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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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51話

「ディムとかいう悪魔をぶっ飛ばしてここまできたら、こっちもなんだか厄介なことになってるね」

 そう言ってくすくすと笑うマリアは、場に全くそぐわないが、透としてはとても心強かった。守ってくれるという言い方には、多少ムカつきを覚えたが、実力的に守られる側であるのは事実であるため、そこまで反発する気も湧かない。

「すまん。俺じゃ、まだ、かなわなかった」

「いいのいいの。善戦したほうじゃないかな。実際、あっちのおっさんのほうが大変そうだからさ」

 マリアの言葉に、透は驚いた。彼ほどの実力者がどうやったら苦戦することになるのか。透の疲れた頭ではうまく想像もできなかった。透の目の前にいた悪魔を一撃で消し去ったマリアからすれば、些細な違いでしかないのだろうけれど、それでも透は受け止めがたかった。

「ここからでは、戦闘の様子もよく見えないだろうから、近くに行こうか。大丈夫。きっと透の想像するような最悪なことにはならないよ。私がいるからね」

 ウインクをしてみせたマリアに、透は一瞬見とれてしまう。だが、そんなことを自覚する前に、マリアが透の体をつかんだ。

 半ば慣れ始めてしまった強制転移の術をもって、透とマリアの姿が光とともにその場からかき消える。透がもう何度目かのその感覚に包まれて、目を開いた時には、景色は一変していた。

「ここ、森、だったよな……」

「そうね。森だったわね」

「本当か? 荒れ地にしかみえないけどな」

 そう言った透の目には、信じがたい光景が広がっている。深い森だったあたり一帯が、むき出しの地面と岩石だらけの荒れ地に変わっている。地面に生えていたと思われる木々はなぎ倒され、あちこちに散らばっている。ところどころの地面は、何かに熱されたように蒸気を発している。岩石はもともとそこにないはずだったものが、いきなり現れて、地面に突き刺さったようだった。局地的に刺さった岩石の小山は、とても人間がつくったようには見えない。術の結果だとしても、ここまでの威力の攻撃が何度も繰り返されて、戦闘が終わっていないなんて正気ではない。

「これで、まだ、戦いが終わってないのか?」

「そうだね。やっぱり、あの悪魔、潜在的な能力値が桁違いだったみたいだね」

 マリアがそのようにつぶやいたのとタイミングを合わせるように、ジェームズが姿をあらわした。しかし、それは華麗に登場したというよりも、何かに吹き飛ばされてきたという様子だった。両手両足が前になり、くの字に折れ曲がった体は、ほとんど確実に、何かの攻撃を受けたことを示していた。

 そんなジェームズを見たマリアが透に言う。

「ほら、透、受け止めろ。戦闘はちゃんと解析眼を通して見ておけよ?」

「いや、ちょ」

 マリアは透の返事を待たず透を放った。透は自身のよろめく体で、飛んでくる筋骨隆々のジェームズを受け止めるのは不可能だと判断し、とっさに術を使う。

「玄武の鳴動。広がれ。敷き詰めろ。包み込め。陽ノ四【綿毛絨毯コットンウールカーペット】!」

 透の発動した術は、術の起点から綿毛が爆発的に広がり、1メートル程度の絨毯になった。マットレスのように広がった術の効果が、飛んでくるジェームズの体をどうにか受け止める。大きく重い体は綿毛に埋もれながらも、衝撃を吸収しきるには足りなかったようだ。鈍い音があたりに響く。綿毛が飛び散る中で、うめき声がした。

「よかった、生きてる」

「そいつは重畳。ほら、来るぞ」

 透はマリアの声を聞いた直後、自身の目の前に迫っていたものの正体を認識することができなかった。目の前に迫っていたのは槍の穂先。透がそれを認識できたのは、マリアに改めて声をかけられたからだった。

「この速度で槍を突き出してくるとは、とんでもないレベルだねえ。ディムとかいう悪魔よりも強いんじゃないかな」

「強大な魔力反応を感知。潜在的脅威度最高値と判断。最速で排除を試みます」

「しかし、その割には自我が全然ないねえ」

 マリアは透の目の前に繰り出された槍を片手でつかみながら、首をかしげるようにいった。自我という言葉を聞いて、透はとっさに情報をマリアに伝えた。

「そういえば、こっちに来るときに自我が抑え込まれたとかなんとか、さっきの悪魔が言ってた気がする!」

「ほう。それは面白い」

「戦闘開始」

 透が槍の向こうに、少女のような姿の悪魔を認めたのは、その瞬間だった。つぶやきが彼女の口から漏れた瞬間に、彼女の動きが全く見えなくなった。マリアは「ホッ」と短い掛け声を発して、少女の突き出したこぶしを受け止める。

