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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
49/93

48話

 悪魔と対峙したての透であれば、この判断はしなかったかもしれない。しかし、これまでの戦闘で、悪魔にも核のようなものがあるのはわかった。物理的にそれが破壊できそうなのも、なぜかわかる。恐らく、解析眼がそう告げている。

 未だ、使いこなせない透の魔眼は、そういうことを本能に訴えてくるのだ。いずれにせよ、物理的な戦闘によって悪魔の打倒がなし得ない訳ではなかった。だが、悪魔は純粋に強いということを透は思い知っていた。

「肉体変形できるの、ズルすぎるだろ!」

 目の前の異形は、近接戦闘の性能が飛び抜けていた。錫杖を振るい、両腕を防御に回させたとしても、次の瞬間には、別の部分から腕を生やして攻撃してくる。もはや隠しもしなくなった核と思しき部分が明滅して、即座に身体が変わるのだ。胴体とは思えぬほど細くなった身体の中央から縦横無尽に腕の攻撃が放たれる。透がかろうじて対応できているのは、解析眼で力の流れがわかり、攻撃の起点を一瞬先読みできるからだ。

 マリアに予め鍛えてもらわなければ、どうなっていたかと考えるとゾッとするような展開である。

 こちらの攻撃が一点集中なのも恐らく問題なのだろうと、透は思っていた。いくら体に攻撃したところで変形されたら終わりだと考えれば、必然的に核を狙うことになる。ただ、それでは悪魔に攻撃の軌道が読まれてしまうのだ。ジリ貧でしかないと感じる攻防。

 そこに、蛇の異形による攻撃が飛来する。

「……!?」

 咄嗟に【界壁】を展開しようとするも間に合わず、左半身の一部に液状の攻撃を食らう。

「がぁぁあ!」

 焼けるような痛みに、一瞬身体がこわばる。その隙を逃さず、目の前の悪魔は腕を振るった。防御が間に合わず、透の身体は宙を舞う。

「ぐっ……!」

 地面に激突した透の頭は、一瞬だけ真っ白になる。しかし、警鐘を鳴らす本能が、半ば強引に透の意識を覚醒させた。咄嗟に防御の結界術を発動する。

「【界壁】!」

 ドンという音がかろうじて聞こえた。何かは防げたらしい。だが、安心はできない。透は続け様に術を放つ。

「【界壁】! 【界壁】! 【界壁】!」

 しばらく、基本中の基本である結界の壁をつくり続けた。時おり聞こえる衝撃音や、破砕音が、【界壁】が機能していることを教えてくれる。

 そのおかげか、少し余裕のできた透は、あたりを見直した。デタラメに放った【界壁】は、【界壁包囲】で放つよりも多くなっており、透から見て扇状に広がっていた。悪魔たちはその障害物の多さで足が鈍るらしい。

 なるほど、たしかに奴らの攻撃は、一撃が重いわけではない。高出力の範囲攻撃が来るわけでもないのだから、守りと足止めに徹すれば、時間を作れるわけだ。即座に【界壁】を破壊できる触手の異形を先に戦闘不能にしておいたのが功を奏した。

「とはいえ、守ってばかりじゃ勝てない。破壊されないってわけでもないから、貼り直さないとだし……」

 ブツブツと考えごとをしながら、痛みに耐え、上手く悪魔たちの動きを阻害するように壁を作り直す。

「まるで、アイツらを倒すためだけの空間を作ってるみたいだ」

 しんどさと面倒くささから、そんな言葉が失笑とともに漏れる。その時、自らの言葉を耳で聞いて、透の脳内に閃光が走った。

「つくればいいのか!」

 透は、自分の閃きに不思議な高揚感を覚えた。脳内にほとばしるアドレナリンで、痛みが鈍るような感覚に陥る。勢いそのままに、透は単発の術を、思い描く通りに大量に放った。

 【界壁】。【界壁】。【刺線条(しせんじょう)】。また【界壁】。

 小さな術は、所々破られながらも、しかし確実に悪魔たちの動きを制限していった。そして、2体の悪魔がほとんど身動きの取れない空間に、閉じ込められた時、透の思い描いていた状況はほとんど完成した。

「どうだよ……茨と壁の簡易地形結界だ。簡易だから、特別すごい術にはならないが、今は最適の方法だろ?」

 悪魔たちに破られる端から、術を発動し直しながらも、透はそう言ってうそぶいた。

 簡易地形結界というのは本来、地形を変動させるほどの術を発動し、その土地に対象を閉じ込めたり、結界内の味方に力を与えたりするものである。驚くほど緻密で妖力を使う術であり、簡易地形結界はどれも術の階位としては六を超える。結界術が定義する術の最高位が九であることを考えると、とんでもなくレベルの高い術である。

