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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
44/93

43話

日付を勘違いしてました!

1日遅刻です!

「皆様、こんな場所ではなんですから、どうぞこちらへ」

 そのような火青(かしょう)の言葉にしたがって、一行は五重塔を降りていった。連れられて行ったのは、会議室のような場所だった。中央には、京都の立体図が鎮座していた。その立体図は、じんわりと妖気を纏っており、何かしらの仕掛けがあることが見てわかる。

「ここで、一応京都の中心部は監視できるようになっております。今のところ、全く異常は見られませんが、本当に悪魔が来るのでしょうか?」

 火青(かしょう)が使節団の面々に尋ねると、マリアが答えた。

「うーむ、やはり中心部には奴らも近寄らないか。ここの守護はやはり優秀だな」

「でも、京都の方面に来るっていうのは、正しい情報なんでしょ?」

「それはな。悪魔どもの情報を抜き取ってきたから間違いないはずだ。ブラフを掴まされたという線もなくはないが、それはないんだろう? ピーター?」

「ああ、こちらで一応裏をとったからね。京都付近で現れるのは確実だろう。ただ、どんな方法で現れるかは全然わからなかったよ」

 ピーターが肩をすくめながら話すと、マリアは鼻で笑った。

「小僧め、詰めが甘い……まあ、正直悪魔どもの動きが完全に予測できる方が気味が悪いって話よね」

「というわけで、我々は、この周辺を捜索することになるのかな」

 ピーターがヨーロッパ使節団の面々に確認をとるように言った。ジェームズは応じるように頷いたが、マリアは全く反応をしめさなかった。

 そのような様子のヨーロッパ使節団に対して、火青は気品のある声で反応する。

「私としては皆様がどこにいるかわかっていれば自由にしていただいて構いませんよ」

 白天は、仕草で困った様子を示しつつ、透に目をやった。透は、日本側の人員を割かないわけにはいかないということだと瞬時に察する。仁之助も同じくそれを察して、白天が言うよりも前に、提案する。

「あの、俺たちも、その捜索を手伝わせてください。日本側の人間が何もしないわけにもいかないので」

「それはありがたい。僕たちは日本の土地や文化には疎いからね。そうだな、強力な悪魔が現れたときに備えて、2チーム程度にわけようか」

「はいはーい! それなら私は透とチームね!」

「またか、吸血鬼サマ。こちらに損がないとはいえ、こっちにきてから自由すぎないか?」

「マリアはいつもこんなものだよ、ジェームズ。諦めるのが正しいのさ。吸血鬼の女王様だからね。傍若無人は標準装備さ」

 マリアはピーターにむっとしたように言う。

「小僧、王子様気取りのお前にも傍若無人さは標準装備だろうに、私だけが悪いような言い方をするなよ? お前のまずい血をすするぞ?」

「はあ、そういうところが傍若無人だっていうのに……まあ、いいですよ。では、とりあえず仁之助さんは僕と一緒に。メアリーもこっちだろうから、ジェームズはマリアの方だね」

「了解だ。よろしく頼むよ、透」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 ジェームズが差し出してきたのに応えて、透は手を握り返した。ジェームズの手は、魔術師というよりも格闘家というようなゴツゴツの手だった。身体も大きいので、戦っても物理的に全く敵わないだろうということを、透は瞬時に察知した。

 今のところ、透がジェームズと敵対する理由もないが、とっさに目の前の相手との実力差をはかってしまうのは、職業病だろうか。だが、これから捜索に行き、悪魔と対峙するかもしれないという状況においては、必要なことだと、透は思いなおす。その観点で言えば、マリアの実力も悪魔の実力も、正直わからないものだらけであることに気づく。

「中心部の南側、そうだな……大阪や奈良との境界付近を僕たちは探そう。マリアたちは、北側を頼む。捜索範囲が広いから、マリアの力がないと厳しいだろう?」

「ふん、なんでもいいさ。悪魔が来たら、速やかに連絡するように」

「わかってるよ。まったく、そう険悪な雰囲気をわざわざ出さなくてもいいのに」

「癖だから、気にするな。さ、行くぞ、透」

「お、ちょい、俺もいるぞ。マリア・ブラッド」

「デカブツ、お前はちゃんと透を守れよ?」

「なんで、ほんとに。はあ……わかったよ、行くぞ」

 そう言って、マリアとジェームズは部屋を出ていった。透は軽く返事をして、白天や火青に頭を下げてからついていく。火青はそれを見て、白天にぼそりと漏らす。

「彼も大変ですね。女難の相でも出ているのでは?」

「女難の相なんて言わないで。私の娘もきっと彼のこと好きなんだから」

「そういう意味で言ったのでは……まあ、ここで話すことでもありませんわね」

 火青は苦笑交じりにそう言った。白天が肩をすくめて他の面々を見ると、ピーターが先導して、こちらも動き出している所だった。こちらは仁之助が師弟関係のふたりに付き添っているような状態になっている。仁之助も部屋を出るときに頭を下げ、白天へと視線を送った。

 全員が部屋から出たのを確認して、火青が口をひらく。

「大丈夫でしょうか、京都の守りは万全とはいえ、周辺の守りまで強化しているかと問われると難しいですし、こちらの結界術師も実力者はおりますが、悪魔の階級によっては各隊の隊長格でなければ対処は難しいでしょうし」

