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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
42/93

41話

いや、今回ほんと、後半だけちらっと読めばいいかもしれないです。

必要なことは書いたんですけど、うまくまとまらなかったので……。

 “邪竜厄災”が起きたのは、日本の妖類から見れば、唐突な話だった。

 はじめに異変が起きたのは、京都だ。京都には、白天が過去、都が京都にあったときに主語のためにつくった社があった。現在もそうだが、京都の社は、火青(かしょう)という女性の妖狐が、守っていた。

 京都には様々な害悪から都を守るための装置が備え付けられている。東京もそうだが、都というものは、そのような防衛装置を建造するときから備えるものだからだ。そのひとつに、警鐘を鳴らす装置があった。それが、ある日突然、けたたましく鳴り響いた。

「えっ!? 何!?」

「悪魔の襲来だよ。平和ボケした日本の狐さん」

「誰!?」

「私は、マリア。悪魔狩りの、マリア・ブラッドよ。早く、あんたのところの白いの呼んできなさい。面倒なことになってるんだから」

 その警鐘が、マリアに対して鳴ったのか、その悪魔に対して鳴ったのかはわからない。けれど、確実に悪魔は襲来した。マリアはそれを狩りに来たのだと言った。朱火や火青ら、白天よりも若い狐は知らなかったが、マリアは世界でも名の知れた悪魔狩りだった。それ故に、最重要案件にしか手を出さない。白天はそれを知っていた。

 白天は、マリアとそもそも顔馴染みであり、来訪を知るとすぐに対策チームをつくった。マリアは、白天に簡単な情報共有を済ませると、出雲を見てくると言って飛び出した。マリアの言によれば、悪魔は冥界とのつながりにより災禍をもたらすため、日本の冥界の入り口を塞ぎに行くという事だった。白天はそのように話すマリアに言った。

「では、私たちは、熊野……紀伊の方へ参ります。戦力はどれくらい必要ですか?」

「最低でも私1人分と同じくらい!」

「では、私が!」

「あんたは社に残りなさい! 日本の防衛機能、落としたくないでしょう!」

「でも!」

「でもとか、言ってる場合じゃないの! 策謀の悪魔が降臨してるんだから! 面倒なのよ、あいつら! とにかく、穏便に済ませたかったらあなたは動かないこと!」

 朱火はその時知らなかったが、悪魔には千里眼のような能力を有するものもあり、策謀の悪魔はその類であったという。白天に動かないように言ったのは、マリアが同じ千里眼の持ち主であり、悪魔の想定した未来を防ぐためだった。白天が動けば、日本はその時に終わっていたかもしれない。

 白天以外の実力者が日本各地から紀伊に集まるまでの間は、わずかな時間であった。だが、妖類の実力者は自分の領地を守護するのに忙しく、招集に応じない者も多かった。事実、四国の狸たちは、招集に応じないどころか、九州の妖怪連合という組織をつぶしにかかったのだ。そんなごたごたのせいで、若干、結果術師たちや協力的な妖類の到着が遅れた。それが直接的な理由とは言い切れないが、紀伊の地域に轟音が響いたのは、そのすぐ後のことだった。

 同時刻、マリアは出雲で悪魔を一体狩っていたと、朱火は後から聞いたそうだ。つまり、計画的に同時に攻撃を受けていたということである。そして、それぞれの現場に、面倒の元が埋まっていた。出雲は神々の集う場所。悪魔に呪われたらたまらない。そして、紀伊……。

「竜が、眠っていた?」

 それまで黙って話を聞いていた珠姫が、口をひらいた。朱火の口から紡がれる話は、もはやおとぎ話のように聞こえていた。現実感のない話を、珠姫の現実に引き戻したのは、この土地だった。

 朱火は苦笑いで答える。

「いいえ。一般的に竜と呼ばれる幻想生物は、この島国にはいません。祀られていたり、たまに姿が確認されたりするのは、大陸から出張にきている神々です」

「出張? 神様が?」

「他の地域ではあまりない現象ですが、日本は多様な文化がまじりあい、無宗教の人間も多い国家ですからね。必要な時に必要な神様がいらっしゃることもしばしば。まあ、その方々が信仰の対象となるわかりやすいかたちとして、幻想生物の姿になられるのですが。その話は今はいいでしょう。邪竜厄災の邪竜は、幻想生物生物の竜ではないのです」

