58話
多分、今回から新章です……。
「お前たちは、なぜ私たち悪魔がこちらの次元に来るのにこんなに手間取るのか知っているか?」
「何回も聞きましたよ。マリア・ブラッドとかいう悪魔狩りのせいでしょう?」
「それもそうだが、そもそもこの次元は安定しすぎている。エネルギーが足りないのだ。次元のひずみを生み出せるようなエネルギーが」
「そりゃ文明が発展したから、各国が膨大なエネルギーになりえるものは利用不可能にしたって話、前にもしてましたよね?」
「ええい、口を挟むんじゃない。私が話したいから話すのだ」
苛立った様子の男は白髪をオールバックにして、眼鏡をかけている。ローブを纏った姿はまさに魔術師といった様だが、見る者が見れば、そのオーラがただものではないことはわかる。彼の本性は、王位をもつ悪魔の頂点の一角。名をバラムという大悪魔のひとりである。
彼の周りでつき従っている者が2人。彼らはトカゲのような尻尾を生やしたり、蛾のような触角が生えたりしているが、ほぼ完全な人間のかたちをしている。それはつまり悪魔としての実力が高いということであり、バラムの側近であることは一目でわかる。しかし、バラムに対してまともに応答しているのは、トカゲの方だけで、蛾の方は器用にも立ったまま居眠りをしている。
「それにしても、日本なんてマイナーな国をよく知ってましたね」
「私は策謀の悪魔だぞ。前回マリアにこちらの次元から追い出されてから、この次元の出来事については一通り情報収集をしているのだ」
「なんでしたっけ。以前召喚された悪魔が狸のとこの奴だったんでしたっけ?」
「そうだ。500年ほど前のことらしいがな。重要な情報をもっている召喚主にあたっていたようで、こちらとしても運が良かった。まさか、こんな島国にエネルギー兵器が眠っているとは」
バラムはそういって、目の前の机に地図を広げた。九州の地図だ。ある地点に印がつけられており、バラムはそこを改めて指でトントンと叩く。
「しかし、これが厄介だ。“原初の結界”。ありえない強度だ。この次元の者に、これだけの実力があろうとは想像していなかった」
「というか、その強度だから見つけられなかったってことですよね」
「うるさい。私は千里眼のようなものをもっているわけではないのだ。全部見通せたらもっとスムーズに作戦が進んでいるのだ」
「そんな言い訳が重なるから、王の中でもなめられるんですよ」
「ああん? お前、私のことをバカにしたか?」
「別に、そういうわけじゃありませんけど。ってか、結界解くのに必要な姫ってのは揃ったんですか?」
トカゲの悪魔は、露骨に話を逸らした。バラムも日常茶飯事だというように、トカゲの悪魔の失礼を受け流して答える。
「まだだ。九州にいるっていう河童の姫なら、割と簡単にいけそうなんだが、問題は雪女の方だな。あっちは居場所もちゃんと掴めていない。情報を集めようにも、こちらの次元で我々が直接情報を集めるのは難易度が高いからな」
「あー、そうですね。完全人化は難易度高いんですよ。魔力、抑えないといけないじゃないですか。出力下がるの嫌なんで化けたくないんですよ」
「そうやって変な好き嫌いを発揮するバカが多いから、実力があっても人化が下手な奴が多いのだ。ラディ、お前なら完全人化もわけないだろう」
「だから、嫌なんですって、全力が出せなくなる形態になるの。完全人化で全力出せるとか、化け物ですからね」
「私たちは皆、この次元の者からすれば化け物だろうよ。しかし、突発的な戦闘なぞ、そうは起こらないだろうに、お前のその用心深さというか、性格はどうにかならんのか」
「だって、こういうことがあるんですもん」
そう言って、ラディは手のひらからトゲのようなものを射出した。それは、彼らがいた部屋の入り口のドアに突き刺さる。30センチほどの長さのトゲが、扉を貫通して、反対側にまで飛び出ている状態である。その攻撃を受けて、扉の向こうから黒いローブの男が両手を上にあげて観念したように出てくる。
「相変わらず勘が鋭いね」
「召喚主といえど、お前は胡散臭いからな。警戒するに越したことはない」
「ラディ、お前はこの男を警戒しているのか? 心配することはない。こやつは、私との契約の関係もあって、絶対に裏切れないからな」
「俺はまだその話を信じ切れていないんですけどね」
「まあまあ、君は間接的に僕の部下なんだから、素直に言うこと聞いてくれよ」
黒のローブの男は、表情が見えないにも関わらず、軽薄そうな笑みを浮かべているのが伝わってくる。ラディは、いまだに納得いかないという顔で、ローブの男を静かに睨みつけている。バラムは、それを見て、軽くため息を吐いた。
「まったく、こちらは人員が少ないのだから、連携せねばならんと言うのに。ただでさえ、ディムがやられて、機動力が激減しているんだ。これについては、お前にも責任があるのだが、そのあたり、わかっているのだろうな?」
バラムがそう言いながら、ローブの男を指さす。対するローブの男は、手をひらひらとさせて言った。
「いやあ、最善を尽くしたと思うけどね。単純戦闘力を見誤っていた節はあるけど、僕がやられて君たち全員が異次元に引き戻されるよりマシでしょう? 僕だって、日本のナンバー2ぐらいの実力者と戦って死なずに帰ってきたんだから上等でしょ」
「悪びれないな、お前は。だがしかし、否定できない部分もある。とりあえず、今度は派手な行動にならないように、どうにか姫を集めるのだ」
「はいはい。まあ、そっちは狸が動くから、僕にできるのは姫をちゃんと攫えるようにサポートするくらいだね。どうにか、動いてみようとは思うけど」
黒のローブの男は、ついにへらへらとした様子を崩さずに、部屋を出ていった。それを見て、ラディは舌打ちをする。
「まあ、そうカッカするな。結局のところ、私たちは互いに協力しなければならないのだから。とりあえず、作戦完遂までは穏便にな」
「はあ……わかりましたよ。とりあえずは、協力姿勢を、ですね」
ラディはそう言ったあとに押し黙る。蛾の悪魔の触角が、微かに震える。
「バカみたいに感情だけで動くのは感心しないよ。ヒエラは、感情に任せて動きすぎているから、あの男の近くを離れないし、負けず嫌いで自分が強いという思い込みの強かったディムは負けた。君まで感情的になって負けたら、バカらしくてやってられないね」
「うるさい。ずっと眠っとけ」
「そうはいかないよ。僕は勝ち馬に乗る主義なんだ。勝てなくなりそうな馬をどうにか走らせようとするのは当然じゃないか」
「勝てなくなったら見捨てるという宣言か?」
「さあ、そんなこと言わないけどね」
ラディはさらに苛立ちを覚えたように、そっぽを向く。剣呑な雰囲気も漂う部屋で悪魔たちの策謀は続く。だが、この空気が日常だというように、彼らは何も気にした様子はない。そもそもが弱肉強食、限界まで己を高めるという世界の住人たちである。空気を察するということは彼らの常識にはない行動なのだろう。彼らが一緒にいるということは利害関係が一致しているということなのだと、強く印象付けられる状況である。
扉の外から未だそれを聞いていた男は、内心でニヒルな笑みを浮かべ、今度こそ本当に部屋を去った。
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次回は4月3日18時投稿予定です。