「まあ、そうね。マリアがいれば心配はないと思うけれど、火青も出ることを考えた方がいいかもしれない。使節団の彼らの実力は高いみたいだけど、あなたが行けば基本的には大丈夫でしょう。私が動けないのは心苦しいけれど」

「それは仕方ないですよ。白天様は、日本中の結界術の要ですから」

 白天は申し訳なさそうな顔をする。火青はそれを見て切り替えるように話をふった。

「そういえば、悪魔ってどれくらい強いのでしょう。あの“邪竜厄災”のときのが、王クラスだったんでしょう? かなり大変でしたが、今回のはどのような……」

「ああ、それはあまり気にしなくていいわ。悪魔の階級は、王から下級まですごく多いのよ。だから、実際に対面するまでどれだけの力があるかなんてわからないの。悪魔の世界は、私たちとは違う次元にあるし」

「そんな奴らと戦わないといけないなんて大変ですよね……天使も似たようなものですか?」

「そうね。悪魔と天使が戦うなんて、昔は良く言ったものだけど、天使の降臨は宗教的な意味合いを強く持っちゃったからね、そう簡単に出てこられないんでしょ」

「なるほど。ちなみに、今回の悪魔騒動、マリア様が気合いを入れて悪魔狩りに臨んでいるのはなにか事情が?」

「そうねえ……」

 白天はそう言って、物憂げに五重塔から京都の南を見た。

「彼女にとって、日本と悪魔っていう組み合わせは、苦い記憶なんでしょうね。透くんが解決してくれるといいのだけれど」

 一方のマリア一行は、透に対して悪魔がなんたるか、魔術とはなにかを説教していた。

「いいか、透。悪魔は階級をもっている。王と呼ばれるいけ好かないやつらが一番上だ。下級悪魔という奴らがまあ、雑兵だ。奴らは普通の人間にとっては害悪だが、透程度の実力があれば、簡単に倒せるだろう」

「おお、下級でもその歳で簡単に倒せる実力があるとは、見どころがあるな。お前、俺の所で魔術を学ばないか」

「バカなことを言うなよ。透はこれから魔眼を極めるのに忙しいんだ。それに、こいつは祝福の縛りがあるからな。魔術を使えるようになるのは容易ではないだろうよ」

「何? 祝福もちか。それはまた逸材。しかし、そうか。何に縛られているんだ?」

 透はジェームズに聞かれて、答える。

「あ、植物というか自然の力しか使えないですね」

「なるほど、それはまた東洋らしい縛りだ。西洋の魔術はな、自然の力を利用する術だ。東洋のように、力を借りるという発想はない。ねじ伏せるのだ。制御下におく。だから、人間が使うのに適した魔術を開発しやすい。だが、日本の境界門のように特定地域における強力な術というのは生まれにくい。そもそも、術というのは……」

「やめろ。うるさい。魔術論の講義は他所でやれ。透に今必要なのは、悪魔の情報だろう」

「いやいや、下級はきっと倒せるんだ。ならば、彼の将来のために」

「いや、透は私が強くするのだ」

「え、いや、えー……」

 透はなぜか自分のことで言い争いが起きているのを見て、困惑していた。よくよく話を聞けば、ジェームズは魔術を教える学校の教師であるそうだ。北欧魔術学校の校長だという。力ある人間が要職に就くのは、日本と変わりないなと思いつつ、謎の熱量にあてられて透は疲れてしまった。話題を逸らそうと、透は声をかける。

「あ、そういえば、その、マリアさんがいないと、北の調査は大変だって言ってたけど、それはなんだったんですか?」

「ああ、あれの話か。決まっているだろう。千里眼だよ。現在のことなら、基本的には見通せるからね」

「じゃあ、わざわざ移動する必要なかったんじゃ……」

「次元が違うと、座標が近くないと見づらいんだよ」

 マリアがふくれるようにして言った。幼いそのしぐさをしているのが、何千年も生きる吸血鬼とは思えない。しかし、気合をひとつ入れると、透にウインクをする。

「まあ、見てなさい。当然、解析眼は使ったままね。千里眼の術の流れなんて滅多に見る機会ないでしょうから」

「え、ま」

「おお、魔眼持ちか!」

「じゃ、行くよ」

 ジェームズがますます目を輝かせるのを尻目に、マリアが千里眼を発動する。透も急いで解析眼を発動した。

 途端、目の前にあふれてくるオレンジの光の奔流。今までに見てきたものとは比べ物にならない情報の密度に、透の頭はオーバーヒートしそうになる。術の構成要素のひとつひとつの意味が、理解できない。理解しようとすればするほど、力の差に驚愕する。そして、これがマリアのもつ力の一部であることに畏れを覚える。

 一体、マリア・ブラッドという吸血鬼はどれだけの力をもっているのだろうか。

 透がそんなことを考えていると、マリアがにっこりと笑ってこちらを向いた。

「見つけた。こっちに5匹。面倒起こさないためにも、さっさと仕留めにいこっか」

 無邪気に笑うその姿は、解析眼を通して見ると、恐ろしい程のエネルギーの塊だった。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


次回は2月15日18時に投稿予定です。

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