、天海の後輩である緋山は、天海が冗談を言わないことを知っていた。それ故に、透に期待をしてしまう。
対する将嗣は困っていた。将嗣は自分の息子がかなり実力を付けてきていることは知っていたが、まだちゃんと独り立ちしていない息子に、より命を危険に晒すポジションを任せたくなかったのである。故に、実力者である彼が直々に育てた秘蔵っ子として、隊内から情報が漏れないようにもしていたのだが。
「実際、期待してしかるべきでしょうそもそも、隊長格の御子息ですからね。まあ、義理の親子とはいえ、実の息子が人類圏に出ていくことになったときも、過剰とも取れるようなトレーニングを積ませていた日下部隊長が、自分の部隊の息子を鍛えていないはずがないですよね?」
「ぐ……」
「義父さん?」
透もそれは初耳だった。確かに記憶にある義兄の姿は、鍛錬に打ち込んでいるものばかりだったが、寝ている妹以外はそれが普通の家だったから気づかなかった。正直、ちゃんと戦っても、義兄はかなり強いと思っている透だが、その理由が義父による謎の愛によるものだとは知らなかった。
その様子を見て、天海が更に笑みを深くする。
「おや、日下部隊長の子煩悩ぶりは、御子息には伝わっていないようですよ。まあ、渦中の人間からは見えにくいものってありますよね」
「天海くん……」
「そうだね。私がそもそも日下部きょうだいを保護したんだ。預ける相手を慎重に選んだけど、決め手はその愛の深さよ。そこの長兄にもすごく愛を注いでいたけれど、その辺の子どもにも愛を注いじゃうし、挙句の果てには、犯罪者にも同情しちゃう程のお人よしですもの」
「マリア様までその話を……」
「あはは、隊長格の中では一番の古株なのに、腰が低いというか、マリア様に言われたら僕だってうろたえると思いますけど……ここまで言われているのに拒否することはないですよね?」
「ぐ……」
「まあ、最初から拒否権はないからね。でも、千晶に危険が迫ったら、私が守るから、代わりに将嗣は透を守ってくれよ」
「は、はい……」
丸め込まれた将嗣の様子に、透は思わず笑いをこらえる。家でも義母や妹には弱かったが、職場の人間にもこんなに押されているのかと思うとなんだか面白かったのである。普段は尊敬されているのだろうが、同時に親しみやすいのだと思うと、少し誇らしいような気持ちにもなった。
「では、決まりね。東北行きはその4人で。こうすれば、私は基本的にどこにでも様子を見に行けるはず。どうにかなるでしょう」
マリアの言葉に、白天が答える。
「そうね。姫の保護は急務だけど、姫側にはなんの落ち度もないわ。だから、怖がらせないようにだけお願いね」
「承知しております」
白天の言葉に天海が優雅に礼をした。
「では、各自行動開始よ」
その言葉を合図に、それぞれが動き出した。透は、瞬く間に隊長たちに囲まれ、まずは将嗣に頭を掴まれる。
「透、お前、途中で俺のことを見捨てただろ」
「そんなこと言ったって、あれは無理だったでしょ」
「そうかもしれないが!」
「まあまあ、そんな騒がずとも。彼の実力は高い。そして伸びている最中です。相当なことがない限り、命を落とすようなことはないでしょう」
天海にそう言われると、透も少し照れ臭い。しかし、それ以上に頑張らねばならないという気持ちが強く湧いてくる。複雑な表情を浮かべる将嗣をおいて、隊長ふたりの話は進む。
「天海隊長にそこまで言わせるその実力、見せてもらえる機会があればいいけどな」
「今回の任務は平和な方が都合がいいものですからね。あまり戦いの場が多くても困ってしまうのですけどね」
「それもそうか。だが、奴らも同じ姫様を狙ってるわけだ。やり合うときは必ずある。俺はしっかりと暴れてやるよ。日ごろ事務仕事ばっかりだからな」
「結界内が平和なことに越したことはないでしょうに」
透はあまり話したことのなかった緋山がかなり積極的に戦いに身を投じるタイプの人間だと知って、意外な気持ちがした。2番隊は、結界内の警察的な組織であるため、積極的に戦うことを基本的にしない組織なのだ。
「緋山隊長は、ずっと2番隊じゃないんですか?」
「ああ、俺は元々3番隊と1番隊にいたんだよ。身体を動かすのが好きでな。隊長は正直、隊員のときよりも退屈なんだよ」
初めて戦うことを身体を動かすと表現する人間に出会い、透は若干困惑したが、緋山がしっかりと鍛えられた肉体をもっているのは、服の上からでもわかった。透自身、肉体的な鍛錬がまだ足りないと自覚しているので、その筋肉をうらやましく思う。
そんなやり取りをしているところに、人影が寄ってくる。
「ちょっと。あなたたちね。私の身内の姫を確保しようという人たちは」
「これはこれは、雪女の長、深雪様」
「どうも。正直に言うと、血縁ではあるけれど、かなり遠いし、私のこともよく知らないはずなの。だから、力にはなれないとおもうけれど、とりあえずついていくことにするわね。案内くらいはできるから」
「ありがとうございます」
天海は、彼女に対して失礼がないように丁寧に受け答えをしつつ、内心で彼女がなぜか落ち着きのない様子でいることが気になってしまった。
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次回は4月6日18時投稿予定です。