「じゃあ、なぜ……」

 揚羽が疑問を口にしようとすると、朱火が宙を指して言った。

「これですよ。これ。この禍々しい妖気や邪気と呼ばれるなにか。私でも言葉に表せない何か。コレの塊が、竜の形を成したのです。悪魔を核として」

「妖気に核……それって……」

「ええ、私たちが()と呼ぶ、幻想生物でも、妖類でもない、この世の理から外れた化け物。彼の悪魔の何が竜をかたどらせたのかわかりません。しかし、あの厄災の名前が“邪竜厄災”になるには十分な理由でした」

 朱火の話は続いた。

 悪魔により、邪竜の()が降臨する少し前に、優秀な結界術師が何人か出向いて、悪魔と対峙し、戦闘になった。しかし、彼らは歯が立たなかった。幸い、戦闘は妖類圏で行われたために、人類圏に被害自体はでなかったが、妖類圏の戦場になったヤツヒメの祠付近は大損害を受けた。その余波が、結界を超えて人類圏にも徐々にあふれていった。

 その状態から、人類圏への被害を決定的にしたのは、やはり邪竜の降臨だった。結界では押さえきれない量の強い妖気が、降臨と共に人類圏に流れ込んだ。はじめにいた結界術師が全員生贄となり、降臨させてしまったと考えられているそうだ。降臨の瞬間を見た者がいなかったために詳しくはわからないが、結果的に、妖類の実力者や他の結界術師は、邪竜降臨後に現場に到着した。降臨の衝撃で、人類圏にいた周囲の人間たちは、軒並み亡くなってしまった。対策部隊として派遣された術師たちは、まず、甚大な被害を受けて倒れ伏しているそれらの人々を見ることになる。境界が弱まっていたせいで、普段見えないはずのその状況が見えてしまったのだという。

「現場は混乱しました。なぜ、こちらの争いが人間にも波及してしまっているのか。この邪竜は一体何なのか。私たちが一瞬、固まってしまっている所に、マリア・ブラッドが、降ってきました。文字通り」

「降って?」

「そうです。おそらく、白天様がマリア・ブラッドを出雲から飛ばしてきたんでしょう。境界門の出口は、ここの上空でした……少し、あるきましょう」

 朱火はそう言って、3人を導き、森を奥の方へと進む。

 その間にも、朱火の話は続いた。淡々と。しかし、当時を振り返るように。

 マリア・ブラッドが到着したとき、彼女はすぐに、邪竜ではなく、境界を超えて人類圏へ駆けていった。邪竜もそれに興味を示した様子はなく、朱火たちも、マリアの到着によって頭を切り替え、本格的な戦闘にはいったという。

 それなりの実力をもつ結界術師が30人と、妖類圏の実力者が10人以上も参加する激しい戦いだった。結界術師が主に攻撃を防ぎ、妖類圏の者が反撃を行う。そのような陣形で戦っていたものの、邪竜の攻撃は苛烈で、多くの術師と、妖類が倒れた。特に、防御を担当していた者は8割方亡くなってしまった。

「ここです。ここが戦場でした。今お話したように、防御を担った多くの者が亡くなりました。奏姫様のご両親も、その時に亡くなったのです」

「ここで……」

 奏は、荒れた大地を手でなでた。

 3人が連れてこられたのは、何か祠のような建造物があったと思われる瓦礫が目の前に放置されている広場だった。おそらく、元々は神社の境内だったのだと、そう察することができる場所である。

 奏は、ぽつりとつぶやいた。

「あんまり、好きじゃなかったはずなのにね。ちょっと、感傷にひたりたい気持ちになっちゃうな」

「そりゃ、親がここで亡くなったって聞いたら、誰だってそうだと思うよ」

「彼らの犠牲は、尊きものでした。私たちは、死闘の末、人類圏から戻ってきたマリア・ブラッドと共に戦い、この地で邪竜を沈めました。()は、核ごと破壊するしか有りませんから、ちゃんと悪魔ごと滅ぼしましたよ。しかし、ご覧の通り、全ての邪悪な妖気を祓うには至りませんでした」

