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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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53話

 珠姫は、朱火からの指導にうんざりしてきた。妖力を操るのも初心者だから、【祈り】とやらまで時間がかかるのは、仕方がない。そのために学ぶことがあるのも頭ではわかっていた。しかし、文系完全インドア派の珠姫には、「疲れてからもう一度」という、運動部のような練習方法は性に合わなかったのだ。

「姫様、妖力の扱いが稚拙なのは仕方がないですが、些か集中が途切れていませんか?」

「だって! もう日も暮れたのに終わらないんだもん!」

「珠姫さん、大学生だと聞いていたけど、最近の大学生は「だもん」とか言ったりするの?」

「いいじゃない! だもんって言いたかったんだもん!」

 朱火の説教に、奏の質問。このようなやりとりが何度か繰り返された結果、珠姫は見事に精神が幼くなっていた。

 根源的な部分が強まったとでも言うのだろうか。珠姫の感情は珠姫が自覚するよりも豊かになり、素直に表現されるようになっていた。このことを呟くように言った時、朱火は、妖力との親和性が高まった結果、妖類の遺伝子が活性化され、本当の自分が曝け出されたのだと説明した。

 珠姫としては、本当の自分とやらがこんなに駄々っ子で幼い人間だとは認めたくなかった。しかし、事実として、妖力のコントロールが上達し、呪いにより流れ込んでくる妖力まで、補助具なしで扱えるようになっている。朱火の言が正しいなら、それは珠姫がそういう人間であることの証明であり、3人の中で誰よりも絵に描いたようなわがまま姫であることに恥じらいを覚えるのだった。

「しかし、そうですね。姫様の言うことも一理あります。【祈り】の基礎は大体修得できてきたようですし、この辺りで今日は切り上げますか」

「やった!」

「お子ちゃまねえ」

「うるさい!」

 奏は数時間過ごしただけで珠姫たちとの距離を詰めてきた。しかし、その馴れ馴れしいとも感じられる距離感が心地よいと感じている珠姫もおり、珠姫は心中がぐちゃぐちゃになった。結局、修行中は本能に忠実になり、今のわがまま姫の有様である。

「私の心を癒してくれるのは揚羽ちゃんだけだよー」

「あはは、本当にちょっと幼くなっちゃったみたいですね」

 珠姫は揚羽に勢いよく抱き着き、揚羽に頭を撫でられている。どちらが年上だかわかったものではない。だが、本能を開放していると自身に言い聞かせている珠姫にはそんなことは関係ない。ある種の無敵モードとも呼ぶべきメンタルになっていた。しかも、揚羽は珠姫のことを拒むことなく受け止めてしまうので、珠姫のわがままぶりが加速していた。

「姫様、揚羽姫にご迷惑をおかけするのもどうかと思いますよ」

「だって、朱火が自分をさらけ出せとか言うから。揚羽ちゃんの優しさのおかげでここまで自分をさらけ出せているといっても過言じゃないのに」

「はあ、全く……はじめて会った時の方が利発そうに見えましたよ? 日下部隊員に今の姿を見られてもいいんですか?」

「あー、それは、若干、なんというか、恥ずかしいかもしれないけど……まあ、これで終わりなんでしょ? 一日の終わりくらいちょっとゆっくりさせてよ」

 朱火は、珠姫の振る舞いに何度目かわからないため息をついた。

 【祈り】という術は少々特殊で、姫と呼ばれる存在が心から願うことで清浄な力を生み出し、その力で周囲の現象に干渉するという仕組みである。そのこともあり、妖力と心の関係を解説し、心をさらけ出すようにアドバイスをしたまでは正解だったと思っている。しかし、どこで間違えたのか、珠姫はこれまでに類を見ないほど奔放になってしまった。揚羽は珠姫への親愛の気持ちが強いからか、そうなった珠姫を受け止めてしまう。奏は、初対面にも関わらず、人との関係をつくるのが上手く、珠姫との心地よい距離感を見つけてしまったらしい。女三人集まれば姦しいと言うが、実際に目にするとどうしようもないなと朱火は、半分あきらめの表情を浮かべた。

 だが、伝えるべきことは伝えなければならない。朱火は、そう思い直し、改めて口を開く。

「それは問題ないのですが、【祈り】の修行は皆さん常に行うことができます。自分をさらけ出すことにためらいをなくすのは、悪いこととは言い切れないのですが、強い思いを何かに捧げるということが何より大事なので、願いに力を集中させるということが……」

「あー、はいはい、わかったって。それより、今日の宿にいこうよ。クタクタだよー」

 朱火の努力もむなしく、珠姫に発言を流されつつ、一行は今日の宿に向かった。このメンバーだと、一番無知な珠姫が中心人物であり、全体の流れを左右してしまうことがこのような事態を引き起こす原因であると朱火は考える。

(まあ、ですが、カリスマ性があると考えれば悪いことばかりではないのでしょうが)

 朱火は三人に着いていきながらそんなことを考えていた。だが、その思考の隙間に、気色の悪い気配が入り込んでくる。

「皆さん、少し警戒してください」

「ん? どうしたの?」

「何か、おかしな気配がしたもので」

 朱火が珠姫に答えると、予想だにしない方向から聞きなれぬ声が響いた。

「ほう、この状態で気づかれるとは思ってなかったな」

「誰!?」

 奏が叫んだ時には、既に何者かの気配があることを朱火は感じ取っていた。三人の姫を逃がすために咄嗟に術を展開しようとする。

「おっと、残念。もう仕事は済んだ」

「なっ!?」

 朱火の術が、発動する前に、朱火の目の前から三人の姿がかき消える。

「姫様方! この術は、こちらの世界のものではない……?」

「素晴らしい洞察力だ。こちらが、転移を前提に準備をしてこなければ失敗していたね。やはり、用心を重ねて正解だったというわけだ」

 そこまで言うと、朱火の目の前に黒づくめの三人が現れた。全員から妖類とも人類とも違う気配を感じて、朱火は警戒心を高める。

「仕事という言い回しや、転移という言葉から、恐らく姫様を害するということはないのでしょうが……あなたたちは、何者です?」

「いや、僕たちのことなんてなんとなく察しはついてるんでしょう? そして、僕たちがあなたのことを調べてきていることもわかっている。違いますか?」

「やはり、そうですか。悪魔、ですね?」

「そう。さすが、東京の二番手。では、これも、覚悟の上でしょう?」

 そう言って、ずっと話をしている黒づくめの一人が、右横の者に合図をする。すると、その存在が黒いもやのようになり、そこから人影を三つ吐き出した。

 朱火には即座にわかるほど見知った顔が、そこにはあった。

「高野隊員……!」

「そう、それと、ヨーロッパの使節団の連中。我々の計画の邪魔だったので、始末しておきました。これを、こうして……」

 話している男は、無詠唱で術を使った。それは禍々しい黒い炎のようなもので、三つの遺体を飲み込んで炎上し、灰となった。

「さ、これで、あなたへの宣戦布告は済んだでしょう?」

「やはり、戦うつもりで?」

「ええ、消しておければ、今後の動きが楽になるので」

 軽薄に笑って言うその黒づくめに、朱火は静かに怒りを燃やしつつ、臨戦態勢をとった。

「後悔しても、知りませんよ?」

「それは、お互い様だ」

 黒づくめが答えたその言葉が、戦闘開始の合図だった。


評価等していただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


次回は3月18日18時投稿予定です。

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