 当然のことながら、透は簡易地形結界の術を使うことはできない。本来の簡易地形結界であれば、術者が術を構成する要素を今のように修復する必要もないのだ。自動修復されるのだ。地形を変えるとは在り方を変えること。尤も、「簡易」であるが故に修復すら許さず打ち壊すことも可能だが。

 ただ、何がどうあれ、透の思惑が成功し、対峙していた2体の敵を一網打尽にして、追い詰めることには成功したわけである。あとは、変形する異形の核を壊し、蛇の異形をなんらかの方法で、戦闘不能にするだけだ。

「なに、考える時間はあるはずだ。まずは、変形する悪魔を……って、何してやがる!?」

 透の眼が驚愕で見開かれる。とどめの術を悪魔にくれてやろうと目をやった瞬間、蛇の異形が、変形する異形を覆い尽くしたのだ。飲み込んだというのではない。覆い尽くした。

 蛇の大群が、異形に襲いかかったかと思うと、蛇たちの影から黒いもやのようなモノが出てきて、変形する異形の、青白い不健康そうな体を覆ってしまった。明らかに形は先ほどまでと同じ、変形する異形なのに、蛇だらけになっている。

 しばし、その光景に透の脳みそが止まる。だが、相手は待ってくれなかった。

「ふぅ……やっと、やっと自分の身体を手に入れた。自我が、自我がこちらの世界でも表出できるようになった! お前のおかげだ! 礼を言うぞ」

 異形が、喋っている。

 今まで一言も発しなかった異形が、明らかに意味のある言葉を話し始めて、透の頭は再び凍結しかける。しかし、話ができるとあれば、能力の秘密を探り、奴を打倒できるかもしれないという謎の思考が、透に一言話させた。

「お前は、誰なんだ?」

 ぺらぺらと異形が話すとは思えなかったが、まだ有利な状況に変わりない。蛇の異形の弱点がわからない以上、よくわからない敵の情報をとにかく集めたい。ただ、言葉の端々からわかるように、自己顕示欲が高いらしい異形は、想像以上にぺらぺらと話し始めた。

「誰。そうだな。誰と言えばいいんだろうな。俺は、悪魔として生まれ落ちてから、自分を高めることだけを考えてきた。だが、バラム様の召集で、人間の世界に来ることになったとき、次元の壁を越えるために、多くの能力を失った」

「次元の壁を越えると、能力を失うのか?」

「ああ、エネルギーの塊である俺たち悪魔には身体がないからな。魂がそのまま削れるんだよ。そうすると能力を維持できなくなる。受肉している高位の悪魔なら別だが、受肉は難しいからな。俺たちにはまだ無理だった」

「今は?」

「今も受肉はしてないさ。ただ、コイツのエネルギーを取り込んで、俺は能力の一部を取り戻した」

「エネルギーを取り込んだ? 何をしたんだ?」

 透がいぶかしむと、顔のない異形から笑った気配がした。

「俺の能力だよ。俺の能力は収縮と拡散。収縮は、この蛇を身に着けている状態で常に発動しているが、俺のコアに周囲の者を引き寄せる能力だ。拡散はさっきからやっている酸を吐く攻撃だ。俺の収縮範囲に、この悪魔がいたから収縮でコアに近づけた。コア同士で争って俺が勝った。エネルギーが増大して、この世界でもまともに思考ができるようになった。先ほどまでのプログラムされた単調な俺とは違ってな」

「プログラムされた?」

「そうだよ。自我がないってのは、弱い軍隊の使い捨て兵士みたいなもんなんだよ。本来の悪魔は助け合いなんてしないからな。あそこで動けない触手野郎も取り込んでやりたいくらいだ」

「それが、悪魔の本性ってわけか。だが、そこにいる以上、俺が逃がすと思うか?」

 透の挑発に、悪魔は笑いを返した。

「はっ、こんなもんで、本当の悪魔をどうにかできると思うなよ?」

 そう言うと、異形は腕を一振りして手近な【界壁】を破壊した。一撃である。透はさすがに驚きを隠せない。【界壁】は基本的な術ながら、かなりの強度を誇る術だ。それを一撃で破壊できるのはもはや高位の妖類と変わらない。

 今更ながら、透は冷や汗が出てくるのを感じた。


評価等していただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


次回は3月2日18時投稿予定です。

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