44話
バレンタイン特別編とか書く余裕ありませんでした。
悪魔とは、どんな姿をしているのだろうか。透が道すがら疑問に思ったのは、そんなことだった。
エネルギーの権化たるマリアをもって、自分たちが負けることはないだろう。しかし、対峙するからには、きちんと戦って、きちんと成果を出したいと思うのが当然だ。そういう意味で、せめて人の形をしているのかどうかだけでも知っておきたかった。だが、マリアとジェームズの移動速度が速すぎて、ついていくのに精一杯だった。おかげで、ふたりが立ち止まるまで全力疾走である。
「はあ、はあ、着いた……?」
「うん。だけど、こいつは、厄介な相手だね」
「うむ。次元系の能力をもった悪魔がいるな。恐らく、爵位持ちだ。奴ら、それなりに本気だな」
「残念ながらそうみたいね」
マリアはあきれたようにため息をついた。ふたりのやり取りについていけず、透は困惑の声を漏らす。そんな透にジェームズが声をかけた。
「なに、そんなに緊張するな。次元を超える悪魔は一体だろう。悪魔狩りの彼女がそちらはなんとかしてくれるとして、我々は雑魚狩りだ。気張らずに、な」
「うおあ、はい」
バシバシと肩を叩かれて、変な声を出したものの、透は切り替えて臨戦態勢をとった。ジェームズが隣で、ゆるりと気をめぐらせているのがわかる。マリアが、前方からこちらを向いて右目を指した。透は、魔眼を発動させておけという合図だと勘づいた。
妖力を右目に集中させる。
「いくよ!」
透は、解析眼を通して、マリアの双眸からすさまじいエネルギーがあふれだしたのを感じ取った。そして、獰猛な笑みを浮かべたマリアがアクションを起こす。
「見つけた。【|血濡れの約束《Bloody Cuneus》】」
マリアが、両の手を虚空にかざす。すると、手首の辺りから鎖のようなものが飛び出した。赤黒く輝くそれは、先端がとがっており、まるで矢が放たれるように伸びる。その先端部が周囲の木の枝に触れようかというとき、空間が歪曲した。黒い謎の穴が空き、そこに鎖がスルスルと入っていく。その先が消えてしまったことで、鎖が違う次元に吸い込まれていることがわかる。
「でてこいっての!」
マリアが鎖を引っ張るようにすると、歪曲した空間の穴が広がり、そこから不定形の黒いモヤが出てきた。そのモヤがマリアによって地面にたたきつけられる。瞬間、モヤは拡散し、五つの塊に分かれた。
透は、解析眼を通して、それぞれのモヤがもつエネルギー量がなんとなく理解できてしまった。中央に浮かぶモヤの塊が圧倒的な存在感を放っている。そのモヤが次第にうねうねと形をつくっていく。そのモヤから声がする。
「ワタクシの次元に入り込んでくるとは、いい度胸してますねえ。ゴミども」
「汚い悪魔の分際で私たちの世界に入って来ないでくれるかしら」
「汚いとは生意気な」
そのモヤは最終的に、なめらかな鱗をもつ蛇の形をつくった。それは大蛇というに相応しい威圧感をもって透たちを見下ろしている。舌なめずりをするソレは、楽しそうに言った。
「ワタクシをこちらに引き出したことを後悔させてあげますよお? お前たちもやってやりなさいな」
その声に応えるように、ほかの四つのモヤも形をつくっていく。それらは普通の人型のように変わる。そのため、透は異形と対峙する必要はなさそうだと安堵する。異形と対峙することは、予測不能な相手と戦うということだからだ。
しかし、その安堵は束の間だった。人型をとったそれらは、体中に蛇を巻きつけていたり、身体の一部が鋭利な爪をもつ怪物のようになっていたり、中にはどこが顔かもわからない触手のようなものの塊らしきものもいた。おぞましい悪魔たちの姿を見て、透は若干の気持ち悪さを覚える。
その中に、一人だけ、顔の良い男性がいた。普通の人間とも遜色ない姿のソレが、この4体の悪魔の中では抜きんでて実力があるようだった。
「ほう。雑魚どもの集まりかと思えば、骨のありそうな奴がひとり紛れてるなあ」
「確かに。予想したよりも骨が折れそうね」
ジェームズの言葉に、マリアが応じる。それを聞いて、大蛇が嘲笑を浮かべるように口角を引き上げたようにみえる。
「勝てる気でいるなんて、おめでたい方々。お前たち、ワタクシは王に言われたとおりに、ミッションを遂行しますから、このゴミどもを始末しなさい」
「了解」
顔の綺麗な悪魔が、平坦な声で答える。ほかの悪魔はまともに音声を発せないらしい。大蛇は、先ほどと同じような空間の歪みを背後に作り出すと、そこに入っていこうとする。
「待ちなさい!」
マリアがすかさず、鎖を伸ばした。だが、それを人型の悪魔が、エネルギーの塊を放って弾く。
「行かせない」
「いいえ、行かせてもらうわ」
弾かれたことに、ピクリと反応したものの、マリアはそう言って姿をかき消した。
「な!?」
その場にいる全員が目を見開いて反応した時、空間の歪みの方からマリアの声が聞こえた。
「ふたりとも、そいつらよろしく! 私じゃないと、あいつは追っかけられないだろうから、私は行くわ! 死なないでね!」
全員が声につられて、そちらを見たとき、マリアの半身はもうすでに空間の歪みの向こうに消えていた。透は、最後に視線を送られていたのに気づく。そして、わかった。死ぬなというのは自分に向けた言葉なのだと。
透は、気合を入れ直した。
「俺があの美形をやる。お前は3体だが、多分、死にはしないだろう。いや、死ぬな。俺も死なないように戦うからよ」
「はい……やっぱり、アレは、ヤバい、ですよね?」
「ヤバいな。かなり。正直、ここまでの大物が出てくるとは思ってなかったよ」
ジェームズも苦笑いを隠さない。
透が大体の実力を、解析眼で分析したところ、あの美形はジェームズと同程度の実力をもっている。マリアがいればこちらの戦力が圧倒的だったが、マリアが抜けてしまった今、総合的な実力は伯仲しているか、相手の方が若干上である。この状態において、数的不利で戦うことの難しさを透は本能的にわかってしまった。
背中に、冷や汗が流れる。
「……やるか」
「はい」
ジェームズとの短いやり取りの後、それを待っていたかのように、美形が一言発した。
「戦闘開始」
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次回は2月18日18時投稿予定です。




