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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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47話

 蛇の異形は、地面を這うように透の方へ突撃してくる。群体で動く蛇にしか見えないそれは、結局のところ、どこに本体があるのかわからない。

「エネルギーの塊……実体はあるけど、なんだ? 閉じ込めれば行けるか?」

 そんなことを考えながらも、透は時折吐かれる液状の術を躱していく。この術があるから、安易に檻を使って閉じ込めるという行動ができない。だからといって、【界壁】でどこまで蛇の異形を閉じ込められるのかわからない。破るのにそれなりに時間はかかるだろうが……。

 透は、ちらりと腕の異形を閉じ込めている方を確認した。【界壁】の耐久はギリギリといったところだ。もう10秒程度で破壊されるだろう。つまり、【界壁】はもって2分程度だということである。2分で術を編むことは問題ないが、2分毎に腕の異形を拘束しないと動きづらいというのがなんとも大変な戦いだ。

「むしろ、腕のやつから倒すか?」

 透はそう考えて、もう一度腕の異形の方を見た。【界壁】で閉じ込めた向こう側の茨は、既にちぎられ、その傷口は、ふさがっている。超速で身体を再生する能力があるのか、それともエネルギーの塊だったはずの肉体を修復するのくらい訳ないことなのか、それは定かではないが、人間と戦うときと勝手が違う。

「腕を切り落としたとしても生えてきそうだな……」

 ますます面倒な戦いになったと透はうんざりした気持ちを抱えた。ただ、未だ全貌が見えていない蛇の異形よりも、腕の異形の方が戦いやすそうだということは確かなことに思えた。そもそも、悪魔たちの戦闘不能の条件がいまいちわからない以上、余計にわからない蛇の異形の相手をするのは、よく考えれば妥当ではない。触手の異形を戦闘不能にした術が、腕の異形に対しても効果があるのかもわからないのだ。

 透はまず、実験をするべきだと考えた。

「とりあえず、蛇野郎は閉じ込める! 玄武の鳴動、閉鎖し、箱を成せ、陽ノ三【界壁包囲】!」

 蛇の異形の方に、透は術を放った。何匹かの蛇を取り逃がしてしまったようだが、全体的な影は【界壁】で覆うことに成功した。中で抵抗する様子も見て取れる。それを視界に確認した所で、腕の異形に使っていた術が破られたのがわかった。高速移動するオレンジの光が目端に映る。

 咄嗟に錫杖を振るって、腕の異形の攻撃を弾いた。やはり、高速機動ができる敵は厄介である。ただ、この悪魔は異形の見た目通り、攻撃が大ぶりで読みやすいのが救いだ。鬼人のように武器を持ち、技量が高かったなら、透はここまで生き残れてはいないだろう。

「力が強いな! 押し返すので! 精一杯だよ!」

 腕の異形が力押しで繰り出す攻撃は、対応が容易であるとはいえ、驚くほど強く、近接戦闘はやはり得策ではないと悟る。とはいえ、高速機動が可能な能力をもっている相手に対して、少しの距離を稼ぐことが有効に働くとは考えづらい。やはり足止めのような手段が有効である事には変わりがないようだ。

「【刺線条(しせんじょう)】!」

 透の腕から一直線に放たれた茨は躱される。

「やっぱり一本じゃ効かないか。にしても、さっきよりも隙が無くて、距離が離しづらいな!」

 透は、腕の異形の攻撃間隔が段々と縮まっているように感じていた。よく見れば、大きかった腕の異形のサイズが少し小さくなっており、片腕だけではなく、両腕と手足が巨大化、胴体が極端に小さくなっていっていた。戦いながら、徐々に変化したらしい。

「こいつ、もしかして……!」

 胸板の厚さは変わっていないのに、ついに頭すらちゃんと認識できない身体になった時、透は確信した。

「やっぱり! 実体があっても、基本的な身体の組成は自分で変化させられるんだな! その、変えられない胸のところが、核ってわけかよ!」

 可変すると考えられる異形の身体を構成している肉体は、数秒に一度、波打ちながら変化していく。ぬいぐるみの中の綿が動くように、表皮にはさして変化が現れないため、多少の変化ではわからなかったのである。身体の変化が核を中心に起きているのは、解析眼が透に教えてくれていた。体組成が変化するとき、明らかに胸の中心に光が集まっているのだ。

 相変わらず、透には光の文字の内容までは理解できないが、それらの文字は、今まで見てきたどんな術とも異なっているように感じた。マリアの術とも、違う。悪魔たちの使う術は、人間や妖類が使う術とは根本的に異なるのかも知れないと、透は思った。体組成をリアルタイムで幻術ではなく変化させられる術なんて、聞いたこともなかったからだ。ただ、結局、術の枠を逸脱するほどおかしなことをすることができないという点では、安心できた。透が解析眼を通して見たところ、悪魔の術も所詮は術であり、自らの保有するエネルギーの総量を超えて使うことはできないらしいということがわかったからだ。

「ただ、わかったところで、今すぐに状況が好転するわけでもないんだけどな!」

 加速した攻撃をひっしにさばきながら、透はそう叫んだ。

 一連の戦いを経て、恐らくエネルギーを操る核になる部分が、どの個体にもあり、それをどうにかすることで、戦闘不能にすることができるようだということはわかった。わかったはいいが、現状の問題は、この近接戦闘を切り抜けられるかどうかだった。

 そして、もうすぐ腕の異形と戦い始めて2分が経過する。

 後ろの方で、【界壁】が砕ける音がした。

「チッ、間に合わなかった!」

 蛇の異形が解放されてしまったらしい。そちらの方を向くこともできぬまま、透はより面倒な状況になったことを悟った。このままでは、蛇の異形の攻撃がこの攻防の只中に放たれ、回復するのに時間がかかるほどのケガを負うことになるだろう。

「イチかバチかだ」

 透は、横薙ぎに振るわれた腕の異形の攻撃に自ら飛び込んだ。

「【界壁】!」

 透の背中に光の壁が現れる。それは、腕の異形の一撃で砕け散りながらも、透を直撃から守った。攻撃の余波で、透の身体は、宙を舞う。強い衝撃を背中に感じながらも、透の目は前を見据えていた。

 前のめりになりながら、ひざをついて、転がるように回転し、なんとか受け身を取って、再度立ち上がる。先ほどの場所から5メートル以上は吹き飛ばされている。あちこちに痛みが残るがそんなことを気にしている余裕はない。

 緊急回避的に体の場所が移動したことで、蛇の異形の攻撃は避けられたが、腕の異形はお得意の高速機動で襲い掛かってくるのである。また、同様に攻撃をさばくことになるが、蛇の異形とは離れることができた。

「けど! 術を差し込む余裕がねえ!」

 蛇の異形が近づいてくる前に足止めか、腕の異形への大ダメージを与えたい所であるが、距離をおいたにも関わらず、奴の接近が速すぎる。立ち上がった次の瞬間には、近接戦闘を再開しなければいけなかった。

 透は思わず渋面をつくる。その渋面は決意をしたが故のもの。大いに不服な、できればしたくない決意であったが、透は決めた。

「悪魔と物理で勝負して、勝つしかねえ」


評価等していただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


次回は2月26日18時に投稿予定です。

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