「強いな。しかし、戦い方が洗練されているわりに、魔力のノリが悪い。なにかに阻害されているのか?」

「想定外の物理的強度を確認。魔法戦に移行する」

「ふむ。魔法や魔力という概念の中で動いているということは欧州出身の悪魔であることに亜変わりはないはずなんだが、私の記憶にはないな。大体、女性型の悪魔はもっと官能的な成人女性を模した者が多いはずなのだが」

「本機体への侮辱行為を確認。魔法による殲滅作戦を開始」

「馬鹿にされていることはわかるのに、感情もうまく発露できないとは、よほど面倒な呪いにかけられているらしいな」

「【魔炎龍槍《volcanic lance》】」

 華奢な少女がマリアからパッと離れて、高火力の魔術を放った。この魔術がこのあたりを荒れ地に変えた一因であることは疑いようもなかった。透の解析眼では、詳細はわからなかったが、エネルギーの大きさから、結界術の階位としては六位以上のものだと考えられる。正直、これだけで、環境が激変するほどの術である。透には、全く受け止められるものではない。

 しかし、マリアは涼しい顔をして指をふるった。

「強いが、しかし、本領は発揮できていない感じがするな。中途半端な火力だ。【|血の棺《bloody coffin》】」

 マリアがふるった指先から、赤黒い何かがほとばしる。迫りくる炎の槍が、それによって包まれ、棺の形をつくる。完全に勢いを抑え込まれた炎の槍は、マリアに届く前に血の棺桶となり、地面に落ちた。

 少女の顔が、驚愕に彩られる。

「そんな。どうして。魔法が打ち消された?」

「ふむ。それだけ驚くところを見ると、これが一番強い魔法だったか。しかし、潜在能力的には、もっと強い魔法が使えるはず……どれ、みてやるか」

 マリアは少し、逡巡すると、魔眼を発動した。透は解析眼を通して、その様子がありありとわかった。透と違って、両目に力が宿っているのがわかる。

「ほう?」

 マリアは若干の驚きをもって、自身の目に映った術式の束を確認した。透は不思議そうな顔をしてその様子を見守った。気絶して綿毛の上で荒い息をしているジェームズは別にしても、対する悪魔の少女までじっと見つめているのはどうなのだろうか。先ほどの衝撃から立ち直れないのかとも思うほどの棒立ちである。場は、完全にマリアが掌握していた。

「面白い。これはちょっと、やってみる価値があるようだ。透、よく見ておけ。これが、お前の目指す術の片鱗だ」

「何を」

 マリアの言葉の意味が分からず、透の頭はまた止まる。しかし、不敵な笑みを浮かべたマリアの行動は止まらない。何やら術を編み始めた。

「なるほどなるほど。ほどけよ、ほぐれろ。ほれほれ。よっ、と。お、核が見えてきた。なるほど。呪いが複数……面倒だが、いくつか一気に解くとしようか。【|古式魔法・闇《ancient spell・dark》:解呪(de:spell)】」

 解析眼がとらえたのは、赤黒い魔力の奔流と、いくつかの見たこともない術式。宙を舞うそれらは、悪魔の少女を取り囲むように展開したかと思うと、彼女の体内に入っていった。驚くほど強いエネルギーの流れにもかかわらず、なんの抵抗もなく、それらの術式は彼女の体内に吸い込まれていった。悪魔の少女のほうも全く抵抗をしない。

「これが、呪いを解くというやつだ」

「これが……」

 マリアの言葉に思わず透のつぶやきが漏れる。それは、透が長年求めているものだ。解呪の方法。マリアの魔力との相性により、千晶の解呪はできないと言っていたが、今回は相性がよかったということだろうか。透がそんなことを考えているうちに、術式がすべて、悪魔の少女の中に取り込まれていった。

 直後、放心状態のように上を向いていた彼女の口から、マリアが放ったのとはまた質の違う黒いエネルギーが放出された。天まで昇るそのエネルギーの流れは、数秒そのまま放出されると、雲散霧消した。

「成功、したのか?」

 透がそのようにつぶやくと、しばらく術式とエネルギーの波の中にいた少女が、泣き声をあげだした。

「うわーん。おなかすいたよー。怖いよー。あのじじいきらいだよー」

 先ほどまでの平坦な口調はどこへやら。彼女は、見た目よりも幼い口調と表情で大声をあげて泣いていた。


評価等していただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


次回は、3月11日18時投稿予定です。

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