42話
よろしくお願いします!
「さて、今回はこれくらいにしておこうかな。短時間で魔眼を使いこなすなんて無理な話だからね」
「はあ……はあ……なんで妖気使ってるだけで、こんなに疲れるんだ……」
「あはは、それは、魔眼がバカみたいに燃費悪いからだよ。私の千里眼の方がさらに燃費悪いんだから」
「でも、あんたは……」
「そうだよ。こんなもの、使いながら無限に戦闘できちゃうよ。私、最強の吸血鬼ちゃんだから」
ウインクを決めたマリアは、楽し気に笑った。透は、さすがにもう慣れたとばかりに、小さく息をはく。
マリアに突如、知らない場所に連れてこられてから、もう3時間。延々と魔眼の訓練をさせられて、このような物言いには慣れてしまった。
常人なら全く見ることができないはずの透の妖気の流れを完璧に見破り、少しでも乱れがあると細かく指摘をしてくるのだ。先ほどの、上から目線の物言いで。さらに、特濃の妖気を流し込んで攻撃してくる。静電気を浴びる程度の痛みだったが、目の部分に直接刺激がくるために、とにかく最悪の気分である。
妖気の刺激は物理的な痛みではないから感覚器官に影響はないものの、痛みがある分、学習するスピードが早かった。それについては、感謝しているが、突発的にこんな訓練をやらされたことには、複雑な気持ちがある。それに、この終わり方も唐突だった。
「いやあ、楽しかったよ。久しぶりに稽古をつける相手がいて。何年振りなんだろう。はやく千晶ちゃんにも稽古つけてあげたいから、ちゃんと治してね、透」
「え?」
いひひと不敵な笑みを浮かべて、マリアは指をふった。ここに来た時と同じように、金色と赤色の眩い光に包まれて、浮遊感を得る。
「またね、透」
マリアのそんな声が透の耳元に届いた時には、透の身体は、地面に立っていた。だが、目の前にマリアはいない。いたのは、休憩終わりで、伸びをしていた仁之助だった。
「お、透。戻ったのか」
「じ、仁之助さん。休憩、終わりの時間な感じですかね」
「うん、ちょうどね。なんでも、使節団、今から移動するらしくて」
「移動って、どこに?」
透が疑問を口にすると、後ろから女性の声が聞こえる。
「京都です。悪魔が日本に入ったかどうか、京都の結界を見て確かめるそうです」
「メアリーさん」
透たちが振り向くと、そこには、メアリーが静かに佇んでいた。メアリーは、手で招くように、社の方を示した。
「あの、白天様が、境界門で転移するから呼んできてほしいと言ってました」
「あ、ありがとうございます」
「そうか、境界門で移動するのか。やけに豪勢だな」
「使節団なんて立場の人たちなんだから、最上級のおもてなしをするのが当たり前なんじゃないですか?」
「まあ、そうだけど、富士の社の境界門は特別だからさ。日本に10か所ある主要な社のどこへでも移動できる上に、妖力を常に貯めてある。緊急用の境界門でもあるわけだ。だから、あんまり使わないはずなんだが」
「そうなんですか」
「あ、あのー……」
「あ。すんません、メアリーさん。行きましょう」
メアリーが頼りない声を出したことに気づき、透はサッと反応した。まだ少しびくびくしているメアリーの隣を抜け、透と仁之助は歩き出した。
社の内部、入り組んだ廊下を抜けて、社全体の中心付近にたどり着くと、ホールのような部屋があった。透は知らなかったが、仁之助とメアリーに導かれるように、その部屋へと足を踏み入れた。
部屋の中央には、透が今までに見たことのあるものよりも一回り大きな境界門が鎮座していた。その門には、門の後ろにある木製の箱から、管のようなものが伸びてつながっていた。透では、それが何なのかは全くわからない。
門の前には、使節団のほとんどと、白天が待っていた。いないのは、マリアとピーターだけだ。白天は透たちに気が付くとひらひらと手を振った。
「透くん、お疲れ様ー。マリアの相手は疲れたでしょう」
「あ、いや……」
「ほう、君がマリアや白天様のお気に入りかな」
後ろから若い男性の声が聞こえた。透が振り返ると、今いなかったピーターがこの部屋に入ってくる所だった。その後ろには、マリアもいる。
「私には様ってつけないの? マリア様って」
「僕は、同僚とは対等な関係でいたいんだよ。マリア・ブラッド」
「気に食わない笑みを浮かべてんじゃないわよ。ガキの癖に」
「あはは、僕にガキって言えるのは、多分あなたくらいだよ」
なにか、静かに火花が散っているような空気がふたりの間に漂っていた。それを察したのか、ジェームズが間に入る。
「まあまあ、ふたりとも。早く、移動してしまおう。悪魔が入ってきたのか、断定するのが早いに越したことはない」
「そうね。早く行きましょう。マリア、あなたも。仕事が早く終わるに越したことはないでしょう?」
「確かに。それはそうなのよね。あんたの便利な術で私たちを運んで頂戴」
「そのちょっと偉そうにするのやめて。それが無かったら、いいお友達になれそうなのに」
「あんたといいお友達って、ちょっと想像できないんだけど。付き合いは長いから、知り合いくらいで勘弁ね」
「はいはい。もう、私はそれなりに仲良くしたいと思ってるんだけどね」
白天は困ったような顔をして、境界門に手をふれた。すると、辺りに高密度の妖気があふれだし、境界門が起動したのがわかる。境界門自体の大きさが通常よりも大きいからか、透はいつもよりも強い圧を感じた。
透は、耳元でマリアが囁くのを聞いた。
「こういうときも、常に魔眼の練習をしておいて。境界門も、術のひとつ。複雑な術を見るほど、あなたの経験値も上がるでしょう?」
ハッとして、透がマリアの方を見ると、マリアはまた妖しい笑みをつくった。
境界門が起動する。透は魔眼を使って、視界に映るオレンジ色のパーティクルを追った。ほんの少しずつ、光の粒や線だったものが、意味のある記号に見えだしている。これは、明確に訓練の成果だろうと、透は思った。しかし、まだまだ、その意味を読み解くには至っていない。自分自身の勉強不足なのか、力を使いこなせていないのか、まだそれは透にはわからなかったが、手ごたえがある前進は思いのほか、嬉しいものだった。
「さて、行きましょうか。京都に」
白天がそう言って、境界門の中に全員を招き入れた。
一度に複数人が入れる境界門は珍しい。横並びの3人程度で足を踏み入れると、そこに広がっていた景色は、京都の市街地。その中心部だった。
「ここは?」
「妖類圏の、東大寺。五重塔の最上階。人類圏には、ここに立ち入る術も、こんなスペースもないけれど、大昔に術でそう変えたのよ。そして、ここの管理を今しているのが、この子」
先に境界門をくぐっていた白天が、移動してきた面々に向かって、奥から出てきた一人の女性を紹介した。その女性は、上品な所作と声で名乗った。
「火青と、申します。白天様の言いつけで、京都の社の守護を担当しておりますわ。よろしくお願いいたします」
その女性は、妖艶な笑みと青を基調としたあでやかな着物をきて、口元には扇子を当てていた。尻尾は7本生えており、耳も尾も、丁寧に手入れされていることがわかる。
「あんたの弟子の一人? あんたよりも、女王さまって感じで似合ってるじゃない」
「マリア、あなたも威厳のなさは私と似たようなものよ」
ふたりが静かにそう言い合っているのをみて、透は、似た者同士だなと素直におもってしまった。
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次回は2月10日18時投稿予定です。




