46話
ちょっと短いですね。
透が思うに、現状で一番面倒な相手は、腕の異形だった。恐らく高速戦闘が得意と思われる能力を有しているからだ。高速戦闘になれば、術を展開する余裕が無くなる。そうなれば、一気に3体から攻撃されて終わりである。
「着実に数を減らすのが最善だが……溶かされるのが厄介すぎるな」
そう、今一番の問題が、植物系の術を溶かされてしまうということである。つまり、蛇から倒すのが最善と考えていいが、決め手に欠けるのだ。
「触手は核部分を破壊すれば、どうにかなるだろうが、蛇の異形の身体の構造がわからん!」
透はいら立ちを声に乗せながら、襲ってきた腕の異形の攻撃を弾いた。続けざまに触手の攻撃がやってくる。蛇の異形がまたこちらに向かってくるのも視界に捉えていた。
「最悪のパターンじゃねえか」
透は攻撃をいなしながら、頭を回すには時間が足りなさすぎることを悟った。そして、効果は薄いが、時間稼ぎになる術を乱発した。
「【界壁】! 【界壁】! 【界壁】! 【刺線条】! 【刺線条】!」
コストがかからず、詠唱も短縮できるこのふたつの術ならば、多少近接戦闘をしている状況でも使用できる。精度は悪くなるが使わないよりもましである。
実際に、【界壁】のいくつかは、蛇の異形と触手の異形の目の前に出現し、攻撃を防いだ。【刺線条】の一本は腕の異形を貫いたが、大地と縫い留め、動きを制限するには至らなかった。そのため、即座にやってくる腕の異形の攻撃をさばくことになる。
「お前が、一番、術の発動を阻害するんだよ、この野郎!」
怒りの感情を込めつつ、錫杖で迫りくる異形の腕を突き刺した。貫通までは行かないものの、かなり深いところまで刺さった手ごたえがある。しかし、それ故に腕の異形がのけ反り、たたらを踏んだ。それに合わせて、身体がもっていかれそうになる。錫杖を失うのは避けたいと考えた透は、足を突き出すようにして、腕の異形から先端を引き抜く。
「っく、こいつら、血とか出ないらしいな。どれくらい弱ってんのか見た目にわからないのは、若干不安だが、ダメージは与えてるはずだ」
腕の異形が下がった隙に、透は呼吸を整えた。加えて、ほかの異形にも目を配る。【界壁】はもう破壊されそうな勢いである。早めに腕の異形の動きを拘束しておきたいと考えた透は、余裕があるうちに術を使った。
「玄武の鳴動。捕縛せよ。貫通せよ。芽吹け野バラ。陰ノ肆【刺線条:縛】!」
地面から伸びた茨が、大地に縫いつけるように腕の異形の動きを止める。檻ほど強い術ではないが、腕の異形はしっかりと止められる威力がある。これを必ず蛇の異形が溶かしにくるだろうと透は読んだ。ならば、術ごと腕の異形を覆ってしまえばいい。
「玄武の鳴動、閉鎖し、箱を成せ、陽ノ三【界壁包囲】!」
茨に拘束されている腕の異形の周囲に、半透明の妖力の壁が出現した。
「こいつは、触手が簡単に破ってくる。でも、仲間を助けに行くなら、隙が確実に生まれる……!」
結論から言えば、透の作戦は当たった。触手の異形が、自身の動きを阻害する壁を無視して、腕の異形の方へと寄っていった。蛇の異形は、はじめの拘束をした時点でその動きをとっていた。つまり、この瞬間、戦闘が始まってからはじめて、透が異形たち全員の注意から外れた。
透は、待ち望んだチャンスに、思わず口角をあげる。
「まずは、お前からだ! 玄武の鳴動。無窮。穿通。散華。枯れ咲け薊。陰ノ五【戦弓:若紫】!」
透の構えた錫杖から、紫の光がほとばしる。それは、幾本かの線となり、絡まり合って、尖った矢のような形をつくった。光の線は徐々に実体を持ち、茶色と緑のまじりあった植物の茎のような様相を見せる。だが、それを認識した瞬間には、その矢は放たれた。
一直線に進むその矢は、触手の異形が今まさに、身体を変形させている所に飛来した。そして、透が根元と見定めた部分に、深く突き刺さる。かと思えば、刺さった傍から、その矢は成長するが如く、前進をつづける。矢羽根にあたる部分からは、時間経過と共に、紫色の美しいアザミの花が、咲いては枯れを繰り返す。舞い散る花弁は、徐々に触手の足元に溜まっていく。
触手の異形は、その矢に苦しみながらも何とかそれをどけようと触手をうねらせている。しかし、その矢が外れる様子はない。深々と刺さったその矢は抜けるような様子も見せず、力をいれている触手をすり抜けていくようである。
透は、それを見て笑った。
「無駄だぞ。一回本体に刺さっちまえば、そいつはお前の身体を貫くまで抜けることはない。相手を穿つ、貫通することだけを目的に、咲いては枯れる特別なアザミだ。普通の生き物相手なら、こんなに長いこと残らないが、やっぱり、お前たちの身体の構造は特殊らしいな。無限に咲いてる」
透としても、賭けではあったのだ。果たして、身体の一部だけを吹き飛ばして勝てる相手なのかと。しかし、触手の異形には実体らしきものがあった。実体があるなら倒せそうではあるが、果たしてどうなることかと、透は悩んでいたのである。
そもそも、エネルギーの塊だったものが実体をもったとき、どうやったら倒したことになるのかは、透には正直わからなかった。エネルギーの全てを消滅させれば、勝ちだとしたら、透が触手に向けて先ほど放った檻の術は、術の機能で、敵を倒しきるまで閉じ込められる点から有効なはずである。もう一つ、とても大変な術で同じような効果を得られるものを、透は習得していたが、それを使うには時間がなかった。そこで、透は「身体を貫くまで無限に伸びる」という機能をもった術を使うことにしたのだ。悪魔の身体というものが、術にどのように認識されるかによって、結果は変わりそうだと考えていたが、透は賭けに勝ったようだと確信した。
触手の異形は、苦しみもがくことしかできていない。恐らく、エネルギーの塊だった悪魔は、前進が貫くべき身体だと判定されるのだろう。透が、勝ち筋を明確に見つけた瞬間だった。
「さあて、一体は恐らく戦闘不能にした。次は、どうするか……」
触手の異形もやられたのを受けて、蛇の異形はこちらに注意を向けてきた。そして、触手の異形が、恐らくどうにもならないことを悟ったのだろう。腕の異形の救出をやめて、透の方へ向かってくる。
「さすがに、戦いの中での判断がしっかりしてやがる。下級でもこれだけ賢いなら、悪魔の方が怪よりも厄介だな」
正直に言えば、透はまだ、蛇の異形への対抗策を練ることができていなかった。腕の異形の拘束がいつまでもつかわからない。早めに処理をしたいところであるが、遠距離で毒を吐き、近距離になれば沢山の蛇が襲いかかってくることが想像できる蛇の異形は、厄介な相手である。
「まずは、弱点探しからだな」
透は改めて錫杖を構えると、気合を入れ直すように、短く息を吐いた。
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次回は2月23日18時投稿予定です。