 祠の跡地に残留している妖気は確かに、それまでにいた山中よりも禍々しい気に満ちていた。それだけに、珠姫は気になっていた。

「大体は、わかったわ。何が起きてたのか。でも、肝心の透のことや、この場所で修行する理由を聞いてない」

「そうですね。まずは、日下部隊員の話からしましょうか」

 朱火は二人の間に入り、祠の跡を指さした。

「あれが、ヤツヒメ様の祠でした。マリア・ブラッドは、駆けつけたとき、人類圏のこの祠に向かったようです。それは、邪竜がヤツヒメ様の力を取り込むことで更なる力を得ようとしているからでした」

「そのヤツヒメ様って神様と、透は契約したって言ってたわね。神様との契約なら祝福でしょう? なんで呪いに?」

「そのことも説明しますよ。まず、日下部隊員の妹が邪竜の強い呪いを受け、マリア・ブラッドに呪いを上書きされて助かりました。それが、この祠の付近だったそうです」

「千晶ちゃんのことね」

 朱火が、元は賽銭箱だったと思われるものに触れた。

「そして、日下部隊員が、異変を感じて、妖気の立ち込めるここに入ってきたそうです」

「生身の人間が?」

 揚羽が身震いするようなしぐさをしながら声をあげた。朱火は笑う。

「そうなんですよ。あのきょうだいは、邪竜の呪いを生き残ったり、邪悪な妖気のあふれる場所に自ら来られる異常体質の持ち主なのです。きっと血筋そのものが優秀だったと思うのですが、千晶さんを守ったのか二人とも亡くなっています。日下部隊員は、彼自身の話だと、この祠に来る前に、ヤツヒメ様と出会い、契約を交わしたのだとか」

「じゃあ、呪いは……」

「これを話したことは、日下部隊員には内緒なのですが、彼の呪いは妹の呪いの一部を代わりに引き受けたものだと。それをさせてくれたのはヤツヒメ様だそうです。ヤツヒメ様は、今もこちらに眠っておられます。ここの邪気が祓えないと、お姿を見ることは叶わないでしょう」

「そう、なんだ……」

 朱火が少しかなし気な目をして言ったため、珠姫は思わずトーンダウンした声でこたえた。しかし、次の瞬間には、朱火は3人に笑顔を向けていた。

「ですから、ここの気を邪悪を祓える姫の御業。【祈り】の習得をしていただくために、ここにまいりました」

「【祈り】?」

 3人の声が揃った。

「ええ、各種族の直系あるいはそれに準ずる力の強い者だけが使える術です。あなたたちを立派な姫として育てるように、言われておりますので、短期間ですが、基礎まではできるように、みっちり修行しますよ」

「ええー!?」

 珠姫たちは、こんな重い話をして、切り替えるように現実的な課題をたたきつけられ、なんだか裏切られた気分だった。しかし、朱火の目が逃がさないと言っているのを、3人とも本能的に感じ取る。

 朱火の指示に従って、祠を後にすることになった3人には、哀愁が漂っていた。

 朱火は、彼女たちの気持ちを混乱させたことをわかっていた。正直に言って、“邪竜厄災”のことをここまで話してしまってよかったのかとも思っていた。そもそも、彼は姫たちに何も教えず、ただ【祈り】の修行をしようと思っていただけだったのだから。

 それ故に、駆け足で最低限のことを伝えるにとどまった。

 ただ、気持ちが乗らないのにこれだけ説明をしたのにはわけがある。マリア・ブラッドが、朱火のもとにメッセージを送ってきたのだ。珠姫、揚羽だけではなく、奏にまで、“邪竜厄災”の概要を伝えるように、と。

 朱火と白天は知っていた。マリア・ブラッドの行動には基本的に意味があることを。だから、仕事として、それは果たしたつもりである。だが、こういった指示を彼女が飛ばしてくる場合、大抵は、迷惑ごとの前触れであることを、朱火は知っていた。

(さて、どうにか、平和に世界が回ってくれますように)

 神々を知る朱火ですら、彼らに祈りたくなるような不穏な空気が、流れ始めていた。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


次回は2月7日18時投稿予定です。